1章 24話 交渉と…....
リュシエルのお願いを聞くことになったが、質問には答えてくれるそうだ。
リュシエルに主導権を握られたものの、冷静に僕は頷き、尋ねる。
「お願いは僕ができる範囲ならね。それじゃあ、さっそく質問、まずはどうして僕のことを知っているの?初めてだよね、会うの」
リュシエルは、カップを指先でなぞる。その動作は優雅なのに、なぜか背筋が冷たくなる。
「ええ、そうね。会うのは今回で初めてね。それで、なんで私がユラちゃんのことを知っているかというと、ここ数年ずっと、ユラちゃんのことを観察していたからよ。」
「観察してた?」
僕が眉をひそめると、彼女は楽しげに微笑み、指を鳴らした。
「ええ、こんな風にね」
空気が波紋のように歪む。すると、僕たちの目の前に、**巨大な透明の鏡面**が浮かび上がった。鏡面は、この世の法則を捻じ曲げて時空を覗き見ているかのような、異質で静的な魔力に満ちている。
そこには、リュリュが現在この森の最奥で彷徨っている様子や、僕の作ったぬいレイが様々なところで動いている様子など、ありとあらゆるところが映し出された。さらには僕が魔力実験をしている瞬間までが――つまり現在の様子ばかりか過去のことまで鮮明に映し出されていた。
(僕のぬいレイによるネットワークの、完全上位互換だ。このリュシエルにとっては、時間も空間も意味をなさないのか)
「でも、なんで僕を監視していたかは、その理由になっていないよね?」
僕は、リュシエルの圧倒的な能力に驚きながらも感情を表に出さずに問いかける。リュシエルは、そんな僕の様子を面白そうに見つめていた。いつの間にか僕のぬいレイが彼女の手元にあり、リュシエルはぬいレイをなでながら言う。
「それはね、三年前ぐらい、この森の入り口で、とてつもなく膨大な魔力を感知したからよ。それも、私たちと同じ段階に踏み入れるほどの魔力量をね。だから、面白そうだと観察していたの。それがユラちゃんだったというわけ」
(なるほど。おそらく、アールを作った時のことだろう。普段、魔力を隠蔽しているけど、あの時は、そんな余裕なかったから、少し隠蔽が揺らいだときだ。多分)
「つまり、ずいぶん前からということ?」
僕は、そう言って、リュシエルをじっと見つめる。
「ええ。そういうことになるわね。」
リュシエルは、僕の問いに頷き、言葉を続ける。
「それと、目的についてだけど……」
彼女は、にこやかに微笑んだ。
「その私たちに匹敵する段階の魔力量、そして魔力の操作技術、何よりユラちゃんがノートに書いていた**『ぬいトピア』**について、面白そうだからという、娯楽目的で最初は観察していたんだけど……。実は最近ユラちゃんの持つスキルに興味があって」
フフッと、リュシエルは楽しそうに笑う。その笑いには、純粋な好奇心と、底知れない無邪気さが混ざり合っていた。
「それが、その頼みというものに関係しているの?」
僕は、もはや警戒しても無駄だろうと判断し、落ち着いて尋ねる。
「ええ。その前に質問なのだけど、ユラちゃんのスキルの**『ぬいセカ』**について教えてもらえるかしら?」
(ぬいセカについて?いったい何がしたいというんだ?でも、これでわかったことが一つ。確かにリュシエルとやらは僕のことをすごく知っている。だけど、完全に理解しているというわけではなさそうだ。スキルの詳しい内容までは、彼女の時空を覗く能力でもわからないということだ。とりあえずここは正直に話しておこう)
「ぬいセカは、対象の人物を模して作るぬいぐるみ。対象の人物のステータスを完全に再現できる」
僕は、そう言って、アールを抱きしめる。
「それは知っているわ。私は、そのぬいセカを作る条件について知りたいの」
リュシエルの言葉に、僕は驚きを隠せない。
(スキルについてもある程度は把握してる⁉本当に何を考えているか分からない……)
