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「意思疎通なんて、小梅と私だってできます」
恵も小梅の言いたいことがわかる。でも、それは犬を飼っている人ならば大抵できることだろう。言葉が話せない赤ちゃんの意思を、母親が察するのと同じだ。
「あー、それなんですけど……麻由美に聞いたら、恵さんはちょっと特殊みたいですよ?」
「えっ、どこがですか?」
恵は、目を見開いて井上を見る。しかし、井上は肩をすくめるだけだった。
「なんとなく意思がわかるっていうのは良くあることよ。
だけど恵ちゃんの場合、小梅ちゃんと普通に会話が成立しちゃってるじゃない?」
「はあ」
当たり前のことじゃなかったのだろうか。物心ついたときには、小梅の言いたいことがわかっていた。だから、それが普通のことだと思っていたのだが。
「まあ、相手が小梅ちゃんですからね。
とりあえず、ホークが犬じゃないってことは理解してもらえましたか?」
「えっと、井上さんの仰った話の内容はなんとなくわかりましたけど……。
実感というかなんというか、そういうのはまだ……」
「まあ、そうですよね。
とりあえず、犬じゃないってことだけども頭の隅に置いといてくれればいいですよ」
重要な話だと思っていたが、井上の反応は随分とあっさりしていた。恵としても、その方がありがたい。ありがたいが、早く実感しなくていいのだろうか。井上の態度に、恵は逆に不安を覚えた。
「大丈夫ですよ。嫌でもすぐに実感しますから」
出た。背筋が寒くなる井上の微笑み。あの笑みを見ると、言うことを聞かないといけないような気にさせられる。
「はい」
恵は頬を引きつらせながら返事をした。そのときである。
「グルルル」
眠っていたはずの小梅が起き上がり、唸りだした。そして恵の右側にある扉を睨みつけたまま動こうとしない。
キニギアースに来てから、小梅の警戒心は強くなったように見えた。もしかしたら小梅も、自分と引き離されてしまう。そう思っているのかもしれない。
「どうしたの小梅?」
小梅を安心させるように優しく耳の後ろをなでながら声をかける。だが小梅の返事を聞く前に、井上が先に口を開いた。




