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1章 15話 朝からうるさい。まさかリュリュ、対策なし?.

そして朝。僕は、まだ少し夢の名残に包まれながら、いつも通り目を覚ました。最高のぬいぐるみであるアールを抱きしめつつ、身体をゆっくりと横に向け、寝返りを打つ。


(まだ眠い……でも、昨日は楽しかったな)


思い返せば、夜は完璧だった。お金も物資も、手に入れた量は膨大で、これほどの成果を初日で挙げられるなんて、自分でも少し驚いている。


ただ、少しだけ不満もある。ぬいぐるみの素材になりそうなものや、便利そうな魔道具的アイテムは、ほとんど手に入らなかったことだ。まあ、完璧すぎるのもつまらない。これは、次への課題というやつだろう。


「むー……」


不満げに小さく唸り、もう一度目を閉じて二度寝をしようとしたその瞬間、騒がしさが僕の耳を打った。二度寝どころか、一瞬で目が覚める。


(……朝からなんだこの騒ぎは)


どうやら、原因はリュリュとセリス、そして母だろう。父の声も混ざっているが、例によって役立つかどうかは怪しい。眠気でぼんやりした頭を抱えながら、僕は不安定な足取りで声のする方へ向かう。もちろん、アールをしっかり抱きしめながらだ。


扉の前に到着すると、声がはっきり聞こえる。


「リュリュ! 一体、昨日の夜はどこに行っていたの!? そして、この子はいったい誰!? どうするつもりなの!?」


母の怒声。迫力が違う。これは逃げられない。いや、そもそも怒らているのは僕ではなくリュリュで逃げる必要なんてないけど。


「リュリュ、説明なさい!」


セリスの声も加わる。冷たく、厳格で、まるで氷の刃のようだ。


そして父。


「まあ、いいじゃないか。この子も可愛いし」


父の屈託のない声が響く。


(……全然フォローになってない。むしろ、混乱の核心だ。場の空気を読んだ結果がこれなの、父?)


フォローしたつもりなのか、これ。むしろ存在が混乱を加速させている。


(それにしても、リュリュ……やっぱり、夜のことを何も考えずに、ただ帰って寝たな。リュリュは厨二のときは、賢く立ち回る知性があったからもしやと思ったけど、やっぱり普段のリュリュは危機管理能力がゼロでやらかすんだね)


僕は、寝ぼけた頭でも、状況はすぐに理解できた。


「り、リュリュは……! その、えーっと、夜、深淵にて……」


追い詰められたリュリュが、咄嗟に逃げ込んだ先は、いつもの世界。その言葉のチョイスに、僕は思わず吹き出しそうになった。


「深淵? リュリュ? ふざけているの? わけのわからないことを言わないで! この子の親は? どこにいるの?」


母の声はさらに鋭さを増す。セリスは無言でリュリュを睨みつけ、彼女はその視線にぶるぶると震える。



「す、すみませんでしたー。で、でも、り、リュリュに言われても……。えーっと……」


「とにかく、その子をどうするのか、ちゃんと話しなさい。あなた、昨日は夜通し出かけていたのでしょう? 仕事もろくにせず……」


母は、呆れたようにため息をつく。

「セリス。リュリュから聞き出しておいてくれるかしら。私はリュリュが連れた来た子と話すから」

「はい。承りました。それじゃあリュリュ。そろそろ正直に話しなさい」

セリスはリュリュに冷たい視線をぶつける。


「ひっ。え、っとその昨日の夜ユラちゃんと一緒に」


リュリュが、僕の名前を出した。


「ユラ様、昨日の夜は、私と同じ部屋にいらっしゃいましたよ。どうやら少しお説教が必要なようですね」


セリスが、無表情にそう言った。

リュリュ。僕がなんの対策もなく行動するわけないじゃん。僕の本体はしっかり家にいたんだよ。夜セレスが、一緒にいたということは僕は知らないけど。夜、セレスは僕の部屋に勝手に入って一緒に寝てたのかな?


「え……?」


リュリュは、絶望的な顔をする。







でも、そろそろ扉の前で耳を澄ましているのは飽きた。

僕は扉を開けて、その騒がしい部屋へと入る。

「おはよー」

僕の姿を認めたリュリュは、わっと泣き出した。


「ユラちゃん! 助けてください! セリスさんが怖くて……!」


リュリュは、僕の背中に隠れようとする。だが、セリスが鋭い眼差しを向けた。


「ユラ様、おはようございます。今取り込み中でしてこちらはお気になさらず。リュリュ。この子のことについて、正直に話しなさい!」


セリスの冷たい視線に、リュリュはびくりと震える。


その瞬間、少女の瞳が、さらに輝きを増した。まるで宝物を見つけたかのように、彼女は僕というよりアールに飛びかかってきた。ホワイトブルーの髪の少女は、僕の抱えるアールを見て叫んだ。


