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2章 1話 本格始動

今までの登場人物の振り返り(主要人物のみ)

ユラ    ぬいぐるみ大好きな白い髪で髪先は赤いサイドポニテ(高め)の少女


アール   ユラのぬいぐるみ。よくユラが憑依する。見た目はユラのツインテールバージョン。 大きさはバスケットボールくらいの大きさ


リア姉   ユラの姉。ユラを溺愛し、逆にユラ以外には冷たい。なんでもできる天才。


リュリュ ドジなメイド。ユラの秘密を偶然知ってしまってからというものユラに半強制的に仲間にされた。でも、お金を稼げて最近では進んでユラと活動する。テンションが上がると独特な厨二を発言し、ドジ要素もなくなり強くなる


セリス エルフであり、ユラとリア姉、ルルアの専属メイド 何か裏でやっている。すごく強い


ルルア 出会いは盗賊狩りをしていた時、牢屋にいて、そのままついてきた。流れでユラの妹となる。身体能力、魔法操作能力ともに壊滅的。しかし、整理が得意で、現在、ユラが集めてきた対象の物資の管理やぬいレイからの情報を整理してる


リュシエル まだ、謎多き存在。ユラがアールに憑依しても絶対に勝てないと思わせる唯一の人物。彼女は自ら青の大精霊と名乗る


ファイ 最近新たに仲間になった元赤の中位精霊。今ではよくわからないぬいぐるみの中位精霊になった。


ぬいレイ  ユラが作り出したぬいぐるみ。 白色バージョンや黒色バージョン、猫耳付きバージョンなどがある。◎の目が特徴。少し怖いようで可愛い。1体につき精霊(推定)を入れているため、明確な意志や知能はないが勝手に動き、簡単な命令なら聞ける。基本的には「誰かに動くところを見られないようにして自由に動きまわって」と言う命令の元動いている。 大陸中に散らばりすでに数千万といるだろう

ファイの体——精霊の核を宿すための特別な完全人型ぬいぐるみの体——を作ってから、しばらくの時が流れた。


最初の頃、彼女は僕に対してどこか怯えるような素振りを見せていた。リュシエルが僕のことをなんといったか知らないけど、まるで強大な何かまがまがしいものを見る目だった。その目で見つめる僕はリュシエルでしょと思いながら。まあ、当然ファイはリュシエルに対して一番怯えていることには間違いはなかった。


けれど、最近ではすっかり「ツン」が多めのツンデレキャラとして定着している。


「ちょっと、ユラ! この『ほうき』ってやつ、どうやって使うのよ。毛先がバサバサしてて、ちっとも言うこと聞かないんだけど!」


「ファイ、それは掃くっていうより、床を叩いちゃってるよ。優しく撫でるように動かしてみて」


僕が教えると、彼女は「ふんっ、わかってるわよ!」と口では言いながらも、なんやかんやと真面目に掃除を続けてくれる。面倒ごとを押し付けられるのだ。


彼女は精霊として百数十年もの時を生きてきたけれど、僕が「世界の縛り(ルール)」というまだあまりわかっていない概念から解放してあげるまで、何かに直接触れることも、干渉することもできなかった。彼女にとって、この世界のすべては、見えているのに触れられない、ガラス越しの景色だったのだ。


だから今、彼女はあらゆるものに興味津々だ。 スプーン一杯のスープの熱さ、布の柔らかさ、そして床を掃除するという行為そのものまで。でも、扱い方がさっぱりわからないから、結局は何をするにも僕を頼ってくる。


「……ねえ、これ、次はどうすればいいの?」


そうやって僕の顔を覗き込んでくる姿は、どう見たって「手のかかる妹」そのものだ。


けれど、ファイ本人はどうやら違う認識でいるらしい。 彼女は僕よりも頭一つ分以上背が高いせいか、時折、僕のお姉さんであるかのように振る舞おうとする節がある。


「ほら、ユラ。そんなところに座ってたら体が冷えるわよ。……別に心配してるわけじゃないけど、ユラに倒れられたら私が困るから、これを使いなさい」


そう言って、どこからか持ってきた毛布をぶっきらぼうに僕の肩に掛ける。その時の、少し得意げで、どこか慈しむような視線。


(……ファイ、もしかして妹が欲しかったのかな?)


