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二話 回想 転生前の記憶

回想(転生前)

人生において最も大切なものは何かと聞かれたら何と答えるか。


僕は迷うことなく答える。**「ぬいぐるみ」**と。ぬいぐるみこそが全てなんだ。


ぬいぐるみの虜になったきっかけは、本当に些細なことだった。

あるゲームにハマり、そのキャラクターが好きになり、何となくそのデフォルメされたぬいぐるみを買ったことが始まりだ。

リアルなフィギュアでは満たせない、あの触り心地の良さ。一緒にいるだけで心が安らぐ、愛らしい存在。

特に、僕は人型のキャラクター、少女などのぬいぐるみに惹かれる。まあ、動物のぬいぐるみ(ねこだんごなど)も悪くはないけど、僕の魂を揺さぶるのは、あくまで可愛く抱き心地の最高な人型のぬいぐるみなんだ。

もしかしたら、僕には幼いころから両親を亡くし、さらに、親友も目の前で失ったということから、心の支えが欲しかったのかもしれない。

僕自身は涙は流さず、ただ事実を受けれたつもりだったんだけど。

両親や親友のような心を許せるそして頼れる存在が消えた世界の不確実さの中で、唯一、変わらずそこにいてくれる存在を求めたのかもしれない。

まあ、そうにしろ、今となっては僕は気にしない。理由はともかく、ぬいぐるみが僕の人生のすべてなのは、揺るぎない事実なんだから。


そして、ぬいぐるみに夢中になるうちに、僕の夢はいつしか壮大なものへと変わっていた。それは、意思を持つ最可愛で、最高のぬいぐるみを作り、さらに、僕とぬいぐるみたちだけの理想の空間を創造すること。**「ぬいトピア」**という僕だけの楽園計画だ。


今、僕の腕に抱き抱えられているのは、僕がこの世で最高の素材と技術を注ぎ込んだ、文字通りの最高傑作だ。ツインテールの少女を模した、あるキャラクターを参考に作り上げた、その名も**「キラピピ」。こだわり抜いた特注の素材は、まるで生きているかのように暖かさと、そして弾力のある最高の抱き心地を実現し、並外れた耐久性を持つ。しかし、まだ肝心の「意思」**を持たせることには成功していない。


僕は、いつものようにキラピピを抱きしめながら大学のキャンパスを歩く。


当然、周囲の人々からは奇妙な目で見られる。それは仕方ない。男子大学生が可愛らしい、少女のぬいぐるみを抱きしめて歩いているのだから。

だけど、周りなんて、どうでもいいんだ。何を言われようと、どんな視線を向けられようと、僕はキラピピをこの腕に抱きしめていたい。だって、僕の安心の根源なんだもん。


それに、彼らを気にする余裕なんて、僕にはない。


ぬいぐるみに意思を持たせるという、この難題を解決しなければならないからね。 周りの人間は、ただ一人を除き、僕を馬鹿にしてくる。だけど、僕は本気だ。そのために、僕は瞑想をしたり、自然を感じるために山、海、砂漠などで長く過ごし、「魂」の存在を感じようと努力した。この県内で一番有名な国立大学に入ったのも、ぬいぐるみの素材と、魂のメカニズムを研究するためなんだ。


しかし、いまだに魂の気配は感じ取れない。魂は本当に存在しないのか?ならば、どうすればキラピピに意思を持たせられる?


そんなことを考えながらキャンパス内を歩いていると、背後から賑やかな声が飛んできた。


「先輩。おっはよーございます!それと、キラピピちゃんも!」

やつが来た。

後ろを振り返らずともわかる。僕の唯一の理解者であり、この夢に共感し手伝ってくれる、心から同志と言える存在――後輩のカレンだ。実はこの最高傑作のぬいぐるみであるキラピピの名前を勝手につけた人物だったりもする。だが、その底抜けの明るさと、常に全力で突っ走る勢いが、僕の静謐な思考をかき乱す、とっても「うるさい」奴でもある。


「カレンか。おはよう。それじゃあ」


僕は返事を最小限に留め、足を早めた。彼女の陽気に巻き込まれると、この重い研究で凝り固まった気力が削がれてしまう。


「ちょっと待ってくださいよ、先輩!」


案の定、カレンは追いかけてくる。カレンは息を切らしながら僕の隣に並び、苦笑した。


「全く……こんなに可愛くて優秀な後輩から逃げるなんて。そんなことするの先輩だけですよ。プンプン(*`へ´*)。それにしても、やっぱり目立ちますね。今日もすぐに見つけられましたよ」


