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2章 4話 冒険者編

備考

主人公の名前について

ユラ、レア、アール この3つすべて主人公のことを示す。

ユラ:本来の名前

アール:ぬいぐるみとして活動するにあたって使っていた名前で、ぬいぐるみにつけた名前だったりする

レア:アールの名前がぬいぐるみの魔王として広く知られてしまったし、ユラと本名を名乗るつもりもない。だから、冒険者としてはレアと名乗る


ファイの炎がうねりを上げ、灼熱の奔流が訓練場を飲み込もうとした。 空気が震え、石畳が赤熱化する。あと一歩で、標的の男――ジ・エンペラーに到達する、その瞬間。


僕はその光景を、極限まで加速させた思考の中で、違和感の正体を探っていた。

(……動かない? いや、動けないのか。……というか、あれ)

視界の端。最強の名を冠する男の膝が、生まれたての小鹿のように、武者震いとは似て非なる情けないリズムを刻んでいた。僕の予感は、その瞬間に確信へと変わる。

「――まずいね、そこまで!」


即座に魔力を練り上げぬいぐるみの剣、『ぬい剣』を生成。二人の間へと滑り込んだ。 火花が散り、ぬいぐるみと金属のぶつかる音が鼓膜を叩く。受け流されたファイの一撃は軌道を逸れ、背後の壁を真っ二つに焼き斬った。ドロリと溶けた岩が赤く流れ、視界が白濁した蒸気に包まれる。


「えっ……ユラ!? な、なんで止めるの!? 私はまだ負けてない!」

 

ファイの鋭い視線が僕を射抜く。

肩で息をするファイの瞳には、まだ闘志の火が灯っていた。どうやら、自分が負けそうだから僕が助けに入ったのだと勘違いしているらしい。ファイにとって、目の前の男はそれほどまでに「絶対に勝てない格上」として映っているのだ。

僕は特に反論せず、肩をすくめてから、背後の男へ視線を向けた。

つられてその姿を視界に収めたファイが、ひゅっと息を呑むのがわかる。


「……もう勝負は、ついてるよ」


そこに立っていたのは、確かにジ・エンペラーだった。 腕を組み、不敵な笑みを浮かべたままの威厳ある姿。いまだ、周囲を圧伏するような圧倒的な強者のオーラを放っている。だが、至近距離にいる僕の目には、その瞳が完全に虚空を彷徨い、白目を剥き、口角から一筋のよだれが垂れているのがはっきりと見えていた。


……そう。彼は、ファイの繰り出す攻撃の恐怖に耐えかね、立ったまま完全に意識を失っていた。


「えっ……?」


ファイの口がぽかんと半開きになる。 訓練場を支配していた灼熱の緊張感が、一瞬にして喜劇的な脱力感へと変質していく。パキパキと、溶けた石畳が冷えて固まる虚しい音だけが響いた。


(本当に危なかった。僕が止めていなければ、彼は今頃、威厳を保ったまま消し炭になっていた。冒険者登録どころの話じゃない。それに……ここで死なせるにはもったいないな。これほど見事な『見かけ倒しの最強』というコンテンツ、そうそうお目にかかれない)


僕は小さく息を吐き、魔力で石畳の亀裂を適当に繋ぎ合わせながら、気絶した「帝王」の肩を指先でツンと小突いた。

「……うぅ。ここは……極楽、浄土……か……?」

なんか、とってもユニークな言い回し。

「違うよ。まだ現世。君、立ったまま寝てただけだから」


いや、正確には「気絶」だ。 今更ながら、これほどの灼熱と殺気の中で直立不動のまま意識を飛ばすなんて、ある意味では凄い。歴史に名を残す偉人や武蔵坊弁慶だって、まさか後世に「ビビりすぎて立ったまま気絶した男」が現れるとは思わなかっただろう。


