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1章 20話 盗賊や冒険者を狩り続けて約1か月。次は森の深部を探検しようかな


夜。


あの初めての冒険者、盗賊狩りから早くも2週間ほどがたった。毎日リュリュと共にたくさんの盗賊や冒険者を襲って稼ぎ、魔物討伐も大量にこなした。この短期間で、並の冒険者が数年かけて集める資金と、貴重な素材や宝石、日常品まで手に入った。しかし、資金はどれだけあってもいい。資金はぬいトピアの実現にはいくらあっても足りないのだ。なので、今後ももちろん続けるよ。


しかし、僕の飽くなき好奇心がそろそろ新しい刺激を求めている。


その趣旨を話すため、今僕は秘密基地にいる。そこには、リュリュ、そしてルルアが集まっていた。


ルルアがいるのは、僕がアールに憑依して活動しているのを知っているからという理由だけではない。何をするにも常に僕から離れようとしないルルアを無理に突き放すより、最初から一員として受け入れた方が、ルルアの監視役という役割も兼ね、僕の行動が妨げられないのだ。


知っての通り、ルルアの身体能力は壊滅的だが、その代わり並外れた記憶力と情報処理能力があることが判明したのだ。だからルルアには、情報整理や、今まで集めた物資の管理を任せている。


集まるなり、リュリュはいつものように目を輝かせた。


「ユラちゃん、わざわざ集まって何をするんですか?もしかして、今宵の標的は、影に潜みし混沌、史上最大級のカモ(盗賊)狩りですか!?」


(影に潜みし混沌?実現しないないものをただかっこよく行っただけだな)


「リュリュ、よくわからないこと言ってないで、今日は森の中心の変異原因調査に行くよ」


僕は、アールを抱きしめたまま、リュリュに告げる。


「え……。盗賊、冒険者狩りじゃないんですか?」


リュリュは、目を丸くして尋ねる。


「うん。たまには違うこともいいでしょ? 面白そうじゃん」


「うっー……。すごくいやな気がするんですけど。この前に言っていた、ユラちゃんのぬいレイが唯一近づけていないところですよね。しかも、最近は魔物が強くなって、危険な森って聞いています。ユラちゃんがすごいことは分かっているんですけど……そのー……」


リュリュは、弱々しい声で服の裾をぎゅっと掴みながら訴える。


「いつも盗賊とか、冒険者を狩るのは嬉しそうなのに、どうしたの?」


僕がそう尋ねると、リュリュは、しぶしぶといった感じで答える。


「それはへっちゃらです。盗賊や冒険者なんて、影に潜んでスパッとやれば終わりですもん。お金も美味しいですし。でも、森の探索なんてお金にならないじゃないですか!それに、この森にはいろいろな伝説があって……。一度森の深部に入ったら、永遠に出られないって聞いていて……。ほかにも、お化けとかも出るとか,...」


(永遠に出られない? 初めて聞いたぞ。だが、伝説というものは、意外と無視できない。事実でなくとも、伝説を生んだ原因となる「何か」があるはずだ。一応、頭に入れておこう。でも、さすがにお化けは論外。そういうのいうのは信じない。非科学的だし、前世でも完全否定派だったんだよね。お化けを信じないあまりお化けが怖いと思ったことないくらいだし)


「お化けなんて信じてるのリュリュ?」


「何言ってるんですか?お化けは普通にいるでしょ。ユラちゃん知らないんですか?あの、心臓に悪い魔物」


「え?いるの!?知らなかった。本当にいるんだ」


ルルアも、リュリュもうなずく。


( あ、でも確かに、魔力がある世界だし、いてもおかしくないか。)

「どんなの?お化けって」


ルルアは落ち着いた声で解説する。


「実体がない。でも、襲ってくることはない魔物のことだよ。夜になると暗い場所でたまに出るの。彼らは直接的な攻撃はしないけど、精神に干渉し、獲物を意図的に彷徨わせるんだって」



「そうなんだ。それで、森にも出るということ? 今まで見たことないんだけど」


リュリュは顔を青くして訴える。


「ふつうの森にはいないです。だけど、森の深部にはいるってよく聞くんです!この森にもいるかはわからないですけど、こんなに大きい、しかも伝説が絶えない森、いるにきまってます。 」


