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犬神様の乳母  作者: 高木一
3、誰が悪いわけでもない
32/81

3-3

 エルティオが立ち止まった場所は崖の数歩手前の所だった。高い所が苦手なわけではないが、恵は少し距離を開けて立ち止まる。エルティオの視線の先には崖の下に広がる景色が見えているのだろう。恵の視界には彼の体が邪魔をしているため、前が良く見渡せない。だからといって、嫌いな相手の傍に近づいてまで見たくはない。だが、ここへ来る前に言われた言葉も気にはなっていた。


「ここに来て見るがいい。これが、お前が放っておいたボイジー国の姿だっ!」


 その言葉は恵にではなく小梅に向かっていた。エルティオの瞳には恵の存在など入っていないようだ。青色の目は、恵の胸に抱かれている小梅を睨みつけていた。その視線を受けてなのか、それともエルティオの言葉を受けてなのか。静かに恵に抱かれていた小梅がもがき始めた。


 恵は暴れる小梅を落とさないように足元に降ろす。小梅は地面に前足がつく前に、飛び出すようにエルティオの傍へ近づいて行った。恵もその後を追う。近づくにつれ視線に入ってきた景色を見て恵は言葉を失った。


「なっ……」


 こんもりとした山々は、抉り取られたように土だけが剥きだしになっていた。その上に生えていたであろう木々はドミノ倒しのように薙倒されている。崩れた土砂が川を飲み込んだのか、一方には水が溜まり、もう一方には枯渇した石の道ができていた。多くの水を溜める力のない、分断によってできた湖からは水があふれ出ている。それは木々や土を巻き込み、人が住んでいた場所を一瞬にして壊したのだろう。泥水の上に浮かんでいるかのように、等間隔に並んでいる三角の形をした屋根がいくつも見えた。


 あそこで暮らしていた人たちは無事に逃げ出せたのだろうか。今もどこかで元気に暮らしていて欲しい。恵は、人の住んでいる気配を探そうと他の場所を探した。だが、そんな建物はどこを探しても見当たらない。その事実がひどく恵を不安にさせた。


「どうだ? お前がのうのうと暮らしている間に随分と回復したものだろう?」


 エルティオの言葉が理解できなかった。これのどこが回復していると言うのだろうか。


「貴様が勝手に逃げ出してから七十五年。やっと……やっと、ここまでになった。知らぬからと言って何もせず、暢気に散歩なんぞしている貴様たちにもう一度言っておく。俺は仔神であるくせにこの国を壊しかけたお前を許すつもりはない!」


「なっ、どういう」


「言葉通りだ」


 遮るようにエルティオの怒鳴る声が被さった。


 エルティオの言葉を真に受けたつもりはない。ないが、王の言うとおり恵は何も知らない。小梅が地球へ来た理由も、小梅と一緒に自分が来てしまった理由も。


「それは正しくありませんよ。エルティオ様」


 膠着状態だった二人の時間を再び動かしたのは、背後から聞こえてきた優しい声だった。






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