「フッ、それは当然だ。我がキラピピの可愛さは、どこに行っても人目を引いてしまうからな。」


「……そうですね」カレンは呆れたように肩をすくめる。その反応に、彼女がこの状況に完全に慣れていることが見て取れた。


「でも、先輩。かっこつけてるとこ悪いですけど……先輩、昨日も徹夜してんでしょ。顔に疲れが出てますよ。雰囲気だいないです」とカレンは遠慮なく言い放つ。


「おかしいな。完璧にわからないように整えてきたはずなんだが」


髪の毛だって整えた。目にクマがないかも念入りに確認したのに。


「一体何を整えたっていうんですか?目元の隈は隠そうとしたようですが、バレバレです。しかも、服。表裏逆です!」彼女は僕の顔を覗き込み、心底呆れた顔をする。


「なんだと!? ......まあ、いい。それより、頼んでいたものは手に入ったか?」僕は話題を切り替える。服は表裏は、気にしない、、、ことにした。

「はい。もちろんです!ぬいぐるみの素材に最適な物質を研究してそうな論文、いくつか見つけて来ました!私を誰だと思っているんですか!」と、

彼女は得意げに胸を張り、USBメモリを渡してくる。渡されたUSBには、ちゃっかり猫のぬいぐるみの小さなチャームがついている。こういう部分が、やはり彼女は憎めない。


「助かる」


「えー、それだけ?もっと感謝してくださいよ。夜遅くまで探したんですよ?それに服を直そうとか思わないんですか!」


彼女の抗議を、僕はひらりとかわす。


「それじゃあ、講義の時間だ。行こうか」



僕が踵を返してキャンパスの通路を歩き始めようとした、その時だった。


**ゴッ……**という、低く、湿った、異様な音が響いた。


次の瞬間、僕たちの横にあった古いクスノキが、まるで粘土細工のように音もなく斜めになり、凄まじい轟音と共にこちらに向かって倒れてきた。昨夜の雨で地面が緩み、根が腐食していたのだろう。


「カレン!」


カレンは倒れる木とは逆方向を見ていて、完全に気づいていなかった。考える間もなく、僕は彼女の細い手首を掴み、全力で引っ張った。

体は反射で動いたが、しかし、自分の身体能力なら間に合う。

足に力を入れ踏み込もうとする。


しかし、次の瞬間、視界がぐらりと揺らぐ。


めまいだ。昨夜の徹夜、魂探しのための無理な山籠もり……。

疲労が限界を超えた身体は、世界の重力に耐えられず,この最悪なタイミングで視界が白く傾いた。


その一瞬が命取りになった。


木が、僕に向かって避けることのできない巨大な壁となって迫ってくる。ああ、逃げられない。


絶望が全身を凍らせる中、僕の腕の中にある最高の宝物だけが、僕の意識を繋ぎ止めた。


「キラピピ……!」


僕は残された全ての力で、抱きしめていたキラピピを、カレンが逃げた方向へと高く投げた。


ドン!


視界が真っ白になる。頭の中の思考が粉砕されるような、世界が軋むような破壊音。そして、鈍器で殴られたような強烈な衝撃と、土と湿った木の皮の、甘く、生々しい匂いが鼻腔を占領した。


意識の底

「せんっ、ぱいっ!」


カレンの声にならない、悲鳴のような叫び声が遠くから聞こえる。


僕はかろうじて目を開いた。上半身は、倒れた木の幹を辛うじて避けたようだ。良かった。カレンは怪我なさそうだ。そして、投げたキラピピも、芝生の上で無事、静かに横たわっている。


だが、これはもう、ダメだ。


意識は霞がかったように朦朧としている。口の中が鉄のような味で満たされている。頭の片隅で、自分の身体から温かいものが流れ出ているのを感じた。下半身の感覚は、まるで最初から存在しなかったかのように消え失せている。


なんて、不運なのだろう。木が倒れる。そして、その一瞬でめまい。天文学的な不運が重なって、僕は今、この巨木の重みの下にいる。


ああ、これは死ぬ。


心残りは一つしかない。


**夢が、叶えられなかったことだ。**意思を持ったキラピピと、理想の空間で、永遠に過ごすという、僕のたった一つの夢。


キラピピの愛らしい顔が、歪んだ視界の中でぼやける。もう、声も出ない。


(キラピピ、お別れだ。いままで、ありがとう……)


(カレン、僕の、大切なキラピピを……頼む)


最後に、カレンが泥にまみれながら僕の元へ駆け寄ってくる、その震える顔を視界に捉えたのを最後に、僕の意識は、暗く冷たい深淵へと沈んでいった。


登場人物

カレン  主人公(転生前)の後輩であり唯一の同志。

キラピピ  主人公が転生前、どんな時でも一緒にいた最高傑作のぬいぐるみ


主人公が「ぬいぐるみ」として本格的に活動し始めるのは、物語の導入を終えた【第15話】(1章7話)の以降を予定しております。また、身と心までもが完全にぬいぐるみとなる【完全人外化】は、長期連載の【第68話】(2章22話)頃となる見込みです。序盤は人間の姿ですが、ご了承ください。

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