「ふーん。お化け、面白そう」


「全然面白くないです。ユラちゃん。行くのやめましょ。お化けは直接的な攻撃はしてこないけど、余計にたちが悪いんです」


「大丈夫だよ。最悪逃げればいいじゃん。それに可愛いお化けもいるかもしれないしね。それに、知らない場所ってワクワクしない?」


「し、しません! ワクワクの反対です! ゾクゾクです!」


「さあ、それじゃあ、森の変異の原因調査に向けて、森の中心部に行こう」


僕は、ルルアに語りかける。


「ルルアは、お留守番ね。情報収集、任せたよ」


ルルアは、僕の言葉の意図を察して、すぐに頷いた。


「うん。いってらっしゃい。基地の防衛と、情報収集は任せてね」


僕はさっそくアールの憑依して向かいだす。


リュリュは、諦めたように、でも行きたくないのが伝わる感じで、アールの服の裾を両手で強く握りしめたまま、「いきたくないよー」と泣き言を漏らしながら、僕の後についてきた。その足取りは、まるで鉛のように重い。





アール(ユラ)とリュリュは家を出て森を歩き始めた。まだここは、いつもの盗賊や冒険者を狩っている森の中心から離れた近郊部。いつものような普通の森といったような光景が広がっている。


リュリュは最後まで「嫌だ嫌だ」と抵抗したが、ユラが無理やり連れだした。本体は、いつも通りベッドで寝かせ、ルルアが臨機応変に対応してくれるはずだ。


リュリュは、いつものようにアールを抱きしめながら、心底嫌そうに森へと足を進める。


「ユラちゃん。お化け出ないですよね。なんか森の中心に向かうにつれて視界が悪くなってませんか?」


リュリュは周囲を頻繁に警戒し、びくびくしている。少し揶揄ってみようかな。


「リュリュ。後ろに影が」


「え?リュリュの後ろに人影?あはは。冗談、ですよね……?」


「....」


「....ちょ、ちょっと!?何で黙るんですか!?まさか本当にリュリュの後ろに.....」


リュリュは勢いよく振り返る。「.....あれ、いない?」


「何してるのリュリュ?」


「ユラちゃん!?」リュリュは涙目で睨みつけてくる。


(からかうの楽しい)


リュリュを揶揄いながらしばらく歩き進める。ふと、気になったことがあって、僕は疑問を投げかけた。


「そういえばリュリュ、今更だけどこの家って、森の中にあるよね?何で?」


僕たちの家は、貴族では珍しく、森の中の辺境にある。上から数えた方が早いほどの大貴族なのに、普通、こんなところに屋敷を建てるのはおかしい。


僕の問いかけに、リュリュの雰囲気が一変した。


「フッ、その通りよ。わたくしたちの黒翼の領土(テリトリー)は、この禁断の盟約に包まれし**『悠久の森』**の入り口。」


リュリュは、盗賊狩りで手に入れた、装飾過多な黒色のマントを翻し、大げさに言葉を紡ぐ。その瞳には、先ほどの怯えは消え、力が漲っているのが見て取れた。リュリュの「覚醒モード」だ。


「この地は、古より**『破滅の龍王』の脅威が奔流(はんりゅう)する場所。我々の家は、森の深部に住まう『神威の至聖所』たる青の大精霊との契約により、その『龍王の脅威』を永遠に退ける『結界の楔』**として、この地に城砦を築いたのだ。」


(結界の楔……つまり、僕たちの家自体が、龍王の力を抑えるための重要な装置ってことか。それでこんな辺境に。へぇ、初めて聞いたぞ。青の大精霊と契約してるなんて、大貴族の家系っぽいね)


さらにリュリュはポーズを決め、言葉に力を込める。


「そして、この森の中部こそ、毎夜『運命の岐路』より迷い込みし冒険者や盗賊──即ち**『黒騎士の糧』たるカモが群れをなす場所。我々が今から踏み入る『深淵の立ち入り禁止区域』、すなわち森の深部には、その龍王と大精霊の『終焉の真実』が彷徨(さまよ)いし『伝説の最奥』**が眠る!」


