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1章 31話  散策

夜、ノルト家の屋敷の上空。月明かりが、静かに二人を照らしていた。


すでに厨二(覚醒)モードに入ったリュリュは、黒いフードを深く被り、目だけが隠れるクールな仮面を着けている。その肩のあたりには、リュリュぬいが静かに浮かんでいた。もちろん、そのリュリュぬいも覚醒モードで、微かな影の魔力を纏っている。そして、リュリュの左横には、暗闇に怪しく光る赤い目の僕、アールがいる。


リュリュは、ポーズを決めながら、大げさな身振りで言った。


「月明かりが、わたくしたちを照らす……。罪深き者に、断罪を下し、すべてを我らが物に……。フフフ、今回は楽しめそうね」


アールに憑依しているユラは、少し呆れたようにリュリュに告げた。


「リュリュ、今回はただのカモ以外に明確な敵がいる。敵に容赦など必要ない。必ず仕留めるよ」


そう。今回は初めて明確な敵がいるのだ。彼らがこの屋敷に来た真の目的は、略奪ではなく、敵の排除にある。


「そうね。まだ実害はなく、確実な脅威とは言えないけれど、愚かにもわたくしたちに敵対意思を見せた。その者たちには、慈悲なき徹底的な制裁を」


二人の瞳は、獲物を狩る獣のように、鋭く光っていた。




夜の帳が降りたノルト家の屋敷。リュリュは、屋敷の上空で不敵な笑みを浮かべる。


「フフッ。さあ、始まりの合図を。深淵より出でよ、我が忠実なる従者よ!」


リュリュがそう叫ぶと、リュリュの影から、巨大な漆黒のフェンリルが現れた。その体毛は夜闇に溶け込み、瞳だけが赤く怪しく光っている。


「ワオオオオオオオオッ!!」


フェンリルは、天に向かって咆哮を上げると、その影から3体の分身を生み出した。計4体のフェンリルが、リュリュの命令を待つ。


「進め。ワタクシの道を切り開きなさい! すべての騒乱は、我らが深淵の計画のため!」


リュリュの命令に、フェンリルたちは、地を蹴り、屋敷の正面玄関と側面へと突進していく。


「な、なんだあの魔物は!?」


屋敷の中から、異変に気がつき、慌てた兵士たちが次々と現れる。だが、彼らが構える鉄の武器など、上位種であるフェンリルたちの黒い魔力を纏った突進の前では無力だった。


「うわああああああ! なんて強力な魔物だ!」


「影から現れたぞ! 避けろォ!」


兵士たちは、フェンリルたちの圧倒的な力に蹂躙され、悲鳴を上げながら次々と倒れていく。だが、彼らは敗走しない。狂ったように、鉄の武器でフェンリルの分身体に立ち向かっていく。


「このままでは、屋敷が……! 侵入者を一人たりとも通すな! 捕まえられなければ……俺たちは終わりだ!」


兵士たちの叫び声には、職務意識を超えた、切迫した恐怖が滲んでいた。まるで、侵入者を取り逃がせば、自分たちが処分されると脅されているかのようだ。


兵士たちの叫び声が響く中、リュリュは、アールと共に、静かにその様子を見守っていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




黒きフェンリルたちが、屋敷の外で兵士たちを蹂躙している隙に、アールとリュリュは優雅に屋敷内へと潜入した。リュリュは、外の騒ぎを気にもせず、黒いフードを被ったまま、アールと共に静かに歩を進める。


「ふふ、騒ぎに気づきながらも、外へ出られない哀れな兵士たち……。わたくしとアール様の影からは逃れられませんわ」


リュリュは、そう言って、ニヤリと笑った。僕はリュリュの肩付近でふよふよ浮いてる。


「何者だ!」


突然、廊下の角から、二人の兵士が飛び出してきた。彼らは外の異変に気づきながらも、屋敷内部の重要区画を守るべく、中に留まるよう命じられていたのだろう。


「貴様ら、いったい何者だ! 答えろ!」


リュリュは、兵士の問いかけには一切答えず、ただ静かに微笑んだ。その瞬間、彼女の姿がフッと影に溶け込むように消える。**影魔法『隠密』**だ。


「なっ! 消えた!?」


兵士たちが驚愕し、周囲を見回す。だが、リュリュの姿はどこにもない。次の瞬間、兵士たちの背後から、リュリュの低い、ささやくような声が聞こえた。


「残念でしたわね。あなた方は、すでにわたくしの手のひらの上ですのよ」


リュリュは、そう言って、二人の兵士の首筋に、寸分違わぬ精度で手刀を叩き込んだ。


バタッ。


二人の兵士は、呻き声すら上げられず、意識を失いその場に倒れ込んだ。


覚醒モード(厨二モード)のリュリュは圧倒的だった。


しかし、侵入を阻止しようとする試みは、これで終わりではなかった。


廊下を進むユラたちの前に、次々と正規の兵士だけでなく、戦いなれていないような使用人――メイドや執事たちが、粗末な武器や、時にはただのモップまで持って、必死に襲い掛かってきた。


彼らの顔は青ざめ、その瞳には明確な恐怖の色が浮かんでいる。彼らは、僕たちに立ち向かうというより、まるで僕たちではない、何か別のものに怯えているかのように、必死だった。