僕は、少し考えてから、正直に答える。
「それは、僕が作りたいと思えるような相手であり、作る対象を僕が倒した者であるか、僕の好感度が一定以上達している相手なら作れる」
僕がそう言うと、リュシエルは、さらに興味を持ったように、僕を見つめた。
「そうなのね」
リュシエルは、少し考える間を置いた。僕は息をのむ。いったいどんなお願いなのか、予想もつかない。そして、そのお願いとやらは、おそらく命令に近いだろう。
「それじゃあ、さっそくお願いがあるの」
僕は、一応聞いてみた。
「そのお願いは、絶対?」
「いいえ。断ってくれてもいいわよ。でも、断るのなら、それ相応の対応を取らせてもらうわ」
(これは断れそうにないかも……。最悪に備えて、逃げる方法を考えておこう)
「それで、言い始めてもいいかしら?」
僕は、頷く。リュシエルは、にこやかに微笑んだ。
「それじゃあ1つ目のお願いなんだけど……」
(え。1つ以上あるの⁉そんなの聞いてないんだけど)
「まず一つ目――私と、お友達になりましょ?」
「……え?そんなこと?」
あまりに予想外で、思わず素で声が出た。
「なんでわざわざそんなこと?」
リュシエルは、その様子におもしろそうに微笑む。
「ユラちゃんから見たら不思議でしょうがないだろうけど意外とこれは難しいことなのよ。私を前にして意識を保っていられるものなんて少ないし、さらに私と普通に会話できるのはそう相違ないのよ。そこのトカゲちゃんのようにね。トカゲちゃんは私の前で意識は保てているけど気軽に話してくれるような子じゃないの。ね?トカゲちゃん?」
ヴェネスは恐る恐る口を開く。
「わたくしごときが、そんな恐れ多いです。期待に応えられず大変申し訳ありません」
しかも、ヴェネス。リュシエルに見つめられるだけでかなり緊張しているのか、動揺してるのがわかる。
「ほらね。ユラちゃんみたく気軽に会話できる存在なんていないの」
(たしかにリュシエルは凄い神聖なオーラがあるから、近づきがたい感じがあるから納得はできる。でも、僕はリア姉が発するオーラもずっとまじかで受けてたし、それに、僕は誰かにへりくだるというような性格はしてないからかな?)
「――それに、あなたも寂しいでしょう? 姉妹と部下しかいないって。友達、いないじゃない」
(.......たしかにこの世界で友達というものがいない。対等な関係の友達。そんな関係があるのなら憧れる。時に頼り、頼られる存在。)
「……否定できない」
「決まりね。今日から私たち、お友達」
その笑顔は、どう見ても“神”というより“悪魔”に近い。そして、とっても急な話。正直まだ信用できるわけもないけど、でも、少しうれしい。もし対等な友達に、親友になれたらいいなと思いながら僕は頷く。
「それじゃあ決定ね。よろしくね、ユラちゃん」
リュシエルは、まるで友達に握手を求めるように微笑む。その笑顔の裏に、測り知れない何かが見えるのは気のせいだろうか。
「それと――もうひとつお願いがあるの。友達として、聞いてくれる?」
「僕にできることならね。それと……お礼も欲しいな」(くれるとは思ってないけど)
「もちろん。わかってるわ」
そう言って、彼女は小首をかしげた。その仕草が妙に人間らしく見えて、逆に怖い。
「最後のお願い。それは――私の**“ぬいセカ”**を作ってほしいの。できるかしら?」
(⁉)
言葉の意味を理解するのに数秒かかった。僕は思わず眉をひそめる。
「どういうこと?リュシエルにメリットがないどころか、僕にしかメリットがないような提案だけど。ぬいセカは、僕の支配下に入るんだよ?」
「ええ、わかってるわ」
リュシエルは、楽しそうに目を細めた。
「でも――本当にそうなるかしら?」
ぞくり、と背筋が凍る。
(どういうこと……?僕の作ったぬいセカで、僕の支配下にならないことが、まさかあるというのか?これが、彼女が求めているものか?)
