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1章 21話 リュリュ対ブラックフェンリル

僕たちは、ウッドゴーレム(剣士)や、時折現れる(魔法使い)や(タンク)、そしてギガントディアーといった魔物を、効率的に、そして大量に倒しながら森の奥へと進んでいた。集まる素材の山に、リュリュの厨二モードは高まる一方だ。


「同じ魔物ばかりだね。素材はたくさん集まったけど、何か可愛い魔物とかいないかな?」


可愛い魔物がいれば、それをモチーフにしてぬいぐるみを作りたい。その方が、モチベーションが上がるというものだ。そんなことを考えていた時だった。


「フフフフフッ。風が、何かをささやいている……」


リュリュは、まるで物語の登場人物のように、そう呟き、なぜか身軽に木の枝へと飛び移っていた。盗賊狩りで手に入れた黒色のマントが、夜風に煽られてはためいている。


(なぜ、木の上にいるの、リュリュ……? ただ、かっこいいからだよね)


僕が少し呆れながら、その謎の行動に思考を巡らせた、その瞬間だった。


リュリュの真下に、地面の影から一つの巨大な影が音もなく湧き出す。


僕は一瞬反応が遅れた。その魔力は完全に**『影』に潜んで**おり、アールの身体の強力な感知能力をもってしても、出現する寸前まで捉えられなかったのだ。


その影は、巨大なオオカミの魔物。鋭い牙を剥き出し、木の上にいるリュリュ目掛けて飛び上がった!


しかし、リュリュは驚く様子もなく、まるで来ることを知っていたかのように、短剣でその猛攻を受け止める。ガキン、と硬質な音が森に響いた。


「フッ。これは珍しい。黒きフェンリルか……」


リュリュは、短剣でオオカミを押し返し、不敵な笑みを浮かべた。その魔物は、この森では上位の部類だろう。その全身に纏う漆黒の毛並みと威圧的な魔力は、並の冒険者なら即座に逃げ出すレベルだ。


(黒きフェンリル……。なるほど、影から出現したのか。僕が気づくのが遅れたのも納得だ。それにしても、リュリュにとってはちょうど良さそうな相手だ)


リュリュ(厨二)と同等か、それ以上の強さ。リュリュが勝てるかどうかはわからないが、リュリュのいい経験になるだろう。いざというときは、僕が介入する。


「頑張って、リュリュ。見守っているから、全力で戦いな!」


僕がそう言うと、リュリュは、自信に満ちた表情で頷き、木から飛び降りて黒きフェンリルと対峙した。


「了解いたしました。さあ、一対一の許可をもらいましたし、どちらがより深き深淵に近いか、そして」


リュリュは、そう言って、フェンリルと対峙する。


「貴様は、その身に宿す闇を、どれほどまで深められるか、見せてもらいましょう!」


リュリュは、短剣を構え、黒きフェンリルへと突進していく。リュリュは、短剣を構え、黒きフェンリルへと突進していく。


先に仕掛けたのはリュリュだった。


なぜか無駄にかっこいいポーズをした後、無言で短剣を気配なく、そして素早く投げる。しかし、黒きフェンリルは自身の影に潜り、それを余裕で回避した。


(さすがに上位種。リュリュのあの投擲を、予備動作なしで回避したか。影魔法に長けているようだし、単純な速さ勝負だけでは厄介だ)


「フッ、この程度……」


フェンリルは、再びリュリュの背後に現れようとする。しかし、リュリュはフェンリルが再び現れるだろう場所を正確に予想して、そこに手元に戻ってきた短剣を構えていた。武器と呼ぶには可愛すぎる短剣の魔剣だが、リュリュの手にかかればその名に恥じない。


影から飛び出した黒きフェンリルは、構えられた短剣によって浅く切り裂かれた。


しかし、簡単にはいかない。黒きフェンリルは、即座に反応し、寸前で後ろに跳び、致命傷を避けた。体毛の隙間から、わずかに黒い血が滲み出る程度。


「これを避けるか。だが、次の一手はどうだ?」


リュリュは、不敵な笑みを浮かべ、次なる一手に出る。


黒属性影魔法「黒き(シャドウ・ケージ)


リュリュは、フェンリルを周囲の影から湧き出た黒い魔力の幕で覆う。そして、リュリュは「圧縮!」と叫んだ。


(厨二技名は置いといて、あの影魔法は結構強力だ。上位種の動きを止められるか?)