「ひぃっ、通すな……通せば……殺される!」


「侵入者を、一人でも見逃すなと命令されています! ここを通すわけにはいきません!」


リュリュは眉をひそめた。 「本当に、嫌な場所ね。恐怖で人を縛り、盾にしている。まるで、命を道具としか見ていないわ」


(恐らく、侵入者を許したら、見逃した者は始末するようなことを言われているのだろう。こういうのはめんどくさい) 僕は冷徹に状況を分析した。 (彼らは本質的な敵ではない。だけど、このまま相手をしていては、時間が無駄になる。僕の計画にとって、非効率極まりない。ということで、こういうときはぬいレイたちの出番だ)


「ぬいレイ。無力化しておいて。手心は加えるよ」


指示を受けた複数のぬいレイが、高速でメイドや執事たちの顔面に引っ付いた。


「う、うわあああ! なんだこれ!」


視界が完全に防がれ、さらに顔の皮膚に張り付いて剥がれないぬいレイに、戦いなれていない者たちはパニックに陥り、剣を振り回すこともままならない。廊下は、ぬいレイに足止めされた使用人たちの混乱した呻き声に満たされた。




リュリュは、混乱を気にせず、倒れた兵士たちの上を優雅に跨いだ。


「さあ、秘宝探しを再開しましょうか、アール様。真の敵は、あの連行映像にあった地下にいるはず。この略奪は、我らが歓喜のため、そして敵を攪乱するための必要な遊びよ」


リュリュは、アールに言う。


「そうだね。襲ってくる人たちは、ぬいレイに足止めを任せてちゃっちゃと欲しい物を貰っちゃおう」


(この屋敷の要人は、恐らくというか確実に、地下室にいる。敵の息子らしき少年が無理やり連れていかれていたあの地下空間に。だが、その前に、陽動という名目上、そして目的の一つとして、この屋敷にあるほしいものを略奪する。すべてのお金や貴重品を回収してから敵を倒す。すべてを僕の懐に収める、この上なく楽しい手順だ)

二人は、まず二階の部屋から散策を始めた。


豪華な絨毯が敷き詰められた廊下を歩き、一つ一つの部屋を丁寧に見ていく。


どの部屋も、高そうな美術品や、装飾品で溢れていた。絵画、彫刻、古風な装飾品……すべてが**「良識ある、趣味の良い貴族」**の体裁を保つために揃えられているようだった。


「これは!?すごく高そう。夜景をこの絵を背景に眺めるのは、とてもよさそうね」


リュリュは、そう言って、壁に飾られていた大きな絵画をぬいレイに収納させる。絵画は、瞬く間に光の粒となり、ぬいレイの中へと消えていった。さらに、かっこいいワイングラス、よくわからない黒い作品などリュリュは思いのまま手にしていく。


「このカーテンの素材。なかなか良さげ。ぬいぐるみ作りに使えるかも。なんの素材かな?」

アールはぬいぐるみの素材になりそうな上質の枕やカーテン、はたまた、ぬいレイに視界を防がれてアワアワしているメイドや執事の良さげ服素材も収納していく。」こういった高級品は、うちにはないんだよね。うちもこのノルト家と同等以上の貴族だけど、そう言うこだわりがないらしいから実用的なものしかないのだ。



絵画や工芸品、布や綿など様々なものが次々とぬいレイに収納される。

しかし、指示した分以上に、回収は加速していた。


僕が視認していない部屋の隅や、隠された棚の中の物品までが、次々と自律的に光の粒と化してぬいレイに吸い込まれていく。


(まったく、この子たちは……)


ぬいレイたちは僕の性格がもとになっている節がある。確証はないけど最近そう思わずにはいられない。だからか、ぬいレイたちは、僕の行動原理を忠実に模倣している。特に、自分勝手なところとか、好きな物に対する執着心が強いこととか。『有用なものはすべて確保する』という指令を「欲しいものはすべて手に入れる」**と拡大解釈している節があるのだ。


特に、一部のぬいレイは僕の想定を超えた『個性』を持っているようで、僕が興味を示さない食器や、年代物の書籍まで勝手に収納しているようだ。どのぬいレイが何を基準に選んでいるのか、細かなデータは追えていないが、まあ、悪いようにはしないだろう。


結果として、部屋にはほとんど何も残らなかった。

しかし――


リュリュ:「それにしても、金の宝庫が見つからないわね。何かを隠した痕跡もない」


二人は、部屋の隅々まで目を凝らしながら散策している。当然、ノルト家ほどの大貴族、さらに悪事を働いているとなれば、多量の金品が保管された宝庫があるはずだ。しかし、この屋敷は、豪華な装飾品はあるものの、怪しい隠し金庫や、不自然な改築の跡が今のところ一切見当たらない。


アール:「徹底しているね。大量の違法な資金や証拠になるような書類などは全く見つからない。すべて地下に集中させているか、あるいは資金洗浄が済んで、物理的なお金は移動済みなのかも……」


この屋敷の2階は、優雅さと富を誇示する、ただの空箱として機能しているようだった。


「まあ、仕方ないか。この階の装飾品とかはたくさん確保できたし、これで良しとしよう。2階に無いのなら宝庫は、構造上、一階の中央部か、あるいは地下の真の拠点にある可能性が高いはず。見つかるといいな」


アールの言葉に、リュリュは頷いた。


「ええ。この階は、もうなにもなさそうね。隠し部屋も存在しなそう。それじゃあ、次は一階に行きましょうか。ノルト家が本当に隠しているもの――金か、あるいは、もっと別のものか。きっとそこにあるわたくしにふさわしき何かがきっと」


リュリュは、そう言って、アールと共に階段を降りていった。


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