僕にはルルアという、非の打ち所がないほど利口で可愛い自慢の妹がいる。だから、年上ぶろうとするファイの態度は、僕からすれば「背伸びをしたいお年頃の子供」が頑張っているようにしか見えない。


僕がこの世界のこと、物の扱い方、そして「ぬいぐるみの良さ、可愛さ」の真髄を教えてあげているのだ。 立場的にも精神年齢的にも、僕の方がずっと上。 ……まあ、本人がお姉さん気分で満足して、それで掃除も頑張ってくれるなら、否定するつもりはないけれど。


恩義を感じてくれているのか、それとも僕に構ってほしいだけなのか。 どっちにしても、懐いてくれているのは悪い気はしない。


「よし、掃除も一段落したし。そろそろ、みんなを集めようかな」


僕は肩の毛布を直しながら、ベットの下にある隠し部屋に向かいだす。実はこの空間は前より広くなっていたりする。これから始まる、僕たちの「理想郷」の話をするために。




昼。僕は、ファイとルルア、そしてリュリュを部屋に集め、今後の活動について作戦会議を始めた。窓から差し込む光が、部屋の埃を照らしている。まあ、この部屋に本物の窓はない。だって地下だし。魔法で本物と同じような感じで作ったに過ぎない。


「ルルア、リュリュ、ファイ。これから、そろそろ本格的に活動しようと思う。」


僕は、アールを抱きしめながら、皆に告げた。


「今までは、資金集め、物資集めだったけど、組織もシーラが作り始めてくれたし、そろそろぬいトピアを実現させる」


僕の宣言に、まず反応したのはリュリュだった。 「ついに、ついに動くんですかぁ! まさか、さらなるお金を稼ぐチャンス!?」 目を輝かせて拳を握るリュリュ。対照的に、ルルアも「ユラ姉、何をするの?」とわくわくした様子で僕を見つめている。


一方、新入りのファイは、呆れと戸惑いが混ざった顔で片手を挙げた。 「……ちょっと、ストップ。私が当然のように参加する前提なのは百歩譲るとして、そもそも何なのよ、その『ぬいトピア』って? さっきから単語の響きが不穏なんだけど」


「ぬいトピアは、僕とぬいぐるみの理想郷だよ。意志を持った可愛いぬいぐるみが、誰にも邪魔されず、のびのびと過ごせるぬいぐるみだらけの空間。……最高でしょ?」


「どういうこと……?」 ファイの頭上に、実体化したかのような巨大な疑問符が浮かぶ。 ぬいぐるみがあふれる国。そんな夢物語か狂気か判別のつかない計画、百年生きた精霊の思考回路でも処理しきれないだろう。


「とにかく! そういうことだから、拠点確保のために表舞台に出ようと思うんだー」


「お、表に……?」 僕がそう言った途端、リュリュの顔から血の気が引いた。

「ど、どうしてですかぁ! そんなことしなくても、今まで通り影からこっそり奪えば……じゃなくて、集めればいいじゃないですかぁ! 表に出るなんて、目立って危ないですぅ!」


自分の安全が最優先なリュリュは、必死に食い下がる。


そんな相変わらず自分の安全が最優先のリュリュを華麗にスルーして、僕は続ける。


「裏で動くだけじゃ限界があるんだよね。表の活動をしないでぬいトピアを実現しようとすればできなくはないけど効率が悪いことこの上ない。だから、それは決定事項。まずは理想郷の拠点にするための土地を手に入れたいな。あわよくば、国を丸ごと一つ、もらっちゃいたいんだけど」


「ユラ、さらっと恐ろしいことを! 国を『もらう』っていったい何?まさか、国に対して喧嘩をする気!?」

そんなわけない。国に対して喧嘩を売るのはナンセンス。だって面倒だし。まあ、たとえ僕にぬいぐるみに危害を加える奴がいたら国だろうと関係なしに潰すけどね。

ファイの驚愕の叫びが響く中、ルルアが冷静に僕を諭すように口を開いた。


「ユラ姉、さすがにそれは難しいと思うよ。お金はたくさんあるけど、国はお金じゃ買えないんだもん。そこに住む人たちの気持ちとか、積み重なった歴史とか……王様だって簡単には手放さないよ」