「それで、お願いは聞いてくれるのかしら? それと、そもそも可能なのかしら?」
リュシエルの言葉に、僕は正直に答える。
「お願いは聞きたいけれど、作る条件が、さっき言ったように……」
「作る対象、つまり私をユラちゃんが倒すか、ユラちゃんに対する私の好感度が一定以上かでしょ?」
僕は頷く。
(そう。それが問題だ。僕がリュシエルに到底勝てるとは思えない。初対面で、僕に対する好感度が一定以上というのは、簡単そうに見えて、意外と厳しい条件だ。いうなれば友達以上の親友に近いほどの好感度である必要がある。達成できているとは思えない……)
「私とユラちゃんが戦って、ユラちゃんが勝てばいいだけじゃない。簡単じゃない?」
(何を言っているんだ、この人は。いや、人じゃないけど。そんなの無理に決まってる。勝てるビジョンが全く浮かばないほどの格上。まあ、いつかは絶対に越してみせるけど……)
僕は全力で首を振った。
「無理。勝てるわけない」
リュシエルは、楽しそうに笑う。
「冗談よ。でも、戦ってみたいのは事実よ。よかったらどう?」
「遠慮しておきます」
「そう。残念ね。まあ、それより、もう一つの条件の方は満たせているか確認できる?」
「確認は、まあ……できる」
「それじゃあ、さっそくしてみて」
僕は、リュシエルの言葉に従い、頭の中で、このリュシエルのぬいセカが作れそうかイメージする。すると、僕の頭の中に、思わぬ言葉が響いた。
好感度の条件を満たしています。作成可能。
予想外だった。まさか、リュシエルの僕に対する好感度が、条件を満たしているなんて。
「できるっぽい」
「そう。それはよかったわ」
リュシエルは、そう言った。だが、どこか嬉しそうには見えない。まるで、条件が達していないことを望み、僕と戦いたかったというような風に見える。同時に、このうなることを完全に予想していたとも感じられる。
「それじゃあ、早速作ってくれる? お願いを聞いてくれるってことだし」
「分かった。でも、最後に質問。どうしてわざわざぬいセカを作ってほしいの?」
僕がそう尋ねると、リュシエルは一度目を閉じて、そして、静かに言った。
「それは、縛りから抜け出すためよ。せっかくユラちゃんという初めての友達が出来たのだもの、一緒にいろいろしたいわ。やりたいことが、たくさんあるのよね。でもそのためには縛りがどうしても邪魔。ユラちゃんのぬいセカを使えば成功するかはわからないけれど、成功すれば自由になれる気がするの」
(縛りがある? それを抜け出す手助けを、僕はしてしまっていいのだろうか。縛りを解放してしまったら、世界に災いが起きたりしないだろうか……)
「いったい縛りって? それと、やりたいことって何なの?」
リュシエルは、僕の問いに、全ては語らない前提で答える。
「縛りっていうのは、私たちのような存在は、強すぎる力を持つがゆえに、ルールを設けているの。例えば、例外を除き、世界に一定以上の影響を及ぼしてはならないとか、年に決められた以上の殺しは許されないとかね。だから、人の前に出るのみならず、魔法の行使も基本的にはしてはいけないの」
「大精霊の中で有名なのが、確か、自衛、あるいは第三律者の指示なくして魔法を使ってはいけないというものがあるの。やりたいことは、たくさんありすぎて言い切れないわ。それより、早く作ってちょうだい」
リュシエルの言葉に、僕はためらいを覚える。このまま、彼女の言う通りに動いてしまってもいいのだろうか。彼女が悪しき存在だったりして。力が強すぎるからのルール。それから抜け出す手伝いをしていいものか。でも、僕には関係ないか。友達になったし、それに、僕より確実に強い人をぬいセカで作ったことないからどうなるか気になる。
さらに、ぬいセカは普通、僕の支配下になるし、ならなかったとしても直接的なデメリットはない。
「分かった。作り始めるね」
僕は、リュシエルにそう告げると、集中して作成を開始する。
「「ぬいセカ」ぬいぐるみ生成」
すると、僕の魔力が一気に減っていく。
(やばいかも。アールを作った時より、僕の魔力量は増えているはずなのに、それでも魔力があと少し足りなそう。こんなこと初めてだ。今までぬいセカで作ったのは、僕より魔力量が格段に少なかったから余裕だったけど、今回は違う。僕以上の存在……。考えれば分かるはずなのに、見落としてた。)
視界の端が揺らぐ。
まるで“神”を形にしようとする世界そのものが悲鳴を上げているようだった。
