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初めましての投稿です。よろしくお願いします。
サラサラと葉の擦れる、優しい音が耳に入ってきた。頬をなでる温かな風が、草の匂いを連れてくる。背中に感じる柔らかで、弾力のある感触。篠山恵は、自分が仰向けのまま横になっていることに気づいた。このまま何も考えず眠りたい。そんな思いと裏腹に恵の脳は徐々に覚醒していった。
なぜ自分は寝転がっているのだろう。さっきまで凍てつくような寒さの中を歩いていたはずだ。それなのに今は、陽気な日差しが顔に当たっているような気がする。
次の瞬間。完全に覚醒した恵は、飛び起きようとした。
「こ…グェッ」
だが、腹部に圧し掛かった衝撃がそれを阻んだ。恵は十七歳のうら若き乙女にあるまじき声を発し、そのまま地面へと逆戻りした。
息が詰まるほどの衝撃と痛みのせいで、口も目も開けることができない。しかしあの衝撃が何であったのか恵にはわかっていた。
しばらくして落ち着いた恵は、地の底から吐き出すような低い音を発し、原因となった物の名前を呼んだ。
「こーうーめー」
あれからずっと、恵の腹部に乗っていた物体。それは篠山家の癒しの天使、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークの小梅、御年十五歳であった。犬の十五歳といえば、かなりの老犬なのだが、小梅に限っては一向に衰えを感じさせない。むしろ年を重ねるごとにパワフルになっている気がする。
毎回叱ろうと起き上がるからいけないのか。それとも純真無垢な顔を向ける小梅がいけないのか。今日もまた叱ることができない恵の敗北が決まった。
「……可愛いじゃないか、こんちくしょう」
円らなアーモンドのような瞳で、真っ直ぐこちらを見つめたまま首を少し傾げる姿を目の当たりにして、叱れるわけがない。かくいう恵は、毎回この姿に撃沈しているのだった。
蜂蜜色の毛をなで回し満足した恵は、小梅を抱えたまま辺りを見回した。
「どこだ、ココ?」
そこは見渡す限り緑だった。ところどころに常緑樹が生えている。しかしそれよりも、絨毯のように広がっているさまざまな緑が目についた。恵がイメージする草原そのものが、今、目の前に広がっている。
「私、こんな草原で小梅と遊んでみたかったんだよね。いつ寝たのか覚えてないけど、さすが私だ。うん、いい夢見るな。グッジョブ、私」
閑静な住宅街に住んでいる恵の近所には、こんな広くて大きな空き地などない。一度でいいから小梅と行ってみたいと考えていたことが夢になったのだろう。
「よし。小梅、遊ぼう!」
小梅の顔を見ながら恵は、勢いをつけて立ち上がる。
耳に掛らないほど短い自分の髪の毛を手櫛で整えると、誕生日に買ってもらった星型のピアスが手に触れた。
「ワンッ」
「ふふふ、何して遊ぶ?」
小梅の嬉しそうな催促を聞き、恵も気分が高鳴った。