「は、そうだ。俺は確か……」

彼は自分の身体をベタベタと触って生存を確認すると、魂が口から漏れ出そうなほど深い安堵の吐息をついた。

「生きている……。俺は、焼かれずに済んだのか……」

が、次の瞬間。目の前で剣を構えたまま呆然としているファイと目が合った瞬間、その顔面は一気に土気色へと変わる。

「ひっ、さっきの少女!? ま、待ってくれ! 悪かった! 私が悪かったから! すみませんでしたぁぁぁ!! だから殺さないでくださいっ!!」


ジ・エンペラー、音速の土下座。

帝王、床に沈む。


「……え、嘘でしょ」

ファイは毒気を抜かれたように、力なく剣を収めた。彼女の中で築かれていた「最強の男」という虚像が、完全に音を立てて崩壊していく音が聞こえた気がした。

「落ち着いて。誰も怒ってないから。ね、ファイ?」

「……ええ。もう、戦う気すら失せたわ」

「帝王」は、ほうっと魂が抜けたような溜息をついた。――が、僕を見るなり、今度は眼球が飛び出さんばかりに見開かれた。


「ぬ、ぬいぐるみが……喋ってる……!? しかも動いている……!?」

「そんなの当たり前でしょ。ここ、異世界なんだから」

僕が意図的に混ぜたその単語に、彼の肩が跳ねるように反応した。

さっき彼が漏らした『極楽浄土』なんて言葉、この世界の住人はまず使わない。鎌をかけてみたけれど、その過剰なまでの反応で確信に変わる。まあ、正直どうでもいいことなんだけどね。ちょっと気になっただけというやつだ。

「い、異世界……? 待て。今、『異世界』って言ったか? ……お前、もしかして、転生者か!?」

「うん、同郷みたいだねー。まあ、些細なことで、本当にどうでもいいことなんだけど」

「どうでもよくないだろ! でも……マジか。俺以外にもいたのか。しかも、人ではなくぬいぐるみ……」


ジ・エンペラー――いや、鬼怒は額を押さえて深いため息をついた。だが、その瞳からは先ほどまでの怯えが消え、同郷の知己を得た安堵の色が混じる。


「それで、僕たちは合格? 冒険者になれるかな」


僕が首を傾げて尋ねると、鬼怒はぶんぶんと首がもげそうな勢いで縦に振った。


「も、もちろんだ! 合格なんてレベルじゃない、何なら今すぐ俺がSランクの権限で特別推薦状を書いてやる! 中身は見ての通り救いようのないクソ雑魚だが、悲しいかな、望んでもいないのに名前だけは無駄に売れてるからな! 本当に、これっぽっちも望んでなかったんだけどな……っ!」


僕はあっさりとその特権を切り捨てた。一足飛びに頂点へ行くよりも、この世界のシステムを隅々まで味わい尽くす方が、僕の性分に合っている。


……というのは建前で、単純にこの未知の世界で「冒険者」として活動すること自体、ちょっと楽しみなんだよね。普段なら効率を重視して迷わず楽な道を選ぶところだけど、たまにはこういう回り道も悪くない。


(……まあ、本当の本当に面倒になったら、その時はその時で彼を利用させてもらうけど)


「……それより、君。なんでその実力で、そんな高い地位にいるの?」


僕が、純粋な疑問を投げかける。 すると鬼怒は、まるでダムが決壊したかのように、これまでの不運(?)の積み重ねを吐き出し始めた。

突然の転移。野生のウサギからの敗走。そして、無自覚な威圧オーラによる伝説の始まり。

勘違いが勘違いを呼び、いつの間にか冒険者の頂点へ。極めつけは、彼が何度も遭遇するという『氷漬けの魔物』の話だった。

「噂じゃ『俺が睨んだだけで魔物の群れが氷の彫像に変わる』なんて畏れられてるが……実際は、元から凍ってたところに俺が偶然居合わせただけなんだ! でも、運がいいのか悪いのか、毎回俺が第一発見者になっちまって。ギルドに正直に白状しても、なぜか『帝王の慈悲なき一撃』として受理されちまうし……!」

