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「ここが、恵さんたちの部屋ですよ。不都合がありましたら何でも言ってくださいね」
これから小梅と一緒に過ごす部屋。そう案内された場所を恵は、かなり広く感じた。その上、部屋の中にいくつも扉がついている。
(ここって、王様と会った部屋よりも大きいんじゃない?)
淡いベージュの壁紙。中央より下にはこげ茶色の木がはめ込まれていた。床には格子柄の絨毯が敷かれている。汚れ一つ見当たらない、キレイな絨毯を土足で踏むのに勇気がいった。部屋の中央に木でできている長椅子とテーブルが設置されている。クッション部分にはシックな深緑の布が張られていた。家具は全て木製のようだ。丸みを持たせて作られているので部屋全体を柔らかくさせていた。
「ひっろい。すごいね、小梅! セレブしか泊まれない部屋みたい」
「ワフッ!」
「そうだよね。ここならボール遊びしても母さんに叱られないね」
小梅と目を合わせながら話していたが、小梅の興味は違う場所へ移ったらしい。テリトリー確認のためか、恵から離れウロウロし始めた。そんな小梅につられるように恵も、辺りを見回した。
「まずは、この部屋から見ようかな」
一番初めに目に入った赤茶色の木扉を開ける。そこは寝室だった。大人が四人くらい一緒に横になっても余りそうなほど大きなベッドがある。しかも、天蓋つきだ。この部屋の寝室なら、そうだろうと心のどこかで想像していた。しかしながら、恵の想像をはるかに超えている。
ピンク色がないだけマシかもしれない。ベッド全体が純白の刺繍で覆われていた。恵は乙女要素いっぱいの部屋に、居た堪れない気持ちになる。それ以上部屋に入ることができず扉を閉めた。
「す、すごかった」
「あちらの扉にはトイレやお風呂がありますよ」
恵の驚いた顔に、井上は満足したような笑みをうかべ、別の部屋を指差した。
「あれ、これって犬用の入り口?」
「ええ、そうですよ。扉が閉まっていたら、小梅ちゃんが移動できませんからね」
恵は井上の言葉を聞いて全てのドアを見直す。良く見ると全ての扉の下に、小梅が簡単に行き来できるほどの入り口が設けられていた。ぱっと見は同じ色の木枠に見えるので、ただの飾りだと思っていたのだ。
「なんか、至れり尽くせりですね」
「当然ですよ。仔神様である小梅ちゃんに粗相があっては大変ですしね」
「はあー」
得意げな顔で言う井上の言葉に頷くことができず、曖昧な返事をする。笑顔が引きつり気味な恵を見て、何か思い出したのか、井上が嬉しそうに笑った。
「そうそう、隣に私たち家族の部屋がありますので、何かあったら言ってくださいね」
「えっ、家族?」
「ええ、麻由美や子供たち全員でキニギアースへ帰ってきましたから」
麻由美とは、近所でも愛妻家で有名な井上武朗の妻である。見た目は綿飴のようにふんわり優しくて、内面は綿飴を支えている割り箸のように一本筋の通ったカッコイイ女性だ。そんな麻由美のことを恵は姉のように慕っていた。心強い相手がそばにいる。そう思うと恵は不安だったこれからの生活が、大丈夫な気がしてきた。