「やばい……魔力が、足り――」
その瞬間、リュシエルが僕の肩に触れた。
掌から、冷たい光が流れ込む。
「あら? 魔力が足りなそうね。それじゃあ、少し分けてあげる」
リュシエルが僕に触れると、わずかに魔力が流れ込んできた。本当にわずか、最低限の魔力量。足りなかった5%分の魔力だ。だが、そのおかげで、なんとか完成させることができた。
「ふぅ……完成した」
(でも、くらくらするし、気持ち悪い……。魔力を完全に使い切った。魔力枯渇しても気絶しないように練習したから、気絶はしないでいられるけど、きつい……)
「完成したようね。ありがとう、助かるわ。さすがユラちゃんね。魔力を枯渇させても意識を保っているなんて。はい、これ。魔力が回復するわよ」
リュシエルは、青色のポーションを僕に渡してくる。僕はそれを受け取り、魔力切れで思考が鈍っている僕は何も考えずに一気に飲み干した。すると、魔力量が50%も回復する。50%というのは微妙に思うかもしれないが、僕の魔力量は異常だ。それを即座に50%も回復させるなんて、このポーションもまた異常な代物だ。でも、
「これ、僕が魔力が足りない時にくれればよかったのに」
(あ、口に出てた)
「ふふ。それはそうだけど、その方がユラちゃんのためになるでしょ。ここ数年、魔力枯渇する機会がなかったようだし、成長するいい機会じゃない」
まあ、そうだけど。おかげで、魔力量は少し増えた。でも正直あまり魔力量が増えても意味がない気がする。リュシエルと僕の魔力量に差は誤差ではあるけれど、強さはそれだけじゃない。全然、勝てる気がしない。魔力量じゃなくて強さが欲しい
「それじゃあ、せっかくだし、このぬいぐるみを調べてみたら?」
(確かに。僕より強い、それも格が違いそうな相手を作ったのは初めてだし、リュシエルが不穏なことを言っていたから気になる)
僕は、いつものように鑑定してみる。すると、表示されたのは、予想外の文字だった。
「鑑定不能」
「制御権がありません」
「……どういうこと? リュシエルが制御権を持っているの?」
僕がそう尋ねると、リュシエルは首を横に振る。
「いいえ。でも、予想通りね。おそらく、ユラちゃんがもう少し、いや、かなり成長したら、扱えるようになるんじゃないかしら。今のユラちゃんの能力じゃ、能力差がありすぎるだけよ」
(うっ……実力が低いって言われた……。でも、確かにリュシエルに比べたら低いかも。そうなると、このリュシエルぬい、どうしようもなくない?リュシエルでも制御権をもったいないということでしょ。すごい力を持っているから、放置するわけにもいかないけど……)
「このままだと、ただすごい力を持っただけの動かないぬいぐるみね。それじゃあ、予定通り、これは私がもらうわね」
リュシエルは、そう言って、僕が作ったぬいセカを手に取った。
(一体、何をする気なんだ?)
僕がそう思っていると、リュシエルは、僕が作ったリュシエルぬいに触れ、何かをしていた。それは、まるで僕がぬいレイを作っている時と同じような作業だ。僕がいつも、その辺にいる精霊のようなものをぬいレイに入れている作業と、よく似ている。
だが、彼女の作業は、僕がやっていることよりも、明らかに高度なことだった。僕が精霊を「入れる」だけなのに対し、彼女は、まるでぬいぐるみに魂を吹き込んでいるかのように、精巧な作業をしていた。
シュウゥゥゥゥ……
リュシエルは、まばゆい光とともに、その姿がぼやけていく。そして、光が収まると、そこには誰もいなくなっていた。残されたのは、僕が作ったリュシエルぬいだけだ。
コトッ
リュシエルぬいが、僕の目の前で、動いた。
「どうなったの?リュシエルが消えちゃった?」
そして、その口から、リュシエルの声が聞こえてくる。
「成功したわ。でも、この体に馴染むには時間がかかりそうね。ほとんどは大丈夫だけれど、権能は今のままじゃ、完全には使えないし、身体能力もまだ50%といったところかしら」
リュシエルぬいは、そう言って、僕に語りかける。その瞳は、先ほどまでリュシエルが持っていた、赤白い瞳と同じだ。
「さあ、お話はこれで終わり。ユラちゃん、私もあなたの**『ぬいトピア』**に参加するわ」
リュシエルぬいは、そう言って、楽しそうに笑う。
「どういうこと? リュシエルぬいに乗り移ったの? それに、僕についてくる気!?」
僕は、本気で驚きを隠せない。あまり表情は表に出さないようにしているが、心の中では動揺が止まらない。
フフッ
