一話 日常.
窓広大な敷地を持つ壮麗な屋敷の一室。そこは、豪華とまではいわないが必要なものはすべてそろい、居心地が良い普通の空間だった。その一室にある天蓋付きのベッドの上で、一人の少女が、白く強い光に顔を歪ませていた。
彼女はユラ。まだ6歳にもなっていない幼い体には不釣合いなほどの艶やかな銀の髪を持ち、目覚めたばかりの瞳は、薄い赤色をしている。
窓から差し込む光は、真昼の砂漠のように白く強く、薄いレースのカーテンを突き抜けて、肌を焼くようだった。それはまるで「起きろ」と叩き起こすために、太陽が狙い澄まして放つ矢のようだ。
「……う、まぶしい」
あと少しで6歳を迎えるという年のユラは枕に顔を押し付け、かすれた声で呟いた。
――うっ、もうすこし寝かせてくれればいいのに。ほんの少しでもいい、あと五分でもいいのに。
しかし、一度目が覚めてしまえば、頭痛や全身を支配する倦怠感で二度寝などできるはずがない。ユラはだるそうにしながら、ゆっくりと赤い瞳を開いた。
なぜ、こんなに倦怠感が全身を支配しているのかと言えば、簡単いうと自爆だ。寝る直前まで、いや、正確には、神経が悲鳴を上げて意識がブラックアウトする直前まで、スキル**「ぬいぬい」**を試行し続けたせいだ。
身体の奥底から湧き上がる激しい疲労。こめかみを氷の楔で締め付けられるような、刺すような激しい頭痛。視界は船に乗っているかのように揺らぎ、世界は常に焦点が合わない。
「うっ……」
少しでも体を動かそうとすると、頭痛が波のように押し寄せ、ユラは思わず顔を歪ませる。魔力枯渇の副作用は、本当に最悪だ。転生してから毎日欠かさず数千回は経験しているが、この苦痛に慣れることは決してない。
(いつものことだけど熱が40度越えのとき以上にやっぱりだるい。死の瞬間よりも、この**「生かされたままの苦痛」**の方が、よほど精神を削られるよ)と心の中で毒づく。
つらいのなら、魔力枯渇しないようにすればいい。だが、それはユラにはできない選択だ。
ユラにとっての最優先事項は、ただ一つ。最高のぬいぐるみだ。その前では、この肉体の苦痛も、周囲の心配も、命の危険さえも、全て取るに足らない塵のようなものに過ぎない。
ユラにとってぬいぐるみは、もはや**「欲求」ではない。それは「絶対的な真理」**だ。
転生してすぐ手に入れたスキル――「ぬいぬい」。 ぬいぐるみを作るためだけに存在する、たったそれだけのスキル。けれど、ユラにとってそれは**“生きる理由”**そのものだ。
**最高のぬいぐるみさえあれば、それだけで生きていける。最高の触感と、最高の沈み込みを持つ「存在の安定剤」**をこの手で作る。それがユラが二度目の生を得た、唯一無二の使命だった。
しかし、肝心の「ぬいぬい」は、今まで一度も発動したことがない。発動させようとすると、際限なく魔力を持っていかれ、試行の瞬間に魔力が枯渇してしまうのだ。
毎日、毎回、スキルを試しては失敗して、激痛に耐えかねて気絶し、目覚めて、また挑戦する。転生してからというものこれの繰り返し。
すでに数千試した。それでも作れない。
でも、諦めるわけにはいかない。どんなにつらくても、どんなに難しくても、絶対に。
(だって、あれは他の何にも代えられない。布の温度、縫い目の感触、抱きしめた時の沈み込み。あれは**“存在の安定剤”**だ。人間に酸素が必要なら、僕にはぬいぐるみが必要なんだ。違う?)
魔力枯渇の代償は決して軽くはない。魔力が枯渇してから最低でも丸一日は、何も考えたくないと思うレベルの重い頭痛が続く。思考なんてままならない。さらに、まるで四十度以上の高熱を出したときのような強烈な倦怠感も身体を覆い続ける。転生してから毎日スキルを試し、この副作用を患っているおかげで、さすがのユラも、少し性格が捻じ曲がってしまった自覚があるほどだ。
しかも、もちろん、魔力の枯渇は死ぬリスクと隣り合わせだ。魔力をためる器に大きな負担がかかり、それが壊れてしまう可能性がある。そうなれば、この世界で命を落とすだろう。
そこは幸いユラは転生前に魔力なんてものを持っていなかったからこそ、この危険に敏感に気づけた。だから、転生初日に魔力枯渇した時、どうにか独自で対処法を編み出し、命綱は確保した。
だが、そんなことは知らない家族はユラをすごく心配する。しかも、さらに、身体能力が全く上がらない副作用もありユラの家族、それに、メイドはこの上ないほど過保護だ。
でも、悪いことばかりではなかった。魔力が枯渇して気絶するごとに、魔力が少しずつしかし着実に増えていく感覚がある。それに魔力が体になじんだり、扱いがうまくなったりもする。
今では、魔力量、そして魔力の扱いについては誰にも負けない自信があるほどだ。
それにしても。文句がある。何で、スキルが発動しないの!
