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一体、何が起きたのだろうか。突然エルティオが怒りだして勝手に出て行ってしまった。恵にはそうとしか思えなかった。しかも、小梅に対してよくわからない言いがかりをつけて。犬好きだから良い人だと思っていたエルティオの評価は、最後の言葉で遙か彼方に下がった。小梅第一の恵としては、当然の結果だ。
「あったまきた。アイツ何様ー!」
「王様ですね」
大きな声で湧き上がる怒りを発散させようとする恵だったが、その問いに井上は平然と応えてしまった。そのせいで恵の勢いは殺がれる。
「うっ。そ、それにしたって、なんで初対面の人にあそこまで言われなきゃならないんですか!
アイツ絶対犬好きじゃないですね。犬好きだったら、あんな陰険にはならないですもん。
アイツの傍にいたカーディガン似の仔がかわいそう。いじめられてないといいな」
「いや、まあ、王にも色々と事情がありまして」
気を取り直して言い募る恵に、井上は言葉を濁した。
「しかも小梅が何か問題を起こしたみたいな言い方!
いくら王様だからって言っていいことと悪いことがあるでしょう」
「えー、まあ、そうなんですが、色々と事情が」
「事情、事情って、さっきから何なんですか? どんな事情があったって言うんですか?」
なかなか煮え切らない井上の珍しい態度に爆発する。恵は、唾が飛び掛る勢いで井上に詰め寄った。
「そ、その話は追々するとしまして。
先ほど王から許可をいただいたことですし、恵さんには小梅ちゃんのお世話をしていただきますね」
井上が、まあまあ、と胸の前に両手を出す。井上におざなりにされ、不貞腐れながらもしぶしぶ口を開いた。
「当然、小梅の世話をするつもりでしたからかまいませんけど」
「では、神殿内に部屋を用意しましたから案内しますね」
井上は、そそくさと部屋から出て行ってしまった。恵は喉に小骨の刺さったような、釈然としない気分になる。
「なんか気持ち悪い感じー。どう思う小梅?」
胸の中に抱えている小梅に視線を向けると、八の字眉下になってこちらを見ている小梅と目が合った。エルティオに睨まれ怯えているのだと察した恵は、小梅を勇気付ける。
「大丈夫だよ。小梅のことは私が守るから! ここにいても仕方ないし、行こうか」
恵は小梅を降ろしリードをつけて、井上の後を追うことにした。




