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誓いの言葉

 こんな世界――、

「…………消えちゃえ」

 

「おい、こんなところにいたのか」

 ふと、声をかけられた。柔らかなひどく美しい声。聞いただけで全て包み込んでしまうようなそんな声。

 周りを見渡してみると色々なものの中に彼女はいた。

 ぼくが座る暖かなベンチ。その後ろにそびえる高い苔むした巨樹。その向こう側に人工的のような白いタイルで覆われている、地面から一段低い所を流れる小さな川。そしてその奥の真っ白な階段の一番上に彼女は立っていた。

 背後に広がる青空と悠々と流れる雲がよく似合っていた。

 そして首を少しかしげてこんなことを言う。

「もう出発するぞ?」

 風になびく肩でそろえられた金色の髪。右の背中から生える白く猛禽類のような力強さが感じられる翼。特に肩の露出の多い、赤と白が基準となった騎士のような戦闘服。細く長く透き通るように白い手足。俺を不思議そうに見るキラキラと輝く両目。どこを見ても人間ばなれしているその可憐さはとても、とても美しかった。

「どうした? そんなくらい顔をして?」

 と、目が合ったぼくにそんなことを聞いてくる。

 こんなぼくを気遣ってくれる。

 こんな今にも壊れてしまいそうなぼくを。 

「どうしたのだ? 早く来ないと置いていくとラートが言っていたぞ。いつものように最初からとばしていくだとかなんだとか」

「……ねぇリラ」

 ぼくは彼女の言葉をさえぎって言う。

「ん、なんだ?」

「ぼくは――。……ぼくは、生きていていいのかな?」

 何をきいているのだろう、ぼくは。わけが分らない。

「なんだそれは? わけが分らないぞ」

 ほら、彼女も分っていないじゃないか。

 ぼくの頭の中でさまざまな意見が交差する。

 本当、ぼくは何て答えて欲しかったのだろう。ぼくは死にたいのだろうか。それともみっともなくあがけばいいのだろうか。

 よく分から――。

「まあ、死にたいといったら許さないがな。せっかくこのわたしが助けた命だ。無駄にする事は許さない」

 彼女は階段を一段一段ゆっくりと下りながらそんなことを言う。

 生きていても意味のない誰にも必要とされない、価値のないこのぼくに、死ぬな、などと言ってくる。

「でもまあ、どうしても死にたいというならわたしが今ここで殺してやってもいいのだが?」

 死ぬなといいつつ、殺してやろうなどと言う。

 どっちだよ。

 サクサクと芝を踏みしめて彼女は近づいてくる。

「だが貴様はそれでいいのか?」

「……なにが?」

 彼女はとうとうぼくの前までやってきた。

「あいつらに復讐するのだろ、諦めたのか? まあ、貴様が復讐せずともわたし達がやつらを殺してやるから別に心配せずに死ねるのだろうがな」

 復讐。俺の全てを壊したあいつらに、復讐。あの痛みを忘れたのか? あの苦しみを忘れたのか、ぼくは。

 違う。忘れるはずがない。そして復讐しないわけがない。

「……いや、諦めるわけがない」

 そうだ。ぼくは何を言っていたのだ。

このままで死んでいいわけがない。死んでいいはずがない。絶対に奴らを殺す。ぼくの世界を壊した奴らを潰す。

「……リラ。ありがとう。さっきのこと忘れてくれないかな」

「はっ無理に決まっている。弱気で面白かったしな。それに、なにか新しい始まりを告げるエピローグかと思ったぞ」

 楽しむのはいいけど、美少女がはっ、とか言うなよ。

 それに始まりを告げるにはエピローグじゃなくてプロローグだ。

 ぼくはため息を吐く。

「――うん。じゃあ改めてリラに誓うよ。もし破りそうなぐらい弱気になったら、今みたいに言ってくれ」

 何をだ? と彼女は笑いながら聞いてきた。本当は知っているくせに。

 ぼくは立ち上がってリラの隣に並ぶ。

 そして彼女の方を見つめ言った。

「ぼくはこれからあいつらを殺そうと思う。でも、まだ力が足りない。全然力がない。だからなにもかも利用してやる。それは君も一緒だ。ぼくは君を利用してあいつらを殺す。家族を、友達を、大切な人、大切な場所を奪われた復讐をする。それはきっと他の人からみたらぼく悪だろう。おかしいし狂っているだろう。でも、そんなことどうでもいい。ぼくはあいつらを殺す、それだけだ。ぼくは別に主人公じゃなくていい。ただの悪魔でいい。いや、悪魔みたいにかっこいい存在でもなくていい。別に道に転がっている石ころでもいいし草でもいい。だから君の力を貸してくれ。ぼくも君の望むものへと運命をゆだねよう。これからどんな不幸が訪れようと、ぼくが受け止めよう」


「だから、ぼくを一人にしないでくれ」


 日差しが眩しい。風が心地いい。気分がいい。

 なにより、ココロが晴れた。

 リラは軽快にハハハと笑う。

「それは誓いのつもりなのか?」

 彼女は手を伸ばしてくる。

 涙が流れているぞ、とぼくの頬を撫でる。

「いいだろう、力をかそう。わたし達の未熟な力でいいのなら。共に復讐者となろう。運命を恨もう。蔑まされても、恐れられても、嫌われたとしても――


 わたし達はもう、仲間だ」


 彼女はそのまま、ぼくを抱きしめた。

 ぬくもりが伝わってくる。

「……暖かいなリラ」

「そうだな。……しかし、最初からとばしすぎじゃあないのか?」

 最初ってなんだよ。

「まあ、それでいいんだよ。もともとぼくたちは壊れているのだから。周りを追い越すためにも速く進まないと。それに――」

「それに?」

「我がリーダーの方針だろ?」

「……そうだな」


 木の葉からこぼれる暖かな日の光は静かに、でも優しく照らしていた。

 運命をうらみ、傷つき、今にも壊れそうにもろいぼくたちを。

 そっと、照らしていた。


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