1章 22話 森の主?
「よし、進もうか」
僕は、ふよふよと浮きながらリュリュと森の奥へと向かう。
リュリュは、先ほどの戦闘でさらに自信をつけたようで、その足取りは軽い。そして、僕たちはついに、森の深部と最奥の境目にたどり着いた。
なぜ境目が分かったかというと、その雰囲気と見た目が、明らかに違うからだ。深部は、木がたくさん生い茂っていたのに対し、最奥は、木はおろか、何も生えていない。地面は苔むしているわけでもなく、剥き出しの土が広がっている。そして、全体を濃い灰色の霧が覆い、前がほとんど見えない。
「この瞬間、霧立ち込める異界……まるで運命の変わり目のようね! 愉快よ!」
リュリュは、そう高らかに叫ぶ。リュリュぬいを手に入れてから、厨二度がさらに増しているようだ。
「リュリュ、警戒しながら進んでね。万が一、僕と離れたら、各自帰宅だよ」
僕は、念のために忠告する。
「フッ。わたくしの右目は常に森羅万象を監視する。視界が悪くても、わたくしにとっては快適そのものよ」
リュリュは、そう言って、自信満々に胸を張る。
(...だめだ。リュリュがなんて言っているのか、そろそろわからないほど厨二度が増してきた)
そんなことより、これより先は未知の領域だ。
「どんな冒険があるかな? 森の変異の原因、楽しみだね」
僕がそう呟くと、リュリュは、不敵な笑みを浮かべて頷いた。
「ええ。この黒騎士リュリュが、その謎を解き明かしてみせましょう!」
リュリュが、覚醒モードのまま、最奥の領域に一歩足を踏み出した。
そして変異は一瞬だった。
本当に数秒で、僕はリュリュの気配を感じられなくなった。
「リュリュ?」
僕が驚いて後ろを振り返っても、リュリュはいない。濃い霧が視界を遮り、辺りを見回しても、どこにも見当たらない。
(どういうことだ?この数秒で、視界から届かない距離に移動したなんて考えづらい。この霧が、一瞬でランダムに転移させているのか?それとも……)
僕は、すぐにぬいぐるみの機能でリュリュの位置を確認する。リュリュはリュリュぬいを持っているはずだ。それをもとに位置を探る
「え……リュリュが、ものすごく遠くにいる!? しかも、一瞬ごとに、全然違う場所に点々と飛んでいるように見える……どういうこと?」
リュリュがこの速度で移動しているとは考えづらい。やはり、一歩踏み出すだけで強制的に転移させられる、特殊な魔法がこの霧全体に張り巡らされているのだろう。そして、この霧に入ったものをランダムに移動させ、迷わせて森の中心に行かせないようにし、この森の最奥から出さないようにしている。
(これが、リュリュが言っていた**『森の奥地に行ったものは誰も帰ってこない』**という噂の原因か……)
僕がそう結論付けた時、リュリュぬいからの通信が入った。
「ユラ様! 大変です! 私は今、どこにいるのか、全く分かりません!」
リュリュの声は、混乱と不安で上ずっていた。厨二モードが完全に解けかかっているし、さらにぬいぐるみ憑依しているときはアールと呼んでと何度も言っているのにユラと呼んでくる。それくらい焦っているということだ。また、通信自体も霧の魔力に妨げられているのか、途切れ途切れで雑音が混ざっている。
「どうやら、この霧は、私たちを迷わせる魔法のようです! ユラ様、どこにいますか!?」
「僕もどこにいるのか分からないよ。リュリュ、とりあえず、落ち着いて。僕たちは、この霧のせいで、バラバラにされたみたいだ」
僕は冷静に指示を出す。
「リュリュは、その場所で動かないで。この霧の仕組みを解析するから。待っていてくれれば、僕が最悪何とかするから。この霧の魔法に干渉できるかもしれない」
僕は、早速霧の魔法を解析しようと試みる。
まずは魔力を張り巡らせ、自身の位置を特定しようとするが、周囲の霧の魔力に乱され、予想通り失敗に終わった。次に、ぬいレイたちが発する微弱な魔力の位置情報から、自身の正確な位置を計算し直す。
そして、僕はリュリュに指示した通り、その場に留まっていることを確認し、次に自身の位置を確認する。
「あれ……? 特に移動してない?」
どういうことだと僕は戸惑う。僕が感じていたのは、リュリュがランダムに転移する感覚だった。だが、僕自身は全く転移しているようには見えない。向かった方向に移動できてる。
(もしかして、僕だけ、この霧の魔法に干渉されないのか……?)
そう思っていると、前方から、見知らぬ女性の声が聞こえてきた。
「それは、あなたの魔力量が、その霧を操すものより多いからよ、ユラちゃん。いいえ、今はアールちゃんといったほうがいいかしら?」
その声は、僕が霧の魔法の解析という形で干渉を試みたことで、その波動を逆に辿ってきたように感じられた。それは、何か異質で、このアールに憑依している僕でも、最大級の警戒を鳴らす声だった。本当に異質だ。この声の主は、どうやら僕を知っているような口ぶりだ。本当に嫌な気がする。