もう僕の魔力量、異常なほどあるよね?
それなのに発動しない「ぬいぬい」。本当に謎。
魔力枯渇は本当につらいのに、いまだに報われない努力。さらに、いつか必ず成功するとも限らない。けれど、どうして続けているかというと……それは何度も言うがぬいぐるみのためだ。ぬいぐるみこそすべて。ということに尽きる。
仕方なく、抱きしめていた枕を、いつものぬいぐるみの代わりだとばかりにぎゅっと抱きしめ直した。冷えた布地が、微かな安心をくれる。
部屋には僕以外、誰もいない。カーテンの向こうで風が梢を鳴らす音だけが、かすかに聞こえる。
(おなかがすいた。普段何も動いていないのに、おなかはすくんだよね。いや、普段動かないというより体力がなくて動けないんだけど。)
ということで朝食を食べに行こう。メイドのセリスが作ってくれているはず。あ、でも、今はもう時間帯的に朝というより昼だから昼食だ。まあ、そんなのどうでもいいけど。とにかく、ベットから降りよう。――そう決意して、ユラはベッドの縁からゆっくり足を延ばす。
その刹那、**ドスン、**と鈍い音が響いた。 体はあっさりとバランスを崩し、床に落ちる。魔力に全てを捧げたこの脆弱な体では、立ち上がるという簡単な動作すら、重労働なのだ。足首と膝に鈍い痛みが走る。 「うっ……」思わず呻き声が漏れてしまう。
起き上がる気力もなく、僕は床に横たわったまま天井を仰いだ。
(痛い。うまく降りられなかった。というか体力尽きた。自分でベッドの上に戻れなそう……誰か、来ないかな)
声に出す気力もなく、ただ祈る。
言葉だって、この世界のものはまだ断片的にしか分からない。だから、助けを求めようにも出来ない。
しかし、どうせすぐ誰かが――
扉が勢いよく開く音が、その予想を的中させた。
現れたのは専属メイドのセリスだった。緑色の瞳にエルフ特有の尖った耳が微かに震え、銀色の髪が風をはらんで揺れる。彼女の表情には、いつもの完璧主義な隙のなさではなく、明確な焦燥が浮かんでいた。
「ユラ様! またお一人で起き上がろうとされましたか!お怪我は大丈夫ですか!」
セリスは駆け寄り、ユラの全身を丁寧に確認する。その手つきは、どこか過保護で、けれど温かい。大丈夫だと示すように、僕はゆっくりと首を振った。 彼女が安堵の息をつく音が聞こえ、軽々と抱き上げられる。
体重のない自分が、情けなくも羽のように持ち上げられる感覚に、ユラは内心で苦笑した。
まもなく、温かいスープと焼きたてのパン、新鮮なフルーツの乗った朝食が運ばれてきた。湯気とともに香草の香りが漂い、空っぽの胃が小さく鳴る。
「どうぞ、ユラ様。まずは何かお腹に入れてください」
セリスはスプーンを手に取り、僕の口元へ差し出す。自分で食器を持つことすら重労働な今は、甘えるしかない。頬に少し熱が集まる。
ひとくち、温かいスープが体に染み渡っていく。塩気と甘みが、疲れた体を目覚めさせるようだった。
「ユラ様。1人でベッドから降りちゃダメですよ。危ないですから。」
セリスが注意するように言う。でも、この世界の言語を全くと言っていいほどまだ身に着けていない僕にとって、さっきから何を言っているかわからない。
やっぱり言葉がわからないとやっぱり不便。
でも、雰囲気から察することはできるよ。
多分「一人でベッドから降りちゃダメ」と注意しているんだと思う。
でも、あくまで予想であって、実際にあっているかは確実ではない。
十分間違えの可能性がある。
ということで、僕は首をかしげてみせた。少し、からかい心もある。
「もう……いつになったら、私の言葉をちゃんと理解してくださるのかしら?」
セリスはそう言って、僕の頬をぷにぷにとつついた。
食事中なんだけど――そんな抗議の声を心の中でだけ上げる。
けれど、不思議と、セレスの指先の温度を拒む気にはなれなかった。
