1章 13話 戦利品回収♪
僕は、容赦なく装備品を剥ぎ取る。もちろん、自分でやるのは面倒くさいので、ここはぬいレイの出番だ。しかも、ぬいレイは収納機能も持っているため、いくらでも持ち込める。いや、正確には上限はあるけど、ぬいレイはたくさんいるし、上限はほぼないようなもの。大丈夫だろう。
その中で、冒険者のなかのサクラという回復職の少女が可愛いから、お持ち帰りしようと思ったけどやめた。変わりに少しイタズラを。ぬいレイを忍ばせる。驚いてくれるとうれしいな。
僕は、すべての装備品を回収すると、盗賊の洞窟に向かって歩き出した。
一番の目玉は、洞窟の中だ。盗賊は貴重なものや物資を溜め込むのが定番だもん。無かったら泣いちゃう。
そんなことを思っていると横から声がかかってきた。
「ユラちゃん、私もついて行っていいですか?」
リュリュが、僕の横に並び、上目遣いで尋ねてくる。彼女は、もうすっかり、いつものドジなメイドに戻っていた。
「ダメだよ。リュリュは、ここで見張っていて」
「えー!ずるいです!私も財宝見たい!」
リュリュは、不満そうに口を尖らせる。
「洞窟に罠とかあると思うし危険だよ。まだ、中に敵もいるかも知れないし。それでも行く?」
リュリュは
「確かに....あれ?でも、ユラちゃんと一緒が一番安全では?」
「ユラちゃんがいないと、ちょっと怖いです……私、前みたいに失敗したくないので」
予想通りの答えが返ってこなかった。いつものリュリュならこれで説得出来るはずなのに。何故か今のリュリュは妙に賢い。いいものがあれば独り占めしようと思ってたのに。
「……報酬は、後でちゃんと多めに渡すから。だから、ここで待っていて。外で警戒している人は必要でしょ」
「本当に!?」
「うん。だからそん間周りの警戒と、生きている盗賊や冒険者をぬいレイたちと共に縛り上げといて。それに、まだ外にも戦利品があると思うよ。」
「確かに。わかりました。外で戦利品漁ってます」
リュリュは、僕の言葉に、すぐに機嫌を直した。
まあ、外にある戦利品はたかが知れてる。だって、ぬいレイが回収しまくったから。
僕は、物でリュリュは誘導し、リュリュの監視役を確保すると、盗賊の洞窟の入り口へと足を踏み入れた。中は、薄暗く、ひんやりとした空気が漂っている。
「さてと……どんな“もの”が、眠っているのかな……?」
僕は、胸を躍らせながら、洞窟の奥へと進んでいく。
洞窟の奥へと足を踏み入れた僕の目の前には、信じられないほどの光景が広がっていた。
そこには、金銀財宝、食料、装飾品、武具――まるで物欲の塊を具現化したような世界。
積み上げられた金貨の山は、光を反射して壁一面を淡く照らしていた。
空気が重たい。たぶん、長年この場所に“欲”が溜まっているんだろう。
「うわぁ……これは……」
思わず声が漏れる。
すごい量だ。これを全部合わせたら、ちょっとした城が建つかもしれない。
金の輝きが目を刺す。食料の香りすら、どこか甘ったるく感じる。
(これ……全部、盗賊が溜め込んでたのか? どれだけ奪えば気が済むんだか)
とはいえ、正直ありがたい。僕たちの補給には困らないし、素材としても有用だ。
でも、この量を手で回収なんて無理だ。
「よし、ぬいレイたち、出番だよ」
僕は手を掲げ、空間に魔力を流し込む。
次の瞬間、空気がふわりと揺れ、大小さまざまなぬいレイがぽん、ぽん、と姿を現す。
十体、二十体、三十体――ぬいレイたちは整列し、主の命令を待っている。
「食料と財宝を優先。壊れ物は丁寧にね」
頷くとともに、ぬいレイたちは動き出した。
宝石や武具を軽々と抱え、次々と“収納”していく。
空間が歪むように、金貨の山がひとつ、またひとつと消えていく。
見ていて気持ちいい。まるでハイテクな掃除機で掃除してる感覚。
「順調順調」
思わず口に出た。
ぬいレイたちは働き者だ。たまにサボるぬいレイがいるけど。一体誰の性格が出たんだ?でも、ほとんどのぬいレイは黙々と作業をこなし、倉庫のように次々と吸い込んでいく。
この子たちがいなければ、僕は一生この洞窟で荷物整理してたかもしれない。
そんな中――視界の端で、ひときわ異質な“光”が僕の目に留まった。
他の金属とは違う、深い闇色の輝き。
そこにあったのは、漆黒の短剣だった。
「なんだろう、これ……?」
僕はその短剣を持ち上げた。
指先にひやりとした冷たさ。けれどすぐ、熱のような何かが掌に伝わってくる。
