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犬神様の乳母  作者: 高木一
2、キニギアースの神様
28/81

2-10

「そうなんですよ。恵さんは、なぜかティヒア様の言葉がわかるようで……」


 井上が不思議そうに応える。しかしその口調は、どこか楽しんでるようにも聞こえた。


「へぇ、あんたすげーんだな」


 オルクも、オリスほどではないが驚いているようだ。


「別にすごくもなんともないと思いますけど? それより、小梅の役割って何ですか?」


 三人の興味よりも、恵には小梅の役割の方が気になって仕方がなかった。


「ああ、そうでしたね。私の口から説明するより、オリス殿とオルク殿に説明していただきましょうか? よろしいですか、お二方?」


「あー、いいぞ。オリス、説明してやれよ」


「はい。わかりました」


 簡単にオルクが了承したと思ったら、オリスに丸投げした。最初からそうするつもりだったのだろう。オリスはそれを気にもしていないようだ。きっとこの二人はいつもこういう感じなのかもしれない。オルクの尻拭いをいつもオリスがしている。そんな場面を恵は簡単に想像できてしまった。


「そうそう、恵さんにはこの世界の触り部分を簡単にご説明しましたので、それを踏まえてよろしくお願いします」


 もしかして、説明するのが面倒くさくて井上もオリスに丸投げしたのだろうか。そんな邪推をする。


「わかりました。では、世界が六つに割れた頃のお話をいたしましょう」


 オリスは恵の方へ視線を向けると、目を瞑り厳かに語り始めた。


「パテウス様とミゼア様がこの大地を踏む遥か昔のこと……」


「うわっ、何これ?」


 オリスが話している情景が恵の脳に勝手に映し出された。荒れ果てた大地、朽ちた木々、建てては崩される建造物。様々なものがスライド写真のように恵の脳に映し出された。


「大丈夫ですよ、恵さん。害はありません。心を落ち着かせて下さい」


 大きな声に、小梅も驚いたのだろう。小梅の体が一瞬で強張る。恵はそれをほぐすため、ゆっくりと小梅の背中をなでた。


 オリスは恵たちの行動を気にする様子もなく、目を瞑ったまま話を続けていた。恵も彼の声と共に流れてくる映像に集中するため目を瞑る。


「世界そのものが魔力を生み出すキニギアース。その尽きることのない魔力に人間たちは翻弄され、あらゆる災害がキニギアースの大地を覆った。ついにキニギアースが滅びようとしていた、そのときである。上空に二匹のつがいが現れた。それは犬にも、狼にも見えた。二匹のつがいが掛け合いながら遠吠えをすると、荒れ狂っていた大地は瞬く間に静まり返る。黒い毛を全身に纏っている大きい獣がキニギアースにある全ての魔力を使い、一つだった大陸を六つに分けた。そして白い毛を纏った小さい獣は人間たちの魔力を制御するために半獣を与えた」


 聞こえてくるオリスの声を聞きながら、恵は神殿の中に入るときに見た壁画を思い出した。


「人間たちはこのつがいを、犬神として崇めるようになった。神となったつがいたちは、五つの大陸を人間に任せ、中央にある小さな大陸から世界を見守ることにした。渇くことを知らない大陸から生み出される魔力。それを制御するため、各大陸に犬神は自分たちの仔を住まわせることにした。それぞれの大陸で一番魔力の強い者を王とし、王の血を犬神の仔に混ぜるようになってから、人間たちは大陸を守る神の仔を仔神として崇めるようになった」


 最後に見えたのは、歴代の仔神たちだろうか。人間や半獣たちと力を合わせてボイジーを守ろうとしている姿がいくつも映し出された。


 噴火した火山の被害を最小限に抑えようとしていた姿。川の氾濫から集落を護ろうとする姿。大量発生した鳥を調べる姿。大なり小なり、災害のレベルはあるだろうが、どれも仔神と王様らしい人物が率先となって国を護っていた。こんな危険なことを小梅がするのだろうか。あの、小梅を嫌っている王様と。


「以上が、この世界の犬神様と仔神様の成り立ちです。いかがでしたか?」


 何と言っていいのか、言葉が見つからない。ただ、仔神という存在が世界に、そしてボイジー国に、とても必要な存在だということはわかった。


 理解はしたからと言って、それを何もできない小梅にさせるとなると話は別だ。恵は頭の整理をしながら、小梅の首筋に顔を擦りつけた。






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