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時間はすっかり暗くなって、北風が寒い今日。

コートを着たあたしと夜耶は、真っ直ぐ家に帰らず寄り道していた。

いつも通り、駅前のファストフード店に来ていた。

二階の窓際の席に向き合って座ったあたしと夜耶の、いつもの帰宅ルート。

店内は、あたしたちのような学生たちでにぎわっていた。


「本当に墓真は、しつこいんだから。この間だってあたしのスカートをいきなり計ってきて、5ミリ短いって、スカートの丈を直せってうるさいのよ。

全く理不尽極まりないわ、墓真のヤツ」

口を尖らせてあたしは、墓真の文句をいつも通り愚痴る。


墓真 隆太。生徒指導の先生で、ほぼジャージ姿の割に、本職は体育会系日本史教師。

アイツがスーツを着ている姿を見たことないわ、だからいつも体育教師に見えてしまうの。そして問題のあの校則を作った、堅物教師よ。

ジュースを飲みながら、夜耶はあたしの愚痴を共感しながら聞いていた。


「うちの学校、携帯持っていたら没収だから、ちょっと厳しいよね」

「ほんとよ!墓真のやつ、奥さんに逃げられたから、あたしたち生徒に腹いせにやっているんじゃないの?」

などと、ジュースを飲み終え不機嫌な顔のあたし。

あたしと夜耶のいるテーブルには、二つの携帯を置いていた。


一つはスライド式の赤い携帯電話、これは普通の携帯電話。

大好きな食べ物、チーズのストラップをつけて、シールをいっぱい張って、きれいにデコレーションされていた。

そして、もう一つはピンクの折り畳み式の携帯電話。

こっちは、大嫌いな食べ物、ニンジンのストラップをつけている。

これが特殊な携帯電話、ウチの父親曰く『霊体電話』というの。


「『霊体電話』は、ただの携帯じゃないの。だから、仕事に使う道具よ。

なんで、こんな携帯の形をしているのよ、間違いやすいじゃないの」

「菜々ちゃんの携帯なら、間違えないと思う」

夜耶は、あたしのデコ携帯をじーっと見ていた。

『霊体電話』は、魂(魂体)と話すことができる携帯電話。

『鎮魂少女』にとっては、必須のアイテム。

これさえあれば、あなたも『鎮魂少女』になれるかも。


でも『霊体電話』では一般的に通話はできないし、メール機能もない。

ただカメラ機能だけはあって、写真にして画像データとして保存できるわ。

そのカメラ機能は、『尼御前』になるのに必要なもの。

『鎮魂少女』は、鎮魂した魂をカメラに撮ってあの日のために備えるの。


ちなみにこれを作ったのが、あたしと夜耶の父親よ。

小学五年生あたりからずっと、持たされているわ。


「でも、本当に都立葛芝高は多いね、霊体」

「そうよね、このエリアの『尼御前』はさぞかし大変ね。

葛芝高は、戦争の時は兵器工場の跡地だったとか。

で、空爆で破壊されたところらしいわ。

だから、ひどい死に方をした霊体が多いから」

「うん、日本各地の僧侶や、尼御前が集結して、葛芝高近辺で大規模鎮魂『鎮魂祭(みたましずめのまつり)』を行ったぐらいですからね。

大暴れする魂体や、鬼火、彼らのさまよえる魂を……」

夜耶が、顔を暗くして言う。なんか、怖いわ。


「まあ、そうね。このあたりは、魂体にとっては住みやすい条件がそろっているみたいだから。でも逆に現在は、その名残で近隣の学校から魂体が集まってくるけどね。

そのお墓が、一部ウチにもあるし」

「うん、そうだね。今は、その残党の魂体を鎮める役目があるんですよ」

思わず持っていたポテトを持ったまま立ち上がって、雄弁と夜耶は語っていた。

なんにでも真面目で、特に『鎮魂』に関しては彼女の想いもある。


誠実に話す夜耶、そんな夜耶にあたしは協力していた。

あたしには、目的が別にある。

だけど、夜耶に『尼御前』になることは互いのためでもあるの。

ちょっと恥ずかしそうな顔で椅子に座った夜耶は、持っていたポテトを口に入れた。


「そう、今は魂体だからいいけど、魂が暴走して『鬼火』になったら最悪よ。

それじゃなくても葛芝高は、大量に魂体候補がいるし、」

「でも、みんな死にたくて死んだんじゃないよね!」

夜耶の言葉に、あたしの顔も夜耶の顔も曇った。


鎮魂の目的は、しがらみのある現世から悩みを聞いて解決するというもの。

だから、やることは一つしかない。

「魂体の話を、聞いてあげること。

現世に対してしがらみや未練がなくなるまで、徹底的に」

あたしと夜耶は、そう父親から教わった。


「夜耶は、やる気があってよろしい。夜耶なら、立派な『尼御前』になれるって」

「そう、だよね……」

でも、まだ不安そうな顔を見せた、夜耶。

ジュースを飲みながら、あたしは双子の妹の顔をじっと見ていた。


「でも菜々ちゃんは、『戒壇の日』が過ぎたらどうなるの?」

「いいわね、夜耶」

そんなあたしと対照的に、夜耶の胸は大きい。

それを単純に、羨望のまなざしで見ていた。


「菜々ちゃん、なんで私の胸をずっと見ているの?」

「なんか理不尽」

あたしは、羨望と嫉妬の感情をこめて大きな夜耶の胸を見ていた。

携帯会社の最大手の頭文字Dの大きさはあるだろうその胸は、

あたしの胸の携帯会社第三位の会社の頭文字Aをはるかに凌駕する大きさ。

要は、うらやましいわ。必要だもの。


「何が理不尽なの?」

「ねえ、夜耶。何を食べたらそんなに大きくなるの?」

「な、なにがですか?」

「それよ」と、あたしは大きな夜耶の胸を指さした。

夜耶はちょっとだけ考えるしぐさを見せて、横目であたしを見てきた。


「菜々ちゃんみたいに、好き嫌いないから」

などというと、あたしの頭に何かが刺さったような気がした。

「菜々ちゃんは、食べ物の好き嫌い激しいでしょ。

ニンジンはダメ、ピーマンはダメ、牛乳ダメ、納豆ダメ、あれもダメ、これもダメ……」

「あー、もう、親みたいに言わないでよ!」

「でも、菜々ちゃんは大人になるまでに好き嫌い無くさないと、いけないよ」

「ううっ、夜耶様のおっしゃる通りです」

あたしは、胸をつままれる気持ちでずっと夜耶の話を反省している顔で聞いていた。


「でも、菜々ちゃんは『鎮魂少女』にはならないの?」

夜耶は、真剣な顔でポテトを持ちながらあたしに聞いてきた。

「なんていうか、あたしに『鎮魂少女』は無理ね。

地味だし、面白くないし、基本的に聞いているだけ。

それにあたしには……」

あたしはストローを抜き出して、マイクの様に自分の口元に向けた。


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