「**数多の『特異点』が集うこの地こそ、『運命を紡ぐ者』たる私たちにふさわしき『玉座の間』。**ユラ様、どうぞ、ご心配なく。この、黒騎士リュリュが、すべてを薙ぎ払って見せましょう!」


リュリュは、先ほどまでの弱気な姿が嘘のように、自信に満ち溢れた表情で、僕の前に出てかっこよくポーズを決めた。


「頼もしいね、リュリュ。お化け怖くないの?さっきまで怖がってたじゃん」


「フッ。お化け?いるのであれば是非とも見てみたいものです。根絶やしにしてくれましょう。いえ、そんなことよりさあ、行きましょう。偉大なる盟友アール様。この森の深部に眠る、真実を暴きに!」


リュリュは、僕を森の中へと誘う。






僕とリュリュは、いつも冒険者や盗賊狩りをしている森の中部を何事もなく抜けた。そして、さらに奥、森の深部へと足を踏み入れる。ここに入るのは初めてだ。


深部の空気は、一歩踏み入れただけで、明らかに重く、(よど)んでいた。


(…質が違う。物理的な変化は感じられないけど、この森全体が魔力を帯びている。)


周囲を観察すると、視界に入る木々や草花は、見た目こそ変わらないが、微細な魔力の光を帯びているのが分かる。この深部では、存在するすべてのものが魔力で満たされているようだ。この魔力の異常な飽和こそが「変異」の一端なのだろう。この森の中心に何か強いものがいるのはこれだけで十分わかる。何者かが放出する魔力がこの周辺にも影響を与えているということだからだ。


この深部には、動物系、植物系、虫系など、多種多様な魔物がいるけれど、やはり最も多いのはウッドゴーレムだ。


「フッ、この程度の雑魚ども、黒騎士リュリュの敵ではない!」


リュリュは、華麗に黒いマントを翻す。その視界の先には、剣と盾を構えたウッドゴーレム(剣士)、そして背後に控える**ウッドゴーレム(弓士)**の集団がいた。数は、この辺りの木の三割を占めるという驚異的なほど多い。


リュリュは短剣を構え、厨二モード全開で詠唱を始める。


「聞け! 万象の(くさび)! 我が手に集いし影の奔流よ! ——『終末を告げる黒き断罪(ジェノサイド・ブラック)』!」


無意味だが香ばしい詠唱と共に、リュリュは影に潜むような高速移動を開始した。その短剣は、硬い生命力を持つゴーレムの急所を的確に突いていく。一撃で破壊とまではいかないものの、その動きはあまりに速く、複数体のゴーレムが同時に崩れ落ちていく。



(リュリュ、楽しんでるな……。まあ、このゴーレム相手なら、このくらいでちょうどいい雑魚だね)


僕の横では、セリスぬい、母ぬい、父ぬい、そして覚醒モードのリュリュぬいまでが、ゴーレムを圧倒している。リュリュぬいも、本人のモードに合わせて、マントを翻すような格好をしながら戦闘を繰り広げていた。


「僕もちょっと実験。ぬい爆弾」


僕は、丸いフォルムのぬいぐるみ爆弾を起動し、ゴーレムの群れの中に投擲した。


可愛い何かの動物を模した爆弾が爆音と共に爆発し、魔物はその一撃で多く吹き飛ぶ。


「さらに、ぬい爆弾に、属性を付与して、」


僕は続いて、色違いのぬい爆弾を投げる。青属性の水、緑属性の風、黄属性の雷、そして黒属性の影の力が込められた爆弾が、それぞれ連鎖的に爆破する。森の一部が荒れ狂うような光景だ。


(うん。かなりいい威力。だけど、属性によって威力が違うね。一番、僕が元々持っている青属性が威力が高い。たくさんの属性は出来ることが増えて便利ではあるけど、基本的には青属性を集中的に鍛えて使う方が良さそうかな?)


「さすがはアール様。美しい一撃。そして、かわいらしく高威力の爆弾。わたくしも負けてはいられませんね。今宵わたくしの力を解き放つ時です!」


リュリュは、短剣の柄を握り締め、再び無意味で香ばしい詠唱を開始する。ゴーレムを次々と倒しながら、僕たちの探索は森の深部へと続いていく。

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