男は頭を抱えて絶望しているが、僕はその話を聞きながら、ある特定の人物の顔を思い浮かべていた。

(……氷漬けの魔物。うん、間違いなくリア姉だ)

リア姉は定期的に家の周りの魔物を掃除しに出かける。問題なのはリア姉 の「家の周り」という定義が常人離れして広大なことだ。隣町の手前だろうが、深い森の奥だろうが、リア姉 が「庭」だと言えばそこは彼女の狩場になる。

しかも、リア姉 はとにかく効率主義で、かつ絶望的にズボラだった。

素材としての価値がある魔物だろうが、希少種だろうが、リア姉 にとっては「邪魔な動く標的」に過ぎない。討伐のついでに広範囲をまとめて凍らせ、そのまま放置して帰ってくるのが日常茶飯事なのだ。

この男の「帝王伝説」の半分以上は、リア姉 が素材の剥ぎ取りを面倒くさがったせいで出来上がっていた。

もっとも、彼自身の纏っている「いかにも絶対的強者」な威圧感たっぷりのオーラが、その勘違いに揺るぎない説得力を持たせているのも事実だろうけど。


「……なるほど。よく今日まで生き延びたね、色んな意味で」

「本当にだよ! 毎日が綱渡りなんだ! ……あ、それと、お願いだ。俺が“クソ雑魚”だってことは、絶対に――」

「大丈夫。秘密にしてあげるよ。そのほうが面白いし、同郷のよしみだ」

「マジで!? 助かる! ありがとうぬいぐるみ様!」

「うん。感謝するといいよ。この最強で最高に可愛い僕に。……あ、そうだ。いいものをあげよう」


僕はにっこり笑い、ぬいぐるみを差し出した。 僕の脳内では、すでに楽しい楽しい「最高のシナリオ」が組み上がっている。


差し出したのは、黒とオレンジの配色に不気味な魔法陣の刺繍が入った、僕特製の『ぬいレイ・ハロウィンバージョン』だ。


今は、じりじりと肌を焼くような陽光が差し込む、真夏真っ盛りの時期。 季節感なんてものは、これっぽっちも、微塵も、一ミリも関係ない。


「これは? ぬいぐるみ……?」


「そう。僕特製のぬいぐるみ、ぬいレイ。効果付き。

 恐怖を周囲にまき散らし、雑魚なら自動で倒す程度の防衛機能つき。

 いわば、“本物の帝王補助ツール”」


「防衛手段……! 俺が、俺が一番必要としていたやつだ……!! これを、俺に?」 「うん、プレゼント。これで君が雑魚だということは、よりバレづらくなる」


感動に打ち震えた鬼怒は、勢いよく石畳に額を擦りつけた。 「ありがとうございます……! 俺、あなたに一生ついていきます!!」


「いったね? はい、言質はとったよ。……それじゃあ、僕が困ったら冒険者として全力で援助すること。それと、僕たちが活動しやすいように表で盾になること。あ、それとそれと――今日から僕の協力者として、その身も名前も役立てね」


「……え? いや、一生ついていくとは言ったが、それはその……日本人特有の言葉の綾だよ? あやだからね!?」


慌てて顔を上げる鬼怒に対し、僕は首をかしげて、とびきり無邪気な声を出す。


「だめだよ。言質はとったんだから。それに、秘密をバラされたくないでしょ? ということで頑張ってね、最強(笑)の冒険者ジ・エンペラー♪」


「可愛いぬいぐるみの姿をした悪魔かよ……。勘弁してくれ……」


鬼怒はがっくりと項垂れた。 だが、その表情はどこか晴れやかでもあった。 今まで、この世界の誰に「俺は弱いんだ」と真実を告げても、誰も信じてはくれなかった。皆、彼のオーラにひれ伏し、勝手に期待し、勝手に神格化する。いつ崩れてもおかしくない勘違いと、その場しのぎのハッタリだけで、命を繋ぐ綱渡りのような毎日。