「うん。ルルアのいう通り。だから、これはあくまで理想の話。」 僕はルルアの頭を優しく撫でた。 確かにルルアの言う通りなのだ。確かに盗賊や冒険者狩り、先日の貴族の屋敷での「収穫」で、土地の値段分くらいの資金はある。けれど、無理やりお金で買った国がうまくいくはずもない。 それに、資産の半分以上が宝石や美術品のままだ。これを一度に貨幣に替えようとすれば、経済が混乱するし、そもそもそんな規模の換金ができる場所すら限られている。


「だから、現実的な方針も用意している。このエルラード大森林を、僕たちの聖域として開拓すること」


この家を囲む大森林。危険な魔物や伝説が蔓延り、人間が足を踏み入れることを拒む禁忌の地。場所も条件も、僕たちには最高だ。


「でも、そのためには、圧倒的に人材が足りない。そして、何より……お金がね」


「え? お金、まだ足りないんですかぁ?」 リュリュが不思議そうに首を傾げる。 「今まで、あんなにたくさん『ドロップ』させてきたのに」


「数はあるけど、半数以上は硬貨じゃなくて、宝石とか貴重な素材でしょ。これをちゃんとしたルートで換金して、表の流通に乗せられる資産に変えないと。」


「なるほどですぅ……。でも、どうやって正体を隠して換金するんですか?」


リュリュの問いに、僕は不敵に微笑んだ。


「そのために……僕たちはこれから、冒険者になるよ」


「……えええっ!? いやですぅ、絶対危ないですぅー!!」


リュリュの絶叫が、午後の穏やかな光を切り裂いた。


僕の言葉に、リュリュは驚きを隠せない。


「どうしてですか? そんなことしなくても……」


そこに、ルルアが口を挟んだ。


「確かに、冒険者になれば、換金もできるし、何より情報が集まる。そして、冒険者としてランクが最上位の超越級になれれば、国王と同等の権限を持てるから、この森林の所有権だって、国を作ることだってできるかも」


そうなのだ。冒険者にはEランクからSランクまで基本的に存在する。Sランクでも、下級貴族程度のくらいの地位は確約されるほどすごい。だが、そんなS級より上の存在がある。準超越級と超越級だ。

ただ、Sランクとの間に実力差が大きく、そのランクになれるのはごくわずか。準超越級ですらすべてで20人は満たない。超越級は10名すら満たないほどだ。そんな、2つのランクは、一国の王と同様の発言力を持てるほどの地位なのだ。「超越級」に至っては、下手な小国の王より発言力は高い。

僕は、ルルアの言葉に頷く。


「そう。でも、さすがに超越級になるには時間がかかるし、それより下の準超越級、あるいはSランク冒険者でもある程度融通が利くから、まずはそれになる予定」


三人は圧倒されたように頷いた。けれど、リュリュがすぐに心配そうな顔をして手を挙げる。


「でもぉ、Sランクなんてリュリュには絶対無理ですぅ! Sランクを甘く見ちゃダメですよ! ユラちゃんならなんとかなるかもですけど……それに、冒険者って基本は昼間に動くものですよね? リュリュ、セレスさんにバレたら、お仕置きじゃ済まないです。最近何回も怒られて」

「大丈夫だよ、リュリュ。今回、リュリュはお留守番」

「よ、よかったですぅ~~!!」

リュリュは糸が切れた人形のように、その場にへなへなと崩れ落ち、盛大な安堵の溜息を漏らした。

「……あれ? でも、それじゃあユラちゃん一人で行くんですか? まあ、ユラちゃんならアールちゃんに憑依して、昼間でもこっそり動けますけど……」


当然の疑問だった。これまではリュリュと僕のコンビで、盗賊狩りなどの「資金稼ぎ」をこなしてきたのだ。

ルルアは僕の本体同様、身体能力が壊滅的。ファイは仲間になったばかり。二人が前線で活動したことは一度もない。


「ううん。もちろん僕も行くけど、今回は『戦力』としてあと二人連れて行くよ」


「二人も!? 誰を連れて行くつもりなの……?」


ルルアが「まさか私じゃないよね」と言いたげに、じりじりと後ずさる。ファイも「まさか私が……」と引きつった顔で僕を凝視した。


「まず一人は、ファイ。君に行ってもらうよ」


「……はぁっ!? 私!?」 ファイが椅子から転げ落ちそうになるほど激昂した。 「ちょっと待ちなさいよ! なんで私があなたに協力する流れになってるのよ! おかしいでしょ、私は自由の身なのよ!」



