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犬神様の乳母  作者: 高木一
1、夢じゃない
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1-18

 一体、何が起きたのだろうか。突然エルティオが怒りだして勝手に出て行ってしまった。恵にはそうとしか思えなかった。しかも、小梅に対してよくわからない言いがかりをつけて。犬好きだから良い人だと思っていたエルティオの評価は、最後の言葉で遙か彼方に下がった。小梅第一の恵としては、当然の結果だ。


「あったまきた。アイツ何様ー!」


「王様ですね」


 大きな声で湧き上がる怒りを発散させようとする恵だったが、その問いに井上は平然と応えてしまった。そのせいで恵の勢いは殺がれる。


「うっ。そ、それにしたって、なんで初対面の人にあそこまで言われなきゃならないんですか!

 アイツ絶対犬好きじゃないですね。犬好きだったら、あんな陰険にはならないですもん。

 アイツの傍にいたカーディガン似の仔がかわいそう。いじめられてないといいな」


「いや、まあ、王にも色々と事情がありまして」


 気を取り直して言い募る恵に、井上は言葉を濁した。


「しかも小梅が何か問題を起こしたみたいな言い方!

 いくら王様だからって言っていいことと悪いことがあるでしょう」


「えー、まあ、そうなんですが、色々と事情が」


「事情、事情って、さっきから何なんですか? どんな事情があったって言うんですか?」


 なかなか煮え切らない井上の珍しい態度に爆発する。恵は、唾が飛び掛る勢いで井上に詰め寄った。


「そ、その話は追々するとしまして。

 先ほど王から許可をいただいたことですし、恵さんには小梅ちゃんのお世話をしていただきますね」


 井上が、まあまあ、と胸の前に両手を出す。井上におざなりにされ、不貞腐れながらもしぶしぶ口を開いた。


「当然、小梅の世話をするつもりでしたからかまいませんけど」


「では、神殿内に部屋を用意しましたから案内しますね」


 井上は、そそくさと部屋から出て行ってしまった。恵は喉に小骨の刺さったような、釈然としない気分になる。


「なんか気持ち悪い感じー。どう思う小梅?」


 胸の中に抱えている小梅に視線を向けると、八の字眉下になってこちらを見ている小梅と目が合った。エルティオに睨まれ怯えているのだと察した恵は、小梅を勇気付ける。


「大丈夫だよ。小梅のことは私が守るから! ここにいても仕方ないし、行こうか」


 恵は小梅を降ろしリードをつけて、井上の後を追うことにした。






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