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あたしと夜耶は、『鎮魂少女』。
それは、魂体を鎮める『尼御前』の候補生。
つまり、鎮魂少女が成長すると尼になるわけ。
人は、誰でも死んであの世に行く。
だけど、その死が納得できなかったり、ヒドイ死に方をしたり、強い後悔があった死だと、モノに憑依して魂がこの現世に残ることがあるの。
それを世の中では分からないものの総称として『幽霊』と、一般的には言われているわ。だから、あたしたち『鎮魂少女』が存在して、魂体を鎮める。
鎮めないと、大変な災いをこの現世に起こしてしまうから。
「話を聞くだけって、大変ですね。なんか、こっちまで重くなっちゃいます」
夜耶が、いつも通り鎮魂の後には重苦しい顔で述べる感想。
あたしも、ため息をついて、彼女に同意した。
『尼御前』のような強い力を持たないあたしたちの役目は、ただ『聞くこと』。
魂体を鎮めるには、いくつか方法があるけど、『鎮魂少女』のやるべきことは一つだけ。
ただ、魂体の話を聞くだけ。
お札で戦ったり、刀や錫杖で戦ったりってするわけじゃないわ。
そして、あの世にまっすぐに送り届けるのが目的。
その役目は、辛くて必ず後悔が残る。
「あの父親、曰く『聞くことは、決して簡単でない』よ」
「う~ん、重い話だからですね」
魂体の話は、重い話。
現世への恨みや、悔しさ、愚痴を延々と聞かされる。
逆に魂体が、明るい話をしてきても困るけどね。
そんな話をただ聞いてあげることで、魂体はかつて生きていた人生の恨みや悔しさから解放されて、あの世へ旅立てるわけなの。
あたしは、家庭科室の椅子に座って夜耶の顔を見上げていた。
「夜耶は、『尼御前』を目指すのね」
「うん、この仕事は好き。
何のとりえもない私が、みんなのために役に立っている、そんな気がするの」
夜耶は、この仕事に誇りを持っていた。高校生とは違う、魂を鎮める仕事が好き。
夜耶が、どうして鎮魂が好きかは知らないけど、それでもあたしは協力していた。
「夜耶は、本当に鎮魂が好きなのね」
「菜々ちゃんみたいに、いろんな性格があるわけじゃないから」
夜耶は、がっかりした顔でうつむいてしまう。
その時あたしは、家庭科室の方に向かってくる、一人の人間の顔を見つけた。
「あっ、夜耶、携帯隠して。墓真が来る!」
「えっ、あわわっ……」
静かな家庭科室で、夜耶は慌ててブレザーのポケットに携帯電話を突っ込んだ。
あたしの見える方角は、通路で墓真という男子教師が歩いていた。
年齢は四十代ほど、青ジャージの上下と四角い醤油顔の男。
いかにも九州男児っていう感じだけど、本当に九州男児だったりするのよ。
「全く、生徒指導の墓真は厳しいのよ。」
「携帯、見つけ次第、すぐ没収だもんね。これは特殊な携帯だし」
「そうよ、あたしたちは正義のスーパーヒロインだから!」
「それ、違うと思う」
苦笑いで、夜耶はあたしに同意していた。
あたしたちの持っている携帯は、見た目は普通だけど中身が違う。
墓真が、あの校則を作ってからあたしたちは随分苦労させられていたわ。
だからあたしたちは、墓真から逃げるようにこの場を離れることにしたの。