誰にも弱音を吐けず、ただ「最強」の仮面を被り続ける――それは、終わりなき孤独な行進だった。


(初めてだ……俺を理解して、その上で笑ってくれる奴。……いや、ぬいぐるみだけど)


相手は同郷の転移者で、しかも自分より遥かに得体の知れない力を持っている。 利用されるのは癪だが、この「ぬいぐるみ」の前でだけは、もう虚勢を張らなくていい。その事実は、鬼怒にとって何物にも代えがたい救いだった。なにより、独りじゃないという感覚が、たまらなく居心地がよかった。


「……はぁ。分かったよ。もうどうにでもしてくれ。でも、できる範囲でな。それと、俺がピンチの時はちゃんと助けてくれよ?」


「善処だけはしよう」


僕が適当に請け負うと、鬼怒は観念したように笑った。

「善処って、それ絶対にしないやつだろ。」

そして僕が差し出した『ぬいレイ・ハロウィンVer.』を、今度は自分から、宝物を受け取るように両手で恭しく受け取った。


その瞬間だ。


――ドォォォォォォ……ッ!!!


空間が、悲鳴を上げた。 もともと彼のスキル『絶対強者』が放っていた虚飾の圧倒的なオーラに、ぬいレイが秘める恐怖の指向性と、禍々しい視覚演出が最高の形で噛み合ったのだ。


もはや、オーラ密度だけなら世界最強級。 日の光さえ届かない夜の闇に沈んだかのような錯覚。彼の背後には、巨大な死神が鎌を構えて座り込んでいるかのような、圧倒的な『静かな絶望』が具現化した。


「っ……!?」


隣にいたファイが、弾かれたように後ろへ飛び退き、反射的に武器の柄を握りしめた。 理屈では「彼は弱い」と分かっている。なのに、彼女の本能が「逃げろ、それに触れれば魂が腐る」と最大級の警報を鳴らし続けているのだ。もちろん、僕にはたいして影響はないけれど。


(なんか、すごいオーラだね。ものすごく面白そう)


当の鬼怒は、自分の背後に死神が鎮座していることには気づいていない。彼はそれどころではなく、さっき受け取ったはずのぬいレイが、もぞもぞと動いて自分の肩の上にまで這い上がってきたことに仰天していた。


「…なあ、これ、勝手に肩に乗ってきたんだが!? しかもなんか、耳元で『トリックandトリック』とか物騒な囁きが聞こえるんだけど!?」


「あはは、サービス精神旺盛だね。その子は数あるぬいレイの中で飛び抜けてイタズラ好きなんだよ。いいでしょ。君が黙ってても、勝手に周囲を威圧して『それっぽく』プロデュースしてくれるから」