リュシエルぬいは、楽しそうに笑う。
「驚いているようね。そうよ。ユラちゃんがぬいレイに微精霊を入れているのと同じように、あるいはユラちゃんがアールに憑依しているのを応用しているの。少し私の権能も作用しているから違うかもしれないけれど。そして、目的の拘束も、ぬいぐるみが予想通り打ち消してくれているしね。これで私は制限がなくなったわ。だから、面白そうなユラちゃんについていって、一緒に冒険しようってね」
「……いいけど。すべて勝手にやってね」
(とりあえず、敵じゃないなら別に問題ないか……)
「ええ。でも、その前に、体が完全になじむまで休ませてもらうね」
「必要あるの? 今のままでも十分僕より強そうじゃん。リュシエルに脅威なんてないでしょ」
僕がそう言うと、リュシエルぬいは、少し真面目な顔になった。
「まあ、確かにこの状態でも私の脅威になりうる存在はいないけど、一応ね。それと一番は、権能が不安定で暴発とかしちゃうと、取り返しがつかないから。ないとは思うけど、一応よ」
「もしその権能とやらが暴発したらどうなるの?」
気になって聞いてみた。
「そうね。下手したら、この世界が壊れはしないけど、そうなる手前ぐらいにはなるかしら?最低でも、周囲一帯に甚大な影響が出ると思うわ」
「え。何それ。ヤバすぎない。本当なの?」
「ええ。まあ、直接的な被害というわけではないんでけどね。とにかく力をなじませないと」
「わかった。でも、その権能って……」
僕が言葉を言い終わる前に、リュシエルぬいは、僕にそう告げた。
「それじゃあ、アールちゃんの中で休ませてもらうから。あ、それと、トカゲちゃんはユラちゃんの好きなようにしていいわよ」
リュシエルぬいは、そう言って、どういう仕組みか、アールの中に溶けるように消えていった。
(まだまだ聞きたいことあったのに。権能とか、本当に青の大精霊なのかとか。)
リュシエルぬいがアールの中へと消え、この空間に残されたのは僕とヴェネスだけだった。
とりあえず、考えるのは後にしよう。リュシエルに聞きそびれてしまったことは、仕方ない。また機会はあるだろうしそのときに聞こう。
「……」
僕は、何も言わずにヴェネスを見つめる。
「それで、確かヴェネスだっけ?僕に従ってくれるの?」
僕の問いかけに、ヴェネスは深く頭を下げた。
「はい。ご命令とあらば、何なりと」
「本当に?なんか従順そうな雰囲気とは違うし、自我が強そうな感じがするけど」
(厄災龍ということだし、この森を統べる存在だ。プライドも高そうだし、そう簡単に従うとは思えないんだけどな……。実際に強いし)
僕の疑問を察したのか、ヴェネスは重々しい口調で話し始めた。
「確かに、昔の私は誰にも従うようなものでもありませんでした。誰かの下につくなど、考えたくもありませんでしたが、3年前にここに現れたリュシエル様の教育のおかげで、自分が如何にちっぽけな存在かがわかり、そして……」
「長くなりそうだから、いいや。なんとなくわかったから。それより、ぬいセカで君のぬいぐるみ作るね」
僕は、ヴェネスの言葉を遮り、ぬいセカを作ることにした。
「どうぞ」
ヴェネスは、静かに頷く。リュシエルの時とは違い、好感度の条件は満たしていないが、ヴェネスは一度倒したのでぬいセカは作れる。あれ、もしかしたらリュシエルはこのことを見越して、最初ヴェネスに僕を襲うように仕向けたのかな?リュシエル抜け目ないね。
そして、ヴェネスのぬいセカが生成される。
「ぬいセカ」ぬいぐるみ生成
【厄災龍ヴェネス】
属性: 黒
魔力量: 52,000
スキル: 支配領域(自身の領域での自身の能力向上、領域に効果を付与)
称号: 厄災龍、エルラード大森林の支配者、殺戮者、〇○○の下僕
(物騒な称号とスキル持ちか……)
僕は、完成したぬいセカを手に取り、ヴェネスをどうすべきか考える。家に連れて帰るには、あまりにも目立ちすぎる。
「ヴェネス、今はここに残ってもらってもいい?」
僕の問いに、ヴェネスは即座に答えた。
「ご命令とあらば」
「それじゃあ、決定ね。それと、リュリュを家に帰しておいて。僕は疲れたから、先に帰るね」
僕がそう言うと、ヴェネスは一つの石を差し出してきた。
「それでは、これをお使いください。転移石です」
(確かに、リュシエルのせいで、僕は本体のままここに来てしまったから、助かる……)
「ありがとう。じゃあね」
僕は、ヴェネスから転移石を受け取ると、疲れた体を休ませるために、家へと転移した。




