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「まずい、墓真よ!じゃあ、いくわね、夜耶」
墓真に巻き込まれては、絶対困る。
だから、夜耶を引っ張って逃げようとした。
「ねえ、何してたの?夜耶さん」
笹森さんは、夜耶に対してしつこく追求してきた。
「あっ、笹森さん」
すると、廊下の奥には一人の男子が出てきた。
その男子生徒は、あたしというより笹森さんに対して、手を上げて挨拶をしてきた。
「あっ、後藤君」
そういいながら、笹森さんはすぐさま男子生徒の方に駆け寄っていた。
あたしと夜耶は、そんな笹森さんを見送るなり夜耶の手を引っ張って、
「ほら、行くよ」
「うん、わかった」
煮え切らない夜耶は、ちらっと土器を見たときにそこから、
「どこに行くんだ?」
社会科準備室のドアが開いて、出てきたのが墓真。
いつも通りの強面が、明らかに威圧的な目で、あたしたちをじっと見ていた。
「なんだ?廊下でお前ら、何しているんだ?」
(相変わらず、不愛想なやつ)などと心の中で思いつつも、反射的ににこやかな顔を見せたあたし。
「えっ、ただ通りかかっただけですよ」
「はい、そうです」
しかし、次の瞬間だった。
「そうなの、この話はあなたに聞いてほしい」
ありえもしない女の子の声が、はっきりと聞こえた。
それと同時に、墓真の奥にいる土器に取り憑いていた女の子が手をこっちに振った。
ざらざらと砂音にまぎれ、聞こえてくる声に、墓真の眉間にたちまちしわが寄った。
(夜耶、慌てて電源を切り忘れたわね)
と、後悔しても、もうごまかしがきかない。
そして隣の夜耶は、慌てた顔を見せていた。
「まさか、携帯電話?校内は、携帯は禁止だぞ、鳳凰院 奈々」
「えっ、なんであたし?」
なぜか墓真は、あたしの方ににらみを利かしてきた。
そういえば夜耶は優等生だから、携帯は持っているイメージが、ないモンね。
指をさした、ジャージの墓真はあたしに詰め寄る。あたしは、二歩退く。
あたしに集中していることで、夜耶はポケットの電話の電源をうまく切ったみたい。
「鳳凰院 奈々、ポケットを見せてもらうぞ」
「な、なんでよっ!」
もちろん、あたしも『霊体電話』を持っている。
さっきまで使っていた『霊体電話』もポケットの中に隠してある。
だから、没収されるわけにはいかない。
手を伸ばしてきたジャージの墓真、あたしは身を隠そうとした。
苦い顔であたしは、咄嗟にあることを思い出した。
「ダメっ、セクハラ教師!」
「な、何を言い出すのだ、鳳凰院 菜々!」
一瞬だけひるんだ墓真の隙を、逃すわけにはいかない。
隣の不安そうな夜耶の手を、あたしは強引に引っ張った。
「逃げるわよ、夜耶!」
「えっ、あっ」などとうろたえるけど、あたしは脱兎のごとく墓真から走って逃げて行った。当然、墓真はあたしを追いかけてくる。
完全にあたしを狙っていることを知ったあたしは、廊下を疾走する。
そのまま、笹森さんたちのいる廊下の横をすり抜けた。
「ま、待て!鳳凰院 奈々!」
かくして墓真との追いかけっこが、始まった。