「プロデュースって……! 俺をどうする気だ……っ!」


「決まってるじゃん」


僕は肩をすくめ、とびきりの「笑顔」を彼に向けた。


「面白く、だよ。もっと、もっとね」


「面白さなんていらねえだろぉぉぉ……!!」



---------------------



 そして僕たちは、訓練場を後にした。



 扉を開けると、そこには――

 まるで“決戦の帰還”を迎えるような熱気が待っていた。


 冒険者たちが一斉にこちらを見る。

 受付嬢も全員、息を飲んでいる。


「ジエンペラー様を相手に少女が無事だ……!」

「一体何があったんだ!?ジエンペラー様のオーラが強まっている!?まさか、中で歴史的な『何か』が起きたっていうのか……!?」

「ま、待て。あのぬいぐるみ、浮いてないか!?」


 みんな、半ばパニック状態だ。

 でもそれは仕方ないこと。ファイの一撃で訓練場の半分は溶け落ちているし、ファイは髪を揺らして魔力の残滓を纏ってる。

 その肩に乗ってるのは――ぬいぐるみ(僕)だ。さらに、ジエンペラーこと鬼怒は僕が渡したハロウィンぬいレイのおかげでオーラがマシマシ。


 受付嬢のエミリーが、蒼ざめた顔で駆け寄ってきた。


「ジエンペラー様っ! 訓練場から、ものすごい音が聞こえましたが……! 一体、なにが――」


「……。申し訳ない。試験場は当分、使い物にはならないだろう」

鬼怒は、低く、重厚な、鐘の音のような声で応えた。

「修復は簡易的に済ませてあるが……力の一端を使った。余波までは殺しきれなかったようだ」



 (うん。指示通り。彼のせいということにしておけば楽だし。というか、やっぱりすごい。完璧にオーラも口調も完璧。最初、僕でも強いか弱いか確信を持てないだけはある。

というか、どうして、そんなに嘘の言葉をすらすらしかも、すごい説得力ある感じで言えるか疑問である)


 その一言で、周囲が爆発したように沸き立つ。


その一言が、ロビーに火をつけた。

「おおおぉぉ……! やはり『帝王』の、真なる力の一端だったのか……!」 「あの防護結界を内側から食い破るあの一撃……! 訓練場を『簡易的な修復』で済ませるって、どれだけ規格外なんだよ!」 「見ろよ、あの娘を。帝王の全力(一端)を間近で浴びて、なお立っていられるなんて。彼女も相当な化け物だぞ……!」 「いや、きっとジエンペラー様が、ご自身の慈悲で彼女に及ぶ衝撃を肩代わりして守られたに違いない。ああ、なんて高潔なお方だ……!」

勝手な解釈が、勝手に伝説を作り上げていく。 そんな狂騒の中、鬼怒は表情一つ変えず、静かに宣告した。

「この少女と……このぬいぐるみは、冒険者としての資格がある。俺が保証しよう。手続きを頼む。……俺は用事を思い出した。先に失礼する」


 颯爽と背を向ける“帝王”。

 完全に“それっぽい”空気をまとっていた。

 ……なお、足はわずかに震えていた。

それに気がつくものなどいない。


 冒険者たちは総立ちになり、畏怖と共にその背を見送る。


「“帝王”が認めた!?」

「そんな前例あるか!?」

「ぬいぐるみも!?」


 その中で、エミリーが震える声で言った。


「……わ、わかりました。

 で、では……お二人はこちらへどうぞ」


 受付カウンターに戻ると、エミリーは緊張した面持ちで言葉を続けた。


「ジエンペラー様の推薦ということで、各種書類・登録料は免除いたします。

 では――お名前をお願いします」


「ファイよ」


 ファイは短く名乗る。

 そして僕は、念話で告げた。


(“レア”で)


 エミリーは肩を震わせ、思わず周囲を見回す。


「あ、あなたが……話しているのですか? ……」


(うん。最強かつ最高に可愛いぬいぐるみレア。よく覚えておくといい。あ、書くのは面倒だし任せていい?)


「わ、わかりました……レア様、ですね」


 エミリーは、動揺を隠せないまま、記入を続けた。


「それでは、冒険者になられる目的をお聞かせください。

 魔物討伐、護衛、情報収集……どの類でしょうか?」


 ファイは僕にちらりと視線を向けてくる。


(無難に。お金と情報)


「……目的は、資金集めと情報収集。

 それ以外に、人間と何をしろと言うの?」


その高圧的な口調に、受付嬢のエミリーの眉がピクリと動いたが、

すぐにプロの営業スマイルを取り戻した。


「承知しました。では、魔力量を測定します。こちらの水晶に手を触れてください」


「わかったわ。触れればいいのね?」

ファイが水晶に手を触れると――


「……ッ!? 測定不能……!? 数値が……三千を超えて、計測上限を振り切っています……!!」

ギルド全体が一瞬で静寂に包まれ、次の瞬間、怒涛のざわめきが巻き起こった。人間の限界値とされる数字を遥かに超える結果に、誰もが息をのむ。


「3000以上だと!?ありえないだろ!」 「まさか、記録を破る者が現れるとは……俺は今新たな伝説を見ているのかもしれない」 「さすがはジエンペラー様が認めただけある。ジエンペラー様はこのことを見抜かれていたんだ!」