だが、やはりそう簡単にはいかなかった。


黒きフェンリルは、身に纏う魔力を一気に解放したようで、黒い檻が魔力の反発によって弾け飛んだ。そして、何やら身体強化をしているのか、その巨体は魔力を纏い、さらに巨大で威圧的なものに見える。


次に、黒きフェンリルが仕掛けてくる。フェンリルは、大きく吠える。すると、その影から三体の黒き分身が現れた。実体を持たず、しかし確かな魔力を持つ分身だ。ついに、本気を見せてくる。先ほどまでは様子見だったようだ。


(まずいな。分身か。本体との見分けは一目瞭然だけど、すべての分身が本体のような力を持つ。厨二のリュリュは影魔法の達人だけど、相手の方が格上だし、この多対一は厳しい)


僕は、リュリュとフェンリルの戦いを分析しながら見守る。


フェンリル本体と、その三体の分身は、一斉にではなく、知性をもって連帯して順にリュリュを襲う。


リュリュは、短剣で一匹の攻撃を受け止め、もう片手の短剣で二匹目の攻撃を受け止める。しかし、三匹目の分身が本体の動きに完璧に連携した突進攻撃を仕掛け、リュリュは吹き飛ばされてしまった。


「くっ……!」


リュリュは、地面を転がり、なんとか体勢を立て直す。だが、その体には、短剣の受け止めきれなかったいくつかの深い傷がついていた。黒いマントも、少し裂けている。


(危ないな。リュリュは影に潜って気配を消すのが得意だけど、これだけの数の攻撃を捌ききれない。そろそろ僕が介入するタイミングか……?)


「さすがは深淵に住まいし、黒きフェンリル……。だが、これで終わりではない!」


リュリュは、再び短剣を構え、フェンリルと分身たちに向かっていく。


しかし、フェンリルはリュリュに立て直す隙を与えない。本体はまた遠吠えを上げた。すると、新たに三体の分身が現れる。合計六体の分身だ。そして、すでに三体の分身がリュリュに襲い掛かろうとしていた。


「このままでは勝てないわね」


リュリュは、そう呟きながら、自身の影に隠れ、三体の分身による攻撃を回避する。リュリュの気配を消す能力は、フェンリル本体が警戒するほどに鋭い。が、数が多い。再びリュリュが影から現れたとき分身が幾度となく襲い掛かる。


リュリュは追いつめられ、次にリュリュが姿を現したのは、最初の木の上。フェンリルとその分身はその木の周辺を囲う。追いつめられたリュリュは、しかし余裕の表情。そして、僕の横にいたリュリュぬいが、いつの間にかリュリュの肩に乗っている。


(え? いつの間に? ……いや、待て。リュリュぬいと一緒にいるリュリュの雰囲気が、変わった?)


リュリュは、不敵な笑みを浮かべる。その瞳の奥には、先ほどまでの焦りとは違う、確固たる自信が宿っている。そして、リュリュぬいもまた、まるで意思を持ったかのように、リュリュの肩の上で戦闘態勢に入っていた。


「こちらも、分身を使わせてもらうわ。わたくしを本気を出させたこと褒めてあげる。そして、わたくしの深き深淵の境地をその目に焼き尽くすことになるわ」


その瞬間、隠された能力が目覚めた。


リュリュとリュリュぬいは、互いに言葉を交わすことなく、完全にシンクロした動きを見せる。リュリュぬいが発する厨二的なオーラも、なぜかリュリュ本人のものと共鳴しているようだ。その動きは、先ほどまでのリュリュとは比べ物にならないほど、鋭く、速く、そして力強い。


迎え撃つは、フェンリルの六体の分身。


リュリュは、影に潜行し、リュリュぬいは木から跳躍する。分身は、あっという間に、リュリュの短剣と、リュリュぬいの小さな短剣ぬいによって、次々と切り裂かれ、消滅した。


(なに、この連帯感!?さっきまでのリュリュとは別人。リュリュぬいと一緒になった途端、動きが明らかによくなった。しかも、なんでリュリュぬいとリュリュの連帯が異常。これが、リュリュが言っていた深淵の境地か?)


そして、リュリュは、フェンリル本体に向けて魔法を放つ。


「真の深淵を味わうといい シャドウバインド!」


フェンリルは負けじと反撃しよう反撃しようとするも、先ほどよりも遥かに濃く、太い黒き無数の腕が、地面から現れ、フェンリルを完全に拘束する。フェンリルは、もがくが、その拘束からは逃れられない。


「フフッ。これで、終わりだ」


リュリュは、そう言って、フェンリルに近づいていく。


「さあ、お前のその力を、この黒騎士リュリュに捧げろ!」


リュリュは、フェンリルを仕留めようと、短剣を構えた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇




リュリュは、フェンリルに止めを刺そうと、短剣を振り上げた。しかし、寸前で動きを止める。


黒きフェンリルは、その巨大な頭を地面に伏せ、身体強化などの魔力をすべて解除したからだ。その目には、敵意ではなく、敗北を認める静かな光が宿っていた。


「降伏するのか?ならば、私の配下になるがいい」


リュリュは、フェンリルが言葉を持たないにも関わらず、その意図を正確に理解したかのように告げる。フェンリルは、敗者は強者に従うという本能的な信念に従ったのだ。


リュリュが短剣を下げると、漆黒のマントの奥から、黒い霧状の魔力が湧き出し、フェンリルを包み込んだ。フェンリルの体表に古の紋様が一瞬浮かび上がり、それはすぐにリュリュの短剣へと収束していく。力が増すような派手なエフェクトはなかったが、二者の間に見えない契約の鎖が結ばれたことを確信できた。


リュリュは満足げに頷き、フェンリルの拘束を解いた。


「フフッ。これで、終わりだ」


リュリュは、そう言ってフッと笑う。すると、テイムされたフェンリルは、抵抗なくリュリュの足元の影へと静かに沈んでいった。


(一体どういうことだ……?)