吸い取られる――そんな感覚だ。
「……魔剣、かな」
試しにセリスぬいを呼び出す。セリスぬいは鑑定スキルを持っている。
ぬいぐるみの体からふわっと光が漏れ、スキル《鑑定》を発動。
『漆黒の短剣』
等級:4(ユニーク)
種別:魔剣
能力:使用者のもとに自動で戻る。自動修繕機能付き。
デメリット:使用者の精神力を下げる。一定条件下でテンション上昇。
「うん、やっぱり魔剣か……」
僕は軽くため息をついた。
性能は良い。というかチート級だ。けど、この“テンション上昇”という響きがイヤな予感しかしない。
要するに――依存性のある武器ってことだ。
タバコとか酒みたいなもの。使えば使うほど気分は上がるが、副作用がある。
「……うん、リュリュに押し付けよう」
思考が早い。
こういう“リスク付きの高性能装備”は、性格的に僕よりあの子の方が向いている。
最悪、売っても高くつくだろうし。
(そういえば、等級ってどんな基準なんだろ)
僕はもう一度、鑑定ウィンドウを呼び出した。
等級:1~6
1 ノーマル(N)
2 レア(R)
3 ハイレア(HR)
4 ユニーク(U)
5 アルティメット(AR)
6 レジェンド(L)
「うん……ユニークで4か。人が作れる最上級クラス、ね」
じゃあ、僕のぬい剣はどのあたり?もしかして等級5とか?
興味本位で鑑定してみる。
『ぬいぐるみ剣』
等級:2(レア)
能力:所有者がぬいぐるみである場合、魔力量に応じて強度上昇。
説明:ただのぬいぐるみ。膨大な魔力がないと武器として機能しない。
「……性能ゴミカス」
現実は甘くは無かった。正直、笑うしかない。
いや、ぬいレイたちのほうがまだ武器になりそう。
今度ちゃんと鍛造しよう。最低でもユニーク級――いや、アルティメット級は目指したい。
「よし、これでこの部屋は回収完了っと」
ぬいレイたちは整然と並び、戦利品を抱えて帰還態勢に入っている。
光を反射していた金貨の山は跡形もなく、まるで最初から何もなかったかのような静けさ。
「……よし、次の空間に行こう」
僕は、漆黒の短剣を自分の影に収納し、奥の通路へと足を向けた。
洞窟の奥からは、かすかな風の音と――誰かの息のようなものが聞こえる。
「ここには、まだ“何か”あるのかな……」
ぬいレイたちが一斉に振り向く。
僕は胸を高鳴らせながら、暗闇のさらに奥へと足を踏み出した。
洞窟のさらに奥へと進んだ僕の目に、信じられない光景が飛び込んできた。
鉄格子の向こうに並ぶ人影――商人らしき中年、血まみれの冒険者、痩せた子供、年老いた行商人。ざっと見回しても二十人は超えている。皆、目を虚ろにして上半身を震わせている。口元には何かが封印されたように、言葉が出ないようだった。
(……あ、 お宝を全部見つけた後に、こういうのって想定してなかった。こういうのは盗賊とセットなのが定番なのに)
正直に言えば、最初は金銀だけで頭がいっぱいだった。襲われている商人を見つけたときも、「荷物回収が増えたラッキー」としか思わなかったくらいだ。だって、他人に興味ないし。だから、盗賊に捕まっている他人なんて、考えてすらいなかった。
でも、鉄格子越しに向けられる視線は、やっぱり重かった。助けを求めるそれだ。ぬいぐるみの僕に、期待するようなとても切実な目。そういうのは、ちょっと苦手だ。が――思考はすぐに別の方向へ回った。
(利用できるかもしれない)
僕は深呼吸をしたふりをして、冷静を装う。まずは状況確認だ。牢の中の者たちは打ち据えられている。冒険者らしき男たちは拘束具で動きを封じられ、体中が痛々しい。子供の一人は震えて膝を抱えている。誰もが喋れない魔法を掛けられている様子だ。
「……ねぇ、みんな」
僕の声は小さいけれど、鉄格子越しに届く。彼らは一斉に僕を見る。驚いたように、期待したように。心の中でちょっとだけ罪悪感が湧いたが、すぐに消した。僕の優しさは、自己投資である。
「ここから出たいよね?」
短い問いに、ほとんどの人が静かに頷く。数名は目が虚ろすぎて反応が薄い。よし、使える。僕はポケットの中で短剣の重さを確かめながら、小さく魔力を回す。最初に思いついたのは氷の鍵だった。だが、鍵穴は不自然に強化されている。氷を流しても、表面で溶けてしまった。
(なるほど、単純な施錠ではない)