ファイは、周囲の喧騒を鼻で笑い、冷たく言い放った。


「私の魔力を、人間の道具で測れると思うのがおこがましいのよ」


 ファイは冷たく言い放ち、手を引いた。


 次は、僕の番だ。


「レ、レア様も……こちらに」


エミリーはまだ動揺を隠せないまま、僕に水晶を示す。

「レ、レア様も……こちらに……」

(了解。さっきのファイで目立ちすぎたし、僕は徹底的に抑えて……よし、こんなもんかな)

僕は手を水晶に這わせた。


 


 ……結果。


「測定不能。えっと……魔力反応が、まったくありません……?」



エミリーは、困惑と恐怖が入り混じった表情を浮かべた。それもそのはず。この世界では草木から動物まですべての生物は、微弱ながら魔力を必ず持つ。魔力0は常識的にあり得ないのだ。ただ、そんな常識をユラが知る由もなく。ただ、一番目立たないように魔力を抑えていた、抑えるすぎていただけだったりする。


ギルド内のざわめきが、今度は戸惑いと疑念に変わる。


「魔力ゼロ?本当に生きているのか?ゴーレムでも微弱な魔力は残るはずだ!」 「Sランク帝王が推薦したのが、ただの縫いぐるみだというのか……?いや、動いてるのに魔力がないってどういうこと?」


(受付嬢が怪しんでる。魔力を完全に隠蔽するのはよくなかったかな?せめて1000ぐらいになるように調整しておけばよかったかも。でも、過ぎたことだ。受付嬢は、僕がぬいぐるみだからという理由で無理やり納得し、思考を止めたようだし、まぁ大丈夫そう)


 最後にスキル欄。


「最後にお持ちのスキル・魔法・戦闘技術などを記入してください」


 ファイは、僕に目で問う。


(空欄で。あんまり情報は渡すものじゃない)


「特に、ないわ」


 さらりと返すファイに、エミリーは苦笑いを浮かべた。


「……ない、ですか。……わかりました」


 僕も同じように空欄のまま提出。

結局、書き込まれたのは必須であった「得意武器」の欄だけだった。 ファイは『大剣(自称・初心者)』。 そして僕は――『ぬいぐるみ』。


 ぬいぐるみ・魔力ゼロ・スキル空欄・推薦はSランク帝王、得意武器ぬいぐるみ。

最後に一言。ぬいぐるみ最高。

 ――ギルド史上、最も意味不明な登録だった。


「これで登録は完了です。

 本日からFランク依頼を受けられます。……くれぐれも、ギルド内での騒動はお控えください」


 エミリーは魂が抜けたような顔で、二枚の銀色のプレートを差し出した。 ファイがそれを受け取り、僕の肩に乗せる。

「これでようやく正式に冒険者ね。ここまで、随分と遠回りさせられたわ」

(本当だね。入国拒否に始まって、変なのに絡まれて、最後はあの“ジエンペラー君”か。ハプニングのバーゲンセールだよ。もうさすがにこんなことはないと思うけど。それよりさっそく、ランクを上げないとね。目的はこれからだよ)

誠に勝手ながら、内容の再検討と多忙のため、しばらくの間投稿をお休みさせていただきます。


休止期間中に、これまでのコンテンツのブラッシュアップや構成の見直しを行う予定です。 再開は2月中旬頃を予定しております。


より充実した内容をお届けできるよう準備してまいりますので、何卒ご理解いただけますと幸いです。

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