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あたしの後ろで、桃と父親が固唾を飲んで見守っていた。

『霊体電話』を持ったあたしは、静かに口を開く。

「いい、よく聞いてね。これができないと、『尼御前』は失格だから」

大きく息を吸い、あたしは夜耶の『鬼火』へと歩み寄った。

あたしの近づく姿に、夜耶を取り込んだ女の子は、右手をプルプルと震わせながら手を伸ばしてきた。


「ダメ!菜々ちゃんを取り込まないで!」

『霊体電話』から聞こえる、悲壮な夜耶の声。

「何も、分かっていないわ」

それまで静かに聞いていた女の子は、夜耶を制してあたしを見ていた。

口だけは動かないけれど、その目は威圧的で悲しそうだった。


「あなたも、同じよ。これは、生きていくのに必要なことだから」

「なにを、難しいこと言っているの?」

「あなたも、夜耶もいい子ね」

あたしは、それでも笑顔を見せていた。

取り込もうとする赤い炎の女の子、その奥に見える夜耶の姿。

右手を伸ばした小さな女の子の手が、あたしのポニーテールに近づく。

少しだけ、怖かった。怖さのあまりに胸は、激しく鳴っていた。


「その子も同じ、夜耶も同じ。二人ともいい子だけど、逆に真面目すぎるの」

苦悶の表情を浮かべ、『鬼火』もあたしに近づいてきた。

熱い手があたしの髪に、触れた。じりじりする熱さに、噴き出す汗。

それでも、彼女たちにはちゃんと伝えたかった。


「だから、なんだっていうの?」

女の子は、ふてくされた声で言ってきた。

もちろん『霊体電話』から、聞こえてくる。


「あなたたちは、『話を忘れること』を忘れているの」

そう思ったとき、『鬼火』の手はあたしの髪から離れていく。


「世の中、現世はいろんな音であふれているの。

風の音、雨の音、人の話し声、動物の鳴き声、歩く音、走る音。

いろんな音が、現世にあふれているの。ううん、全てのものに音があるわ」

あたしは、不思議そうな顔を覗かせた女の子と夜耶の目が向けられていた。

心を落ち着かせて、あたしはさらに『霊体電話』に声を吹き込む。


「だけどね、耳は全ての音を脳に伝えることができないの。

周りには、音の情報が多すぎるから。

必要な情報だけを得て、それ以外は聞こえないようにしているのよ」

「本当、なの?」

「科学的に証明されているわ、でなければ脳は聞こえたすべての音を消化しきれない」

言いはなったあたしは、『耳のメカニズム』と言う本を見せつけた。

それは、笹森さんから借りたあの本。


「だからね、耳はそうやって自分のために必要な情報を判断しているのよ。

人間の体ではそうやってできるから、夜耶だってできるはず。ううん、そこの子も。

みんな、できる能力なの。才能の、あるなしなんかじゃないの」

「菜々ちゃん……」

声は夜耶しか聞こえないけど、目の前の女の子はうつむいた顔を見せていた。


「あなたも、悩んでいたんでしょ。いい子になるの、疲れたんでしょ」

あたしは、あの子の悲しみを共感し、否定しなかった。

父さんが言うとおり、あたしには『尼御前』の才能があるのかもしれない。

でも、それはあたしが望んだ道じゃない。


「だから、『話を忘れること』を、忘れているわ」

それは、『聞き上手の三条件』、最後の事。

それを聞いた瞬間、小さな夜耶は顔を強張らせていた。


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