「ぬいぐるみ様だ!」


そして、アールを抱き抱えている僕ごとアールに抱きつく。その柔らかい感触に、少女の顔は嬉しそうに綻んだ。


「……!」


少女は、ようやく僕の存在に気がついたようだ。アールに抱きついたまま、僕の顔をじっと見つめる。そして、ゆっくりと僕の顔に手を伸ばした。


「……姉ね? 姉ね……♪」


少女の無邪気な笑顔に、僕の心が少し揺れる。可愛いかもしれない。僕の妹。ありだ。


その間も、リュリュは、母とセリスに問い詰められていた。


「えっと……昨日の夜は、えっと……」


リュリュは、追い詰められて、再びあの笑い方をした。


「フフフ……汝、あ、セリスさん、本当にごめんなさい」


セリスが、冷たい目線でリュリュを見つめる。


「…………」


リュリュは、涙目で必死に口ごもる。


「それで、リュリュ? 話す気はあるのかな?さっきからふざけているようだけど。」


母が、静かに、そして厳しく問い詰める。


「ええと……! この子、一人で森にいたんです!それで、リュリュがかわいそうだからって、連れて帰ってきたんです!」


リュリュは、そう言って、僕に助けを求めるように目を向けた。もちろん僕は助けない。巻き込まれたくないもん。


リュリュは僕の考えがわかったのかさらに悲しい顔をする。

しかし、思わぬ助けが入った。


「そうか! リュリュはいい子だな!」


父が、にこにこと笑い、リュリュを褒めた。


「あなた! 軽々しくそういうことを……」


母がため息をつきながら、父をたしなめる。


「だって、困っている子を見たら、助けるのが当たり前だろう」


父の言葉に、母は何も言えなくなった。


「とりあえず、この子をどうするか、みんなで話し合おうではないか。」





そして話し合いの末。

「ほら、もうユラにも懐いているし、家族として迎え入れよう」


そんな感じで、父の適当な一言で、ルルアは家族として迎え入れられることが決まった。

母は額を押さえて深く溜息をつき、セリスも「アストル(父)様の気まぐれには慣れていますけどね…」と呆れ顔だったが、父がそう言った以上、仕方ないとばかりに皆がこの状況を受け入れた。

因みに、誰もが一番心配したのは、我が家の読心不能なリア姉との相性だ。皆が固唾を飲んでリア姉の反応を待っていると、ソファに深く沈み込み、ずっと天井の木目を見つめていたリア姉が、ようやく静かに口を開いた。

「別にいいんじゃない?勝手にすれば」

興味は無さげではあったが、この一言で場は収まり、ルルアが家族として正式に迎え入れられることが決まった。



少女には名前がないらしく、僕がルルアと名付けてあげた。アールがよほど気に入っているようだ。でも、アールを渡すわけにはいかないからね。僕の半身ともいうべき大切なぬいぐるみだから。代わりにルルアに似合うようなぬいぐるみを作ってあげた。僕のアールと同じくらいの大きさで、ルルアに似合いそうな、ツインテールと猫耳バージョンだ。僕の可愛い妹へのプレゼントだ。


そして、リュリュは、勝手な行動をした罰として、今月分の給料を半減されることになった。

……が、本人はまったく動じる道理はない。道理は。実際のところ、減らされるのは金貨1枚と銀貨50枚分だけだ。

つい先日、僕が金貨35枚を渡したばかりだから、懐はまだ潤っている。

しかし、いつも物への執着が強いリュリュ。



「ふっ、運命は試練を与える。わたくしですら抗えぬ運命。」


そう呟いて、胸の前で手を組み、窓の外を見上げている。

どう見ても減給ショックを誤魔化してる人にしか見えない。しかも何故か香ばしく。


「リュ、リュリュ……?」「リュリュが……壊れた?」

セリスと母が心配そうに顔を見合わせる。

いつもながら物に執着する姿勢は同じだが、発言が香ばしすぎて混乱している。


「 いや、違う。私はただ――金貨に縛られぬ自由を手に入れただけ!」


その宣言の直後、彼女のポケットから「チャリン」と金貨が一枚落ちた。

……自由の音らしい。


セリスと母が首を傾げ、リュリュに残念なもの、理解出来ない目で見つめるのも無理はない。


しかし、父は違った。


リュリュの香ばしすぎる台詞に当てられ、突如として過去の記憶がフラッシュバックしたのか、両手で自分の顔を覆い隠して苦しげに呻き始めた。


「リュリュ。それをやめろー。やめてくれ。黒歴史を思い出してしまう……!」


過去に自分が発した(であろう)香ばしい台詞と、心の奥底で眠っていた内なる厨二心が、父の精神内で激しく争っている。


「うぉーーー」

必死に己の過去と争う父。


そんな2人をみる母とセリスの目は冷たかった。

そしてルルアも、何か恐ろしいものを見たと判断したようだ。僕とアールを抱きついたまま、気になるけど決して後ろを見ないという固い決意を背中で示していた。


――そして、そんな意味不明極まりない光景は、家族全員の無視によって自然と次に移った。


ルルアの部屋が、なぜか僕と同じ部屋になったのだ。

部屋は余るほどあるのに、ルルアは僕や母の制止も聞かず、

「ユラ姉と同じ部屋! 毎日一緒に寝るの!」と満面の笑み。


その笑顔には、まるで新しいぬいぐるみを手に入れた子供のような輝きがあった。

――ほんと、なんでこんなに懐かれてるんだろう


でも悪い気はしない。

登場人物紹介

ルルア ユラの妹になった。盗賊に捕まっていた少女。推定6歳。

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