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それから夜、あたしは自分の部屋に戻っていた。
と言ってもあたしと夜耶は、同じ合部屋だから一緒だけどね。
あれから間もなくして、夜耶は女の子の鎮魂に成功した。
女の子は、本当に昇天して夜耶に看取られて現世を離れて行った。
部屋には、あたしは夜耶となぜか桃も来ていた。
桃は、座布団に座る夜耶の上にちょこんと座り、笑顔を見せていた。
無邪気な笑顔は、とても一個下とは思えない。
「夜耶お姉ちゃん」
甘えてくるショートカットの妹を、我が子の様にかわいがる夜耶。
はじける笑顔にちょっとだけ嫉妬を覚えながらも、あたしはテーブルで指をコンコンと叩きながらリズムを刻む。
不思議そうに、夜耶はあたしに顔を覗きこんでいた。
「菜々ちゃん、何しているの?」
「ああ、今度の文化祭の曲よ」
あたしは、夜耶に言われてギターを弾く真似を見せた。
「菜々は、ギターできるの?」
「できるわ、あたしは何でもできるの」
桃の流し目に、あたしは向きになって反抗した。
「まあ、お子ちゃまの桃には、できないでしょうけど」
「桃はいいもん、子供だから。
夜耶お姉ちゃんに甘えるの、一生食べさせてもらうの、結婚もするの」
などといい駄々をこねる、小さな桃。
「夜耶とは結婚はできないでしょ、桃」
「菜々姉も、『尼御前』やればいいのに」
桃の言葉に、あたしは口をふさがれた気がした。
「あたしは、もう決めているから。歌手としての道を」
「菜々ちゃんの、夢だもんね。仕方ないよ」
「あのさ、夜耶」
少し気まずそうなあたしは、夜耶に顔を向けた。
夜耶に抱かれた桃は、じっとおとなしく見ていた。
ちょっと間が開いて、あたしはずっと秘めていたことを口にした。
「夜耶はすごいよ、尊敬しちゃう」
「そんなことない!いつも鎮魂の時は菜々ちゃんに助けてもらって
……今回だって、そうだった……」
「ううん、夜耶はやっぱりすごい。
ずっと、一人で戦っていたんだもんね。
魂の苦痛と、後悔と、悲しみを受け止めて。あたしには、絶対できないもの」
隣にいた夜耶は、いつもちゃんと真面目に鎮魂していた、魂の声を聞いていた。
自分の夢のために、夜耶に押しつけた気がした。
それが後悔のような気がして、あたしは自分を責めていた。
でも、夜耶はあたしに対してにっこり笑ってくれた。
それだけで、あたしは懺悔の気持ちが和らぐような気がした。
「私も、菜々ちゃんの夢が順調そうで良かった」
「そうだね、菜々は我が儘だから心配だよ」
なぜか桃が口を挟んできた、あたしは桃のほっぺを軽くひっぱった。
「桃より、あたしは我が儘じゃないわよ」
「菜々は、わがまま、ちょ~わがまま」
などと何度も連呼する桃。
一個下の妹にムキになったあたし、それを見てクスクスと笑っていた夜耶がいた。
「仲がいいのね」
「そうね、そうかもしれない」
あたしは、桃のほっぺを引っ張るのをなんとなくやめた。
桃は、すぐさま頭を夜耶の胸に当ててなすりつけてきた。
そのまま、夜耶に甘えるふりしてあたしにあっかんべーをしてくる。
桃のヤツと思いながらも、あたしは夜耶に視線を上げた。
「ねえ、あたしはずっと考えていたんだ」
「何を?」
「あたしの歌と、夜耶の『尼御前』二つの共通点。何か分かる?」
「う~ん、なんだろう?」
夜耶は、いつも通り真剣に考えていた。
対面のあたしは、夜耶の考える顔をじっと見ていた。