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No.441の審判  作者: 夜桜 冥


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4/5

肆の罪

断罪は痛みを伴う。しかし、その痛みが未来を切り拓く。

次に現れた男は、最初から泣いていた。


膝をつき、床に額を擦りつけ、

声にならない声で嗚咽している。


「……ああ……ああ……」


《対象:No.1184》

《罪状:詐欺/強要/傷害》

《証拠一致率:96.02%》


「……多いな」


思わず、そう呟いた。


男は、はっと顔を上げる。

目が合った瞬間、縋るように這い寄ってきた。


「た、助けてください……!」

「俺……間違えただけなんです……!」


首元に、いつもの光の輪。


逃げ場はない。


「……間違えた?」


俺は、少し首を傾げた。


「具体的に?」


男は、一瞬だけ言葉に詰まってから、

必死にまくしたてた。


「金が……必要で……」

「借金が……!」

「脅すつもりなんて……なかった……!」


記憶が、流れ込んでくる。


――深夜の駐車場。

――逃げ場を塞がれる若い女。

――震える声で、金を差し出す手。

――倒れた拍子に、頭を打つ音。


「……」


胸の奥が、わずかにざわつく。


でも、もう――

最初の頃みたいな痛みは、ない。


「……なあ」


俺は、しゃがみ込んで、男と目線を合わせた。


「もしさ」

「お前を無罪にしたら」


男は、息を呑んだ。


「……な、なんでもします……!」

「償います……!」

「一生……!」


その言葉を聞いた瞬間、

不意に、思った。


――ああ。

――“交渉”する気なんだ。


「……じゃあさ」


俺は、静かに言った。


「何を差し出す?」


男の目が、見開かれる。


「……え……?」


「命は、俺が握ってる」

「代わりに、何を出す?」


沈黙。


男の喉が、ひくりと鳴った。


「……な、なんでも……」


その答えに、

胸の奥が、ひどく満たされる。


――これだ。


裁いている、というより。

支配している感覚。


《残り15秒》


少女は、少し離れた場所で、何も言わずに見ていた。


止めない。

咎めない。


ただ、観ている。


「……なあ」


俺は、カードを見下ろしながら言った。


「お前が本当に後悔してるならさ」


「――証明してみろよ」


男の顔が、希望に歪む。


「は、はい……!」


《残り10秒》


その瞬間、

俺はまだ気づいていなかった。


――この世界では。

――“取引”そのものが、もう裁定だということに。


◆ ◆ ◆


男は、必死に頷いていた。


「やります……!」

「なんでも……!」


その姿を見て、

胸の奥が、静かに熱を帯びる。


――ほら。

――人は、命を前にすると、こんなにも素直だ。


「……じゃあ」


俺は、淡々と言った。


「許してほしければ――」


言いかけた、その瞬間。


《警告》

《裁定者の発言は、裁定に影響しません》


「……は?」


視界の端で、赤い文字が点滅する。


《残り5秒》


男も、それに気づいたらしい。


「え……? ちょ、待って……!」

「まだ……条件が……!」


「……あ?」


喉が、ひくりと鳴る。


「おい、待てよ……」


俺は、カードを見下ろした。


《有罪》

《無罪》


――選択肢は、最初から変わっていない。


「……ふざけんな……」


俺が何を言おうと、

何を要求しようと。


この世界は、

結果しか見ていない。


《残り1秒》


男が、叫ぶ。


「約束しただろ……!!」

「俺……やるって……!」


約束?


――違う。


俺は、試しただけだ。


「……っ」


だが、

その言い訳が、胸に引っかかる。


光が、勝手に走った。


俺の意思とは関係なく、

カードが弾かれる。


《有罪》


男の首元の輪が、急激に収縮する。


「……え……?」


理解が追いつかない顔。


「……話が……違……」


言葉は、途中で途切れた。


身体が、硬直し、

次の瞬間、砕けるように消える。


静寂。


《裁定完了》


俺は、しばらく立ち尽くしていた。


「……今の……」


「俺の意思じゃ……」


少女が、こちらを見る。


「違うよ」


「あなたは、ちゃんと選んだ」


「……でも……!」


「“選ぼうとした”時点で、もう裁定」


淡々とした声。


逃げ場は、ない。


「……じゃあ……」


俺は、低く言った。


「俺が、どんな気持ちで……」


「関係ない」


少女は、きっぱり言った。


「ここは、感情を量る場所じゃない」


「量るのは――」


「行為だけ」


その言葉に、

胸の奥が、ひび割れる。


――さっきまで感じていた、優越感が。

――一気に、冷えていく。


「……くそ……」


拳を、握りしめた。


「……俺は……」


少女は、少しだけ目を伏せた。


「No.441」


「あなたは、もう“裁く側”じゃない」


「……あ?」


「“裁かれる側”に、足を踏み入れてる」


その言葉が、

遅れて、胸に落ちる。


《次の対象を準備中》


光の輪が、また開く。


だが――

今回は、どこか違って見えた。


まるで。


俺自身を、待っているみたいに。

深い闇の中にも、ほんのわずかな光が射し込んでいた。


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