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ここは、きらびやかな繁華街にある裏路地。
そこもきらびやかだった、ちょっと怪しげなネオンが通りを彩る。
男の人が、客引きなんかをして、女の人はチラシを配っていた。
ファストフード店を駆け抜けたあたしは、路地のあるお店に入ろうとした、男の後ろにたどり着いた。
「見つけたわ!待ちなさい」
あたしが、声を発してその男を呼び止めた。
一瞬、あたしより大きな男の背中がビクっとして立ち止まっている。
そんな、男の前にある店は『セイなる教会』と書かれた西洋風の教会のような張りぼての看板と、それは教会ぽくない女の子の写真やら、アニメ絵がいやらしい格好(要は裸)で堂々と大きく書かれていた。
てか、この店はなんなの?いかがわしい店ぐらいしかわからないけど。
ここは、いわば歓楽街。周りも風俗なんかがお店を立ち並んでいた。
あたしの後ろには、息を切らした夜耶がいた。
腕組みしてあたしが、一歩前に踏み出すと、恐る恐るその男は顔を振り返った。
険しい顔で、あたしはその男を睨みつけた。
頭は坊主だけど、たれ目で丸顔、やや濃いひげの中年男性の顔はおののいていた。
あたしの顔を見るなり、ウチのパパは顔色がみるみるうちに青くなっていく。
「げっ、菜々ッ!夜耶も」
「あら、お父様、どこに行かれますこと?ここは、お通夜会場じゃありませんわ」
いきなり礼儀正しい声で、あたしは父親にプレッシャーをかけた。
あたしの言葉を察知してか、父親は一歩下がる。
けど、あたしは二歩、間合いを詰めた。
看板には可愛らしい女性の写真が、二万円という数字が書かれた場所。
近くには、看板持ちの女性も客引きをしていた、店の外観は楽しそうな
今頃はお通夜の家にいっている時間のはず。
職業が和尚だから、西洋風の教会なんか行くはずもない。
「その、つまり……これは精神統一の修行だ、うん。
「ここ、風俗ですね」
と、後ろの夜耶が思わず口にした。
あたしは、その言葉を聞いて「そう」とだけ漏らした。
「お経をあげる前に、風俗で精神浄化は大事だ。
身も心もリフレッシュした状態で、あの世に送ることが、通夜という儀式だ。
だからこそ、俺もリフレッシュしてだな……精神浄化してお経をあげたほうが、死んだ魂も浮かばれるというもだぞ、うん」
そういいながら店に、納得して入ろうとする父親に、猛ダッシュで近づいたあたしが強引に手を引っ張った。
「あんたが、リフレッシュしてどうすんのよ、馬鹿!」
あきれ顔と、ため息をつきながら右手を引っ張り、店に足を踏み入れようとした父親を外に出した。
こう見えても、あたしは腕力だけはなぜか自信があった。なんか、理不尽よ。
「菜々、や、やめろ!」
「さあ、あたしと今からお通夜会場に行きましょうね。
それとも、ここであなたをお通夜にしてあげましょうか?
あたしたちは、『鎮魂少女』だから」
あたしは、すぐさまあたしより大きい父親のシャツの首根っこを掴まえて、ずるずると引っ張っていった。
苦しそうな父親は、あたしの手を叩いてタップしてきたけど、無視してあたしは連れ帰る。夜耶は、それを見て苦笑いをするだけだった。
風俗店の看板から引き離された父親を、あたしはため息をつく。
「夜耶、行くわよ」
「う、うん……パパに容赦ないね、菜々ちゃん」
「当然よ、このエロ親父!」と、笑顔を見せつつ、あたしは父親を引き連れて、路地から撤退させた。