散々なでられ、つままれ、つつかれながらも、なんとか朝食を食べ終えると、セリスはようやく腰を上げた。
「ユラ様、この本でべんきょうもしてくださいね。早く言葉を覚えてくださいね。それと絶対に、一人で移動しようとしないでくださいね。怪我したら大変です。」
セレスは諭すように言う。
やっぱりまだこの世界の言語は理解しきれない。
でも多分「絶対に一人でベットから降りようとしないで。危険だから。と、お勉強もしてくださいね」ということだろう。
そう言い残し、彼女は一冊の本を僕の膝の上に置いた。
革表紙に金色の装飾が施されたそれは、持ち上げるだけでずっしりと重い。
僕にとっては。
ふつうの人ならこれくらい余裕で持てるだろう。
だって本の薄さは6㎜程度。
セリスは、にこりと微笑んだものの、その目の奥には「不安しかない」という光が残っていた。 扉が閉じられる最後の瞬間まで、彼女の尖った耳がわずかに揺れているのが見えた。
……少しくらい信用してくれてもいいと思うんだけど。確かに、動き回りたい気持ちはある。でも、正直、体は鉛のように重い。立ち上がる気力すら残っていない。つまり今日は大人しくするしかないのだ。...体力があれば動き回る確信はあることはあるけど。
問題は――勉強。
嫌いというわけじゃないんだけど、やる気が出ない。読みたい気持ちはあるのに、頭が働かない。魔力枯渇のせいで、記憶力も集中力も底を尽いている。こんな状態で字を覚えろって?
無理に決まっている。ゲームオーバーというやつだ。
とはいえ、完全に放り出すのも癪だ。
「一応、少しだけ」
そう自分に言い聞かせ、ゆっくりと一ページ目を開いた。
「……読めない」
当たり前だ。
この世界の文字は、まだ断片的にしか分からない。まるで知らない旋律を聴かされているようで、頭がついていかない。だが、今回は幸運なことに、ところどころに鮮やかな絵が描かれていた。どうやら今日は語学の本ではなく、歴史書らしい。
僕は文字を追うのを諦め、代わりに絵の物語を目でなぞる。
――一枚目。
巨大な人物が光の中で両手を広げ、そこから海や山、大陸が生まれている。創造主が世界を形づくっているのだろう。
おそらく、この世界。4つの大陸がこの世界にはあるのだろうか。
――二枚目。
創造主の前に、四人の人物が跪いていた。
背の高い黄金の刀を持つ男、
黒い書物を持つ女性というか少女
天使のような神秘的な女性、
赤い大剣を持つ女性。
細部は分からないが、それぞれが特別な存在であることは伝わってくる。
――三枚目。
大陸は四つに分かれ、その四人がそれぞれを治めている。地図のような絵に、彼らの姿が象徴のように描かれていた。
そのうち、背の高い剣を持つ男は、人やエルフ、魔族を、そして黒い書物を持つ女性は、魔族に似た――いや、それ以上に禍々しい者たちと魔物を従えていた。天使のような神秘的な女性は精霊らしきものを従えているようだった。赤い大剣を持つ女性だけは、何も従えていない?
――四枚目。
そのうちの一人が、黒く塗りつぶされている。黒い書物を持つ少女だ。闇のようなものに包まれ、創造主に刃を向けている。
――五枚目。
創造主はその黒くなった一人を討ち倒す。光と闇がぶつかり合い、世界が裂けるような描写。
さりげなく滅びる一つの大陸。北の大陸だ
――六枚目。
……しかし、その直後。残った三人が力を合わせ、今度は創造主を討ち倒していた。
「……?」
思わず声が漏れる。
どういうことだ?
創造主は、裏切った一人を討ったはずだ。なのに、残りの三人はその創造主に牙を剥き、殺してしまった。
裏切りの連鎖。
支配者の死。
そして――残されたのは四人のうち三人。
(……何か、ひっかかる)
この世界の神話か伝承だろう。だが、創造主が倒される物語なんて聞いたことがない。神は不滅、という考え方が普通じゃないのか?
