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そして、墓真がいなくなってしばらく、あたしは空いていた近くの窓を閉めた。
それからほどなくして、出てきたのが夜耶。
墓真の様子を見計らって、夜耶は心配そうな顔を見せていた。
「夜耶、サンキュ」
あたしは、手を振って夜耶を出迎えた。
「菜々ちゃん、はい」
そういって、夜耶はあたしの二つの携帯電話を渡してきた。
一つは、赤いデコ携帯。
もう一つは人参のストラップの携帯電話、通称『霊体電話』。
「それにしても、無茶するね。いきなり飛んできて、ビックリ」
「何言っているの、あれをしないと結局、没収なんだからしょうがないじゃない」
あたしは、そういいながら携帯電話と『霊体電話』を受け取った。
実は、二階のここから窓の下は、中庭になっているわ。
窓の下を見たときに、あたしは夜耶の姿を見かけて、手を振って思いついたの。
だから、窓の下にいる夜耶に携帯を投げ渡したのよ。
「まさか、投げて来るとは」
「あたしは、腕力には自信があるわ。
こんなところで、役に立つとは思わなかったけどね」
我ながら正確無比なコントロールで、驚いてしまう。
「物理的に言って、放射線状に重力加速度と、重量を掛け合わせて……」
「ナイスキャッチ、ブレザー」
夜耶は、自分のブレザーを脱いで広げて、あたしの投げた二つの携帯電話を受け止めていた。
「ちょっと、傷ついちゃいましたよ」
夜耶は、口を尖らせていうが、あたしは苦笑いでごまかした。
「菜々ちゃん、ごめんね」
夜耶は、今度は申し訳なさそうに謝ってくる。
「うん、夜耶。あたし、目をつけられるの、慣れているから」
あたしは、夜耶に逆に笑顔を見せてあげた。
「そうだね、菜々ちゃんは宿題よく忘れるし、遅刻は多いし、モノは壊すからね」
「なに~、夜耶いったな~」
あたしは、逃げようとする夜耶の手をすぐさまつかんだ。
いたずらっぽく笑う夜耶に対し、あたしは返してもらった赤い携帯電話の画面を見せた。夜耶はあたしの携帯を見るなり、顔を赤くした。
「そんなこと言うんだったら、あたしの携帯の中に入っている夜耶の恥ずかしい小学時代の作文、ブログに載せるわよ」
「えっ、あわっ、ダメっ!」
恥ずかしさで顔が赤くなった夜耶は、あたしの携帯電話に手を伸ばしたが、取れなかった。すぐさま、謝るしぐさを見せた夜耶。
「ご、ごめん。それだけは許して、菜々ちゃん」
「まあ、いいわ。それより、あの墓真という変態堅物教師は、本当に厄介なんだから。今度から、ちゃんと気を付けてね、夜耶」
どれほど、携帯没収をされそうになったか。
携帯なら、まだしも『霊体電話』を取り上げられると、本当にまずいんだから。
「じゃあ、行きましょ。まだ、あの子は魂体のままだから」
あたしの言葉に、夜耶は静かに頷いたのだった。
そのまま廊下を歩き、社会科準備室に向かうことにした。