「協力、してくれないの?」

僕がジト目でじっと見つめると、ファイは「当たり前でしょ! せっかく自由になれたんだから、やりたいことが山ほどあるんだから!」とふんぞり返った。

「ファイ。今、ファイがなんでそうやって自由に動けていると思ってるの? 誰のおかげ?」

「うっ……。そ、それは、まあ、感謝はしてるけど……それとこれとは話が別よ!」

「ふーん……。じゃあ、手伝ってくれないなら仕方ないね。その便利なぬいぐるみの体から、元の『世界の縛り』がある不自由な精霊の体に戻してあげようか?」

「え、そんなことできるの!? ……いや、それは絶対ダメ! 絶対に嫌よ!!」

ファイは真っ青になって自分のぬいぐるみの体をぎゅっと抱きしめた。せっかく手に入れた「触れられる世界」を、今さら手放すわけにはいかないのだろう。


「……それに、一人は寂しい。一緒に行こ?」

僕はファイの服の裾をぎゅっと握りしめて、上目遣いに、期待を込めた潤んだ瞳でじっと見つめる。


大好きな相手を頼りにする子供のような――そんな無垢な顔。


実際、一人でも平気なのは事実だが、誰かと一緒の方が楽しいのは間違いない。それに何より、僕一人で行くわけにはいかない事情があった。


「動くぬいぐるみ」が一人で街を歩いていれば、目立って仕方がない。ギルドの登録や手続きだって、一人では満足にできないだろう。

その点、ファイは(中身はともかく)見た目だけなら人間と区別がつかない。

彼女がいるのといないのとでは、冒険者活動の効率が天と地ほども違うのだ。


それに、ファイはこういう「自分が必要とされている」という空気に驚くほど弱い。僕はそのことを、すでにしっかり把握していた。


「……っ!! な、なによその顔……っ! 卑怯よ、アンタ……っ!」


案の定、ファイは顔を真っ赤にして狼狽え始めた。けれど、僕を突き放すようなことはしない。 


「分かったわよ! 手伝えばいいんでしょ、手伝えば! 全く、アンタは私がいなきゃ何にもできないんだから!」


口では毒づきながらも、結局は僕のペースに丸め込まれてくれるようだ。

それに、嫌だいやだと言っていた割に、その足取りは羽が生えたように軽い。


「冒険者、かぁ……。何をしようかな? 魔法を思う存分使ったり、街の美味しい食べ物を食べ歩いたり……ふふんっ!」


むしろ「るんるん」という擬音が聞こえてきそうなほど上機嫌で、やりたいことリストを指折り数えながら準備を始め出した。


口では反発しつつも、新しい世界への好奇心が隠しきれないらしい。ファイにとって、これからの冒険者活動は楽しみで仕方ないようだった。


「あ、それで……もう一人は誰なのですかぁ?」 リュリュが恐る恐る尋ねる。僕はアールを撫でながら、平然と答えた。


「それはね、リュシエルだよ」


その名が出た瞬間、部屋の空気が凍りついた。 ルルアは驚愕し、リュシエルにあったことはない、正確にいえばあったことはあるけど、すぐに気絶し覚えていないリュリュは「誰だろう?」と首を傾げる。


そして。 「……ひ、ひぃっ!!」


さっきまでお姉さんぶって威張っていたファイが、突如としてガタガタと全身を震わせ始めた。

「い、嫌だ……行きたくない……! 許してください、ごめんなさい……! 私なんてミジンコ以下です、ただの綿の塊です……! 私じゃなんの役にも立てませんからぁ……っ!!」


目に見えて魂が抜け、涙目になるファイ。 どうやら彼女にとって、リュシエルは逆らえない絶対的な上司、あるいは根源的な恐怖の対象であるらしい。


「大丈夫だよ、ファイ。……たぶんね」


僕は震え続ける「手のかかる妹(?)」の頭を、よしよしと優しく撫でてあげるのだった。




後日のこと。 太陽が真上に登ろうとする時間帯、僕たちはサンセットの街中で颯爽と歩いている……はずだった。


活気に溢れる通り、行き交う人々の喧騒、露店から漂う美味そうな匂い。そんな「いかにも」な冒険の始まりを予想していた現実は、実にもどかしい状況で足止めを食らっていた。


