1-3
「待てよ」
小梅にフリスビーを見せつけるように、投げる構えをする。フリスビーから瞳を放そうとしない小梅の反応に顔がにやけた。
「レディー、ゴー」
手首のスナップを利かせ遠くまでフリスビーを飛ばす。恵の動きと声を合図に、小梅は一心不乱にフリスビーを追いかけ始めた。
フリスビーが風に乗って、ゆっくり飛び続ける。その間、小梅とフリスビーの距離はどんどん狭まっていった。
「ナイスキャッチ!」
小梅が空中でフリスビーをキャッチした。それを恵は自分のことのように、手を叩いて喜んだ。得意げな顔をして小梅が恵の元へ戻ってくる。
咥えたフリスビーを放さないように走る姿はいつ見ても恵の目尻を下がらせた。
その姿が突然、地面に縫いつけられたかのようにピタリと止まってしまった。恵は小梅の視線の先が、自分の後方を見ていることに気づく。嫌な予感を感じながら後ろへ振り返ると、白い布と黒い布が近づいてくるのが目に入った。人かどうかの判別が難しいが、きっと人間だろう。よく見ると魔法使いが着ているローブのようなフードで顔を覆っていた。足まですっぽりと隠しているため、白い手くらいしか見えない。
「小梅、待て」
小梅が走り出す前に捕獲しようとしたが一足遅かった。恵の声はあっさりと無視される。
小梅は咥えていたフリスビーを地面へ落とし、こちらに近づいてくる人たちに向かって走り出してしまった。人が大好きな小梅は、すぐ他者に興味を持ってしまう。相手側が好意的ならば問題ないかもしれない。だが万が一怪我をさせてしまったら。そう思うと早く捕獲しなければと、恵は心がはやる気持ちだった。