ならば直接だ。僕は掌に小さな爆発魔力をため、鍵穴に向けて一点だけ集中させた。破裂音とともに、鉄格子の一片が歪んで落ちる。騒音を立てたくなかったけれど、ここは効率優先だ。
「……!?」
牢屋の中の人々から驚きの声が漏れる。目に生気が戻り始める。僕は鉄格子を押し開け、ひとりずつ手を引いて外に出す。血を拭き、傷に回復魔法をかけ、喋れなくしていた封印を解除する簡単な呪文を唱える。魔法の波が静かに彼らを包み、苦悶の表情が和らいでいった。
「大丈夫だよ。盗賊たちは、みんな僕が片付けた。もう怖くない」
僕の言葉に、何人かが号泣して僕に抱きついてきた。だがそれは避ける。知らない人とは仲良くする気はない。
「助けてくださり、本当に、本当にありがとうございます! えーっと……」
商人たちは、僕に感謝を伝えようとするが、どう呼んでいいのか分からず、困惑している。
ユラは仕方なく、自己紹介をした。
「僕はぬいぐるみのアール」
「おお、素晴らしきお名前。ぬいぐるみのアール様、この度は救っていただき、誠にありがとうございます!」
商人をはじめ、牢屋にいた者たちは、口々に感謝を述べた。うん、悪くない。
「それと、みんな、お金を盗賊に取られてないでしょ?」
僕は、そう尋ねる。彼らは、頷いた。
「はい。私たちに持ち物は全てここに蔓延っていた盗賊団に奪われてしまって。」
「そうだよね。だから、こいつら(盗賊たち)を運んで、お金にするといい。全員指名手配犯だと思うから、結構お金になるよ。ついでに、そこに気絶している冒険者たちも運んであげて。彼らは君たちを助けようとしてくれたんだ。よわよわだったけど」
ユラは、後始末を彼らに押し付けることにした。冒険者ギルドで賞金首を換金したかったが、ユラは冒険者ではないし、ぬいぐるみではギルドにも入れないだろう。だから、すべて彼らに任せることにしたのだ。
「なんと……。そこまでしていただけるとは。なんとお礼を言ったらよいか」
ここで終わりにしてはいけない。恩は返ってこそ価値が出る。僕は彼らの目を見て、声を低くして提案した。
「それじゃあお願いがひとつあるのだけど。」
商人の一人が震える声で答える。
「何でも、聞きます! この恩は一生忘れません、アール様!」
僕は勝ち誇ったようににやりとする。ここからが本番だ。恩を売る――これは強力な投資行為だ。僕が街での影響力を広げるための布石になる。ぬいぐるみの存在が街に知れ渡れば大きなメリットが生まれる。ぬいレイたちが、世界に自然に馴染み、行動範囲が広がる。ぬいレイはより強力な情報網となり、僕の目を遠くまで届かせる。
それに、ぬいぐるみの良さを世界に広げたいという個人的な感情も少し。
「それじゃあ1つ。ぬいぐるみをこの世界に広めるて。ぬいぐるみの可愛さを。できる?」
僕の言葉に、商人たちは顔を見合わせた。
「はい。私は商人として、ある程度の規模で商売をしておりますので、可能です! 是非とも私に、あなた様のそしてぬいぐるみの素晴らしさを広めさせてください!」
商人を先頭に、皆が同意する。
「うん。素晴らしい答え。それじゃあ、これを君たちにあげよう」
僕は、そう言って、一人ひとりにぬいレイを渡す。これは、監視と情報収集のためだ。
「いったい、これは……?」
「これは僕が作ったぬいぐるみ。お守りだと思って大切にしてね。それと、ぬいぐるみの良さを、しっかり広めるの」
「おお。わかりました。全力でやらせていただきます!」
商人たちは熱心に「本当に助かりました。必ず約束を果たして見せます!」と答え、荷車に縛った盗賊たちと、気絶していた冒険者たちを積み込んでゆっくりと洞窟を後にした。背中越しに彼らの姿を見送りながら、僕は自分の手を見つめた。ぬいぐるみの掌は小さく、冷たく、計算の痕跡で満ちている。
(完璧だ。恩を売って、情報網を作る。文句なしの一手)
ただし、成功するかどうかは相手次第だ。商人の腕、冒険者ギルドの態度、街の噂屋の口の堅さ。リスクはあるが、期待値は高い。僕は短剣を影へと収納し、洞窟の入口へと向かった。ぬいぐるみたちが街で何をしてくれるか、じっくり楽しみにしていよう。
「さあ、帰ろうか。やることは終わったしね」
僕は軽い足取りで洞窟を出た。胸の中では、確かな満足がくすぶっていた。助けたのは自己利益のため――でも、結果的に誰かが助かるなら、悪くない取引だと思った。そうだ。これでまた一歩、世界が僕に都合良く回り始める。