僕たちは今、入国審査を待つ長蛇の列の脇で、「これからどうしよう……」と、予想外の壁にぶち当たって頭を抱えている。 冒険者登録どころか、スタートラインである「入国」にすら失敗したのだ。


なぜこんなことになったのか。時間は少し前に遡る。


***


準備を整えた僕たちは、家を出てエルラード大森林を抜けた。 先頭を歩くのは、僕の比較的新たな仲間であり手にかかる妹的な存在のファイだ。 彼女は、僕が魔法で作り上げた人型ぬいぐるみの体に、中位精霊の意識を宿している。赤い髪と瞳が印象的だが、今は白を基調としたフード付きの服を深く被らせて、顔が目立たないようにしている。すらりとしたモデルのような立ち姿は、黙っていれば「謎めいた美少女魔道士」に見えなくもない。ツンが多めなツンデレの性格や、種族的に人より格上の存在である中位精霊として人間を下に見るような思考がなければたちまち人気になるだろう。


対する僕は、最強、最可愛なぬいぐるみのアールに憑依して、ファイの右横でふよふよと浮いていた。 もちろん、噂されている『ぬいぐるみの魔王』だとバレないよう、アールの外見は徹底的にリメイク済みだ。髪型を僕の本体とお揃いの高めなサイドポニーに変更し、毛色も変え、小さなフードを被せた。 「完璧な変装だね。これなら、もし疑われても『ぬいぐるみ違いです』で押し通せるよ」 「押し通せるわけないでしょ、そのふよふよ浮いて喋る奇妙なぬいぐるみ……。ほかにいるわけないでしょ。でも、それより、リュシエル様は本当に現れないのよね?」 ファイが怯えたように僕の体内(影)をチラチラと見る。


異世界での僕の唯一の相棒マブダチであり、底知れぬ強さと謎を秘めたリュシエルは、「ここぞという、いい感じのタイミング」で現れると言い残し、今は僕の中でスタンバイ中だ。というか、最初から一緒だとファイが恐怖で震えて使い物にならなくなるから、ちょうどいい。


道中、森は何のトラブルもなくスムーズに抜け、ついに目的地である王国の門へと辿り着いた。……そう、ここまでは、すべてが完璧だったのだ。


意気揚々とギルドへの第一歩を踏み出そうとした僕らを待っていたのは、あまりにも高く、そして現実的な壁――「身分証明書」の提示だった。


考えてみれば当然だ。だが、精霊であるファイがそんな人間社会のカードを持っているはずもなく、さらに僕自身にも深刻な事情がある。そもそも「(動くぬいぐるみアール)=(貴族の少女としてのユラ)」である正体をバラすわけにはいかないし、仮に人間として振る舞ったところで、僕の身分証はすべて母の手元にあるのだ。僕が、勝手に外出しないようにと渡してくれないのだ。


つまり、今の僕たちは「不法入国を試みる身分証なしの少女ファイ(中身は精霊)と動くぬいぐるみ(僕)」という、衛兵からすれば怪しさ100%の不審者なのである。


かくして、僕とファイは門の前で無慈悲にもシャットアウトを食らった。 冒険の幕開けは、ギルドの扉を叩く音ではなく、門前払いというわけだ。






二章の展望

家族に内緒で、もちろん正体を隠して冒険者生活、はじまる! アールに憑依したぬいぐるみ姿でユラは「レア」という偽名を使い、精霊のファイと共にギルドの門を叩く。 そこで待ち受けていたのは、最強と謳われる冒険者やギルマスとの出会い、そして――かつて盗賊狩りのときに倒したことのあるひときわ強かったSランク冒険者・リンネとも遭遇!?


懐かしの商人が広めた「ぬいぐるみ」が町を彩る平和な裏側で、蠢く怪しい影。 「悪党を倒せば、金になる」 下心全開で町の危機に飛び込むユラだったが、事態は誰もが予想だにしない方向へ加速する。


勝利の先に待っていたのは、周到な準備すら意味をなさない「真の理不尽」。 ユラに最大最悪の死闘が危機が訪れる――。


※2月に一度、今まで投稿した話の見直しと書き直しをする予定です。ところどころの内容の変更やミスの修正を行います。

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