僕は、その光景に驚きを隠せない。リュリュぬいとリュリュが一緒に戦ってから、明らかに圧勝していた。リュリュの強さも変わったし、リュリュぬいも異常に強くなっていた。リュリュがテイムなんてできたのも驚きだし。


「リュリュ。何があったの?リュリュぬいと一緒に戦ってから、明らかに強くなったよね?」


僕の問いかけに、リュリュは、またあの厨二モードで答える。


「このわたくしと、その半身がともに集えば、新たな頂を魅せしめる。祝福されしこの力、アール様の計算通りということですね」


「……」


(ものすごくわかりづらいけど、理解はできた。多分、セカぬいと、本人がともに戦うと、何かバフが起きるのだろう)


僕は、すぐにリュリュぬいを鑑定する。


隠し能力:共鳴


本人と、その人物を模して造られたセカぬいは、互いに能力を高めあう。本人全能力1.5倍、ぬいレイ能力1.3倍


(こんな隠し能力があったの!?強すぎる。本人の能力が1.5倍、さらにセカぬいまで強化されるとは。でも、僕自身には直接は役立たなそうだけど。なぜか自分自身のぬいセカは作れないから。まあでも、すごいことには変わりない。それと、それがなくても、このアールの身体は強いけどね)


「なるほどね。さすが、リュリュ。それじゃあ、このリュリュぬいは、リュリュにあげるよ」


僕がそう言うと、リュリュは、嬉しそうにリュリュぬいを受け取った。


「ありがとうございます! アール様! このリュリュぬいも、わたくしの半身として、大切にいたします!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇




リュリュが喜ぶ傍らで、僕はすぐにテイムされた黒きフェンリルから得た情報を分析し始めた。リュリュが配下を置いたことで、フェンリルが持つ森の深部の情報が共有されたのだ。


「ふーん……本当に、この森には破滅の龍王がいるんだね。リュリュの言っていた伝説が本当だったとは」


フェンリルからもたらされた情報によると、この森は変異が起きる前、本当に破滅の龍王が支配していたという。龍王は暴れまわり、それに挑む強力な魔物や他の龍さえもこの深部にははびこっていたそうだ。


しかし、三年前。突如として、森に**『何かの気配』**を感じた。


「違和感……か」


それは、強い魔物ほど敏感に察知できたわずかな気配、いや、違和感。実際に龍王ほどの強大な気配ではない。だが、近づきがたい、異質な気配だったという。


その日以降、強い魔物ほど、この森を去り始めた。黒きフェンリルは強者ではあるが、影に潜み隠れることに特化していたため、逃げずに森に残ったそうだ。


「龍王がおとなしくなった……」


そして、その日を境に龍王は暴れることもなくおとなしくなった。だが、フェンリルは、その異質な気配が、いまだに森の中心に森の王として存在し続けていることを感じているという。


(すべてが繋がった。この『異質な気配』こそが、森の変異の原因だ)


僕は、森の中心へと視線を向けた。


アールに憑依した僕の能力で、本気でその『龍王ではないほうの気配』を探る。魔力を森中に巡回させ、すべての気配を探る。


だが、僕が感じるのは、確実に強大な**『龍王の気配』だけだ。それは、今まで出会った中でも一番の強さ**。僕(アールに憑依ている状態)とて、手を抜いて戦ってはいけないと思わせるほどの強者の気配だった。ぬいレイがこの森の深部に近づけなかった理由がよくわかる。


しかし、フェンリルが感じたという**『異質な気配』**は感じられない。


(本当に何かがいるのか?と疑ってしまうほどだ。おそらく、ずっと森にいてようやくその違和感に気が付ける程度の気配なんだろう。でも、森の変異が起きている以上、何かは確実にある)


僕の思考は二つの可能性に絞られる。


究極の隠蔽: 僕でも全力で探しても気が付けないほど気配を隠すのがうまい。その場合、僕より強い可能性がある。正直考えずらいが、可能性がわずかでもある以上、無視できない。


龍王の変異: その『異質な気配』とやらは、龍王が何らかの変異を起こし、気配が変わったということ。これなら、強い魔物が逃げ出したこと、龍王がおとなしくなったこと、そして僕が『龍王の気配』しか感じないこと、すべてが説明がつく。


「フッ。どちらにせよ、面白くなってきたね」


自然と腕に力を込める。目的は、この**『異質な気配』、すなわち森の変異の原因**の正体を突き止めること。


「さあ、リュリュ。フェンリルも配下に加わったことだし、森の最奥へ向かおう。本当の主役は、今からだよ」


リュリュは、目を輝かせ、覚醒モードのまま頷いた。


「もちろん! 盟友アール様! この黒騎士リュリュが、終焉の真実を暴き出して見せましょう!」


二人は、黒きフェンリルを影に忍ばせ、森の中心、**『伝説の最奥』**へと足を進める。

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