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「考えてもみてください。神が不在なんですよ? あり得ないと思いませんか?」
確かに井上の言い分はわかる。だが、恵にとって小梅は神ではない。大切な家族だ。だからこそ、どうしても信じることができずに足掻きたくなる。
「でも」
「不測の事態だったんですよ。あの時はそうするしか出来なかった。そうするしか……。
そもそも恵さんと小梅ちゃんは出会うことすらなかったんです」
過去に何か辛い思い出があるのだろうか。井上は苦しそうに眉間に皺を寄せたまま、遠くを見つめた。
小梅との出会いを否定する話を悲しそうな顔で言わないで欲しかった。その話自体を否定したいのに。その話題にこれ以上触れてはいけない。そう言う雰囲気が、井上から溢れ出ていた。恵は何も言えず、口を閉じたまま井上を見つめる。
「私にしてみたら不幸中の幸い。というか幸運だったんですけどね」
重くなった雰囲気を払拭するかのように、井上は、おちゃらけた声を出した。だが恵は井上の言葉を呑み込みきれないでいた。そんな恵を心配するように小梅が足元に擦り寄ってくる。ジーンズ越しに伝わってくる熱が、恵に力をくれた。
(小梅との出会いを否定なんてさせない。何があっても私は小梅と一緒にいるんだから!)
恵は心の中で決心した。
「さっ、中へ入りましょう。王がお待ちになっているはずですよ」
もしかしたら、王様に言えば帰してもらえるかもしれない。井上は無理だと言ったが、何か方法があるはずだ。
自分のひらめきに気分が高揚する。一気に、重苦しく感じていた空気が軽くなった。
希望を見出した恵は先を行く井上の後を追った。




