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「で、そのバカ面の貧相な小娘はなんだ?」
井上の立ち上がる音とともに、バカにしたようなエルティオの声が聞こえてきた。伏せをしているクーリをボンヤリと眺めていた恵は、エルティオの発した言葉の意味を理解した途端、血流が顔へと上っていくのがわかった。
(バカ面って。初対面の相手に対して言う言葉じゃないわよ)
恵は気にしていない素振りをしながら、心の中で罵詈雑言を浴びせた。しかし、恵にかまうことなく話は勝手に続いている。
「こちらのお方は、地球でティヒア様をお世話して下さった方です」
「ほおー。ブロード、お前ではなく、その小娘が世話をしていたというわけか?」
エルティオは青藍色の瞳を細め、冷ややかな声を出すと品定めするような瞳で恵を見た。
(何でそんな目で見られなくちゃならないのよ)
エルティオに負けじと、恵も睨みつける。
「申し訳ありません」
「フン。まあ、良い。そのことについて、言及はしないでおこう。で、どうするつもりだ?」
飄々と謝罪する井上の態度が気に食わなかったのか、エルティオはそのまま話を進めた。
「はっ。独学ではありますが、地球で培った技術を我が国に活かしたいと。
あちらには色々と興味深い物が沢山ありまして。
既にいくつか試作品が完成しておりますので、王にもご覧になっていただきたいと」
「お前のことなど聞いてはおらん」
意気揚々と話し出した井上の言葉をエルティオが遮った。
「申し訳ありません。
ティヒア様においては、戻ったばかりですので当分の間は国に慣れていただこうかと考えております。
また、この方にはティヒア様のお世話をしていただこうかと考えております」
一瞬でエルティオの顔が怒りに変わった。ずっとエルティオを睨みつけていたから、恵はその変化に気づくことができた。
「己の役目も果たさず、いい身分だな」
怒りを押し殺すように低い声で言い放つ。その声に井上の息を呑む音が聞こえた。
今の話のどこに気に障わる場所があったのだろうか。恵には全くわからなかった。
ただ、エルティオが発した声や言葉を聞いてわかったことがある。エルティオは、小梅のことを憎んでいる。彼の言葉の端々は、小梅に対しての嫌悪しか感じられなかった。
「はっ。どうせ、居ても居なくても構わない存在だ。好きにするがいい」
エルティオは怒りを霧散させるように立ち上がると、こちらに向かって鋭いナイフのような視線を向けた。
「だが、覚えておけっ! これ以上面倒をかけることは、この俺が許さない」
小梅を指差して怒鳴りつける。そして、足元に従えていた犬と共に恵たちに背を向けて歩き出した。恵のいる場所からでは全く見えないが、エルティオの座っていた椅子の後ろに出入り口があるらしい。呆然と立ち尽くしている恵の耳に、力任せに扉を閉めた音が響いてきた。