ページを見つめていると、絵の中の「黒く染まった一人」と視線が合ったような錯覚に陥った。ぞくり、と背筋に寒気が走る。
もし本当にあった出来事だとしたら――創造主を討った三人は、今もどこかで存在しているのかもしれない。あるいは、その力の残滓が世界に残っているのか。
だが、文字が読めない僕には確かめようがない。
知りたいのに、手が届かない。
焦らすように絵だけが物語を語りかけ、僕の知的好奇心をかき乱す。
まるで謎を目の前にぶら下げられているようだ。
これはセリスの作戦に違いない。
こんな気になる内容をわざと見せて、興味を餌に「言葉を覚えなさい」と急かすつもりだ。ぐぬぬぬぬ……。
(もしこの話がただの伝説ではなく事実だったとしたら重要なことかもしれない。もしそうならもうこの世界には創造主はいなのかもしれない。まだ字が読めないせいで詳しくは分からない。)
言葉を覚えないと始まらない。
でも僕の一日の約八割は気絶という名の睡眠時間で埋まっているのだ。
魔力を使い果たすたびに、意識は暗闇に沈み、起きていられる時間の方が短い。
そんなわずかな貴重な時間ですら、魔力枯渇の副作用で頭がまともに働かず勉強に割けと言われても、正直効率が悪すぎる。
本にはまだ続きを示す絵が描かれていたけれど、もう限界だった。
頭が重く、瞼も落ちてくる。集中力はとうに切れている。続きは気になる。だが……もう無理だ。
そのときだった。
――ガァンッ!
耳をつんざくような衝撃音が、窓ガラスを震わせた。金属と金属が噛み合うような甲高い響き。続いて、地の底から突き上げてくるような轟音。
(うるさい!それに魔力の波が乱れる!)
僕は思わず頭を抱えた。
この騒音は単なる物理的な音ではない。周囲の魔力の流れそのものが激しく乱れ、まるで体内の魔力までざわつくようだ。せっかく昼寝をして魔力を回復させようと思っていたのに、これでは集中できない。
仕方なく、僕はベッドを這いずり、窓辺へ移動した。重い体を引きずりながら、カーテンの隙間からそっと外を覗く。
そこは我が家の庭――いや、“戦場”だった。
土はえぐれ、芝は凍りつき、空気そのものが痛いほど張り詰めている。風に混じって魔力のざらついた匂いが鼻を刺す。
そして、その中心に――二つの影。
一人は父。いつもの厳格でいて少し抜けたところもある父。圧倒的な身体能力と技術で魔法をも斬り、制し、地面を踏みしめる度に地響きを生む、剣神のような戦闘者の姿だ。
もう一人は、リア姉。僕よりたった3歳年上の9歳の少女。
なんでもできちゃう天才な姉は、すでに魔法、剣術だけでなく、ほぼすべての能力で父を凌駕するほどのまごうことなき天才。
姉の周囲を包む青白い魔力の光は、まるで氷晶を撒き散らす吹雪のよう。指先がわずかに動くたび、矢のように鋭い魔弾が放たれ、次々と父を襲う。
爆発と氷結が交互に走り、庭の空気は常に凍りついたり爆ぜたりしていた。たった一人の大人が、子供相手に圧倒されている光景だ。
父の剣は閃光をまき散らし、風を裂き、音を殺すほどの速さで舞う。だけど、その防御は次第にリア姉の猛攻に押されていく。
リア姉の声は無機質で、氷そのもののように冷たい。
「くっ……リア、少しは手加減を……!」
父の苦悶の声が返る。だけど、その声すらも次の爆音に掻き消された。
二人の動きは速すぎて、僕の目では残像の軌跡しか追えないや。剣が魔力とぶつかり合う甲高い悲鳴、魔力が炸裂する衝撃。
(この騒音はいつまで続くんだろう?せっかくの魔力回復の時間なのに、集中できないよー)
と、その時。
父の防御を突き破った氷刃が、地面に深々と突き刺さった。父は体勢を崩し、一瞬、両者が硬直する静寂が訪れた。
リア姉がふと、窓辺の僕に気づいたんだ。 冷たく張り詰めていた表情が、驚くほど柔らかくほどけ、僕へと微笑みかけてくる。
「……見ててね、ユラ」 氷の嵐の中で、姉の声がわずかに届いた気がした。
片手を軽く上げ、ひらひらと振ってみせる仕草は、まるで戦いの最中だということを忘れさせるほど自然だった。けれど、その間も、父へと向かう魔力の制御は一切途切れず、視線すら向けずに父を完封する圧倒的な余裕。――ああ、やっぱりリア姉は**「天才」**なんだ。誰もが口を揃えて言う、歴代最高の魔術師。その姿を、僕はまるで夢を見ているように見つめてしまう。
「魔法……使ってみたい、な」
胸の奥が熱くなる。あんなふうに、自由に、格好よく。だけど、僕にはそのやり方すらまだ分からないんだよね。いや、それ以前に――もったいない。
魔力は無駄に使えない。
僕には、何よりも大切な夢があるからだ。それは、この六年間、ただの一度も成功しなかったこと。僕が全魔力を捧げて挑み続けている、たったひとつのスキル。
――愛おしