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8話 ぬいぐるみは最強で完璧でなくては

そんなことを考えていると、リア姉が何やらやることが終わったようで、扉の氷を消して入ってきた。


扉の外からは、母と父の声が聞こえてくる。


母「リア、待ちなさい! ユラ! さっきすごい音が鳴ってたけど大丈夫なの!?」


父「リア、この氷の拘束を解いてくれ! 一体どういう仕組みなんだ!? 俺でも解けないぞ!フッさすがは俺の子だな」


母「あなた!ふざけてないで。リアを....」


リア姉は彼らの声に耳を傾けることなく、僕の方へまっすぐ歩いてくる。


「ただいま、ユラ。……ユラ?」


リア姉は、ぬいぐるみを抱きしめた僕の本体をじっと見つめた。その青い瞳が、わずかに微動する。そして、一度視線を、僕がぶつかってへこんだアールの形の柱へ。再び視線を僕に戻し、今度は本体ではなく、僕が憑依しているアールをじっと見て……


「ユラちゃん?」


(え、まさかバレてる?)


僕は心臓が跳ね上がるのを感じた。


この天才の姉に、僕がぬいぐるみになっていることなど、一瞬で見抜かれてしまう可能性も十分ある?


リア姉は、ゆっくりと僕に近づくと、本体ユラをそっと抱きしめた。そして、本体に抱きかかえられている、憑依中のアールと本体の頭を、優しく撫で始めた。

「全くもう。いったい何をしていたの?」


僕の本体は、首をかしげる。わかりませんという風に。うん、僕らしい行動だ。オートモードすごい。いや、そんなことよりばれてないよね!?



「全く。壁に向かって投げちゃダメじゃない。そういえば、抱きかかえているもの、何?」


リア姉は、僕がアールを投げて壁をへこませたと勘違いしているらしい。まったく、常識の欠如している姉の想像力もどうかと思うよ。

そんな投げて壁どころか家の柱をへこませたと考えるのはどうかと思うよ、リア姉。


「……」


まあ、どうやら、僕がアールに憑依していることはバレていないようだ。

今のところは。


とにかく、このままでは話せない。僕は急いで憑依を解除し、意識を本体に戻した。


……体に戻る瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。

二つの意識が重なり合い、一瞬だけ――どっちが本物かわからなくなる。


「これは、ぬいぐるみ。アール、っていう名前」


僕はたどたどしい言葉で、アールを差し出した。


「ぬいぐるみっていうの? ユラちゃんが作ったの?」


何を言っているか、これくらいの単語ならわかる。僕はこくんと頷いた。


「ユラちゃん、あとで私の分もお願い。あ、ツインテールじゃなくて、ユラちゃんと同じストレートの髪型でお願い」


リア姉の言葉は、相変わらず難しい単語が多い。

しかし、その雰囲気と、彼女が身振り手振りで示している**『アール』**への視線から、言いたいことがなんとなく伝わってしまった。


(え、それだと、完全に僕のぬいぐるみになっちゃうんだけど……)


リア姉は、純粋な、そして異常なほどの期待の眼差しで僕を見つめている。

その瞳には、まるで僕の分身を欲しがっているかのような、熱い、ねっとりとした光が宿っていた。


「……わかった。あとでね」


僕がそう言うと、リア姉の顔には、今まで見たこともないような、この上ない幸せそうな笑みが浮かんだ。

彼女は満足そうに僕の頭をひと撫でてくる。

(リア姉は、僕を可愛いがってくれてる。『セカぬい』を作るために『信頼関係』を築く必要があるし、ぬいぐるみを気に入ってくれるのはうれしいんだけど、それでも、自分を模したぬいぐるみを作るのは少し恥ずかしい。)



そして、そのまま時間帯的に夜が近かったため、リア姉に抱きしめられながらベッドに連れて行かれた。

冷たいようで温かい姉の腕の中で、僕は身動きが取れない。心地よい、しかし少し息苦しい拘束だ。


「ユラちゃん。おやすみ」


リア姉の優しい声が、僕の耳元で囁かれる。

扉の外では、さっきまで拘束から抜け出したのであろう父と母が、部屋の扉を激しく叩いている。

「リア! いい加減にしなさい!」「ユラ、大丈夫なの!?」と叫んでいるが、リア姉はまるで子守唄を聞いているかのように微動だにしない。


やがて、父と母は諦めたのだろう。叫び声は止み、静かな夜が訪れた。しかし、静かになったのは外だけで、リア姉が設置した、頑丈そうな氷の扉のせいで、部屋の中は肌寒い。


仕方がない。


僕はリア姉が完全に寝入ったことを確認して、抱きしめられている体からそっと意識を抜き、アールに憑依した。


そして、アールに憑依した僕は本体を持ち上げる(よいしょ)

アールの体は身体能力がすごく高く、僕の本体の重さを全く感じさせない。姉の抱きしめという名の拘束から、本体ユラをそっと引き抜く。

でも、アールの身体能力は高いけど、僕本体は身体能力はよわよわ。

このままでは氷のせいで風邪をひいてしまうだろう。

僕はアールの軽い体を使い、本体に傷一つ負わせないよう慎重に、窓を開け、高速で僕自身の部屋へと運んだ。


自室に戻り、ベッドに本体を寝かせると、僕は憑依を解除する。


「ふう……」


ようやく、一人になれた。


外はもう深夜だ。家族もメイドたちも、みんな寝静まっている。静寂に包まれた部屋で、僕は今後の計画を練ることにした。


現状は

まず最高のぬいぐるみ『起源のぬい』アールが作れ、そして、『ぬいぬい』スキルが使えるようになったことで、『ぬいトピア』のための第一歩が踏み出せた。

そして、次の段階は、まず資金集めだ。


最高の**『ぬいトピア』を創るためには、膨大なお金が必要だ。どうせなら国を丸ごと買う**ような大規模なものがいい。ぬいぐるみがあふれる、僕とぬいぐるみのための国、理想郷。そして、その国を運営していくためには、**人員(新たなぬいぐるみ、『ぬいセカ』の素材)**も必要だろう。

僕の『ぬいトピア』計画は、この二つが土台となる。


お金を稼ぐ方法としては、盗賊を狩ったり、危険な魔物を討伐したり……。それだけではない。はたまた、裕福な冒険者でも構わない。


可愛いぬいぐるみの前では、盗賊も善良な冒険者も、等しく、さらなる高みに行くための土台であり、お金を持ったカモに他ならない。


「正義? 悪?」


そんなものは、最高のぬいぐるみの前では関係ない。


あえて言うなら、「可愛いは正義」。だから、ぬいぐるみが正義なのだ。それ以外は、ぬいぐるみの前では、どうでもいい。

僕はこの異世界をぬいぐるみのために利用し尽くすと決めたんだ。


僕の行動原理は、すべて**『ぬいトピア』を実現させること**。そして、その根幹には、前世で忙しさに追われ、全力で楽しむことができなかった趣味への強い未練がある。

この世界でなら、誰にも邪魔されずに、僕だけの理想郷を築き上げることができる。


(さっそく、今晩からでも始めたいとこだけど...)


僕は、胸の奥で燃え上がる衝動を、静かに押し殺した。


完璧でなくてはならない。

ぬいぐるみが敗北するなんて、あってはならない。

確実に、誰にも負けない、揺るぎない強さ、能力が必要だ。

それこそ、僕が転生する原因になった目眩と倒木のような「予想外」、「理不尽」が起きても対処出来るほどの万全な準備が。


僕は好きなことに対しては、決して妥協しない。

やると決めたなら、どんな犠牲を払ってでも成功させる。

――たとえ、それが常識や倫理を踏み越えることになっても。


今の僕にあるのは、規格外の魔力操作、そして途方もない魔力量。

それだけで、父や母には勝てるだろう。

けれど――天才なリア姉には、きっとまだ届かない。

リア姉の剣術と魔法の才は、僕の理屈を超えている。

言い訳をするなら、僕はスキルに夢中で、魔法については使い方も全くわかってないからだ。


そして、なぜかセリスにも勝てる気がしない。

(この感覚は、間違いない。この感覚は前世で身に着けたもので、僕の直感は、いつも当たる。)


だから今は、動かない。

焦るのは愚かだ。完璧を期すなら、徹底的に学ぶべきだ。

この世界の常識、魔法、言語、そして――スキル《ぬいぬい》。


スキルの奥には、まだ僕の知らない秘密がある気がする。

もっと深く、もっと効率的に、もっと美しく。

“完璧なぬいぐるみ”への道は、きっとその先にある。


「ぬいトピアを、完璧なものにするために……」


僕はアールを抱きしめ、窓の外を見上げた。

夜空には、無数の星々が煌めいている。

まるで、僕の理想を祝福するように。


(……これからだ)


僕は、そう心の中で呟いた。最高のぬいぐるみが、僕の隣にある。この最高のぬいぐるみ(アール)とともに、この世界に僕の理想郷「ぬいトピア」を絶対に実現させて見せる



ようやく序章オープニング終了。

次の章から本格的に始まる。

第一章

圧倒的なそして可愛いユラ(アール)による盗賊や冒険者狩り。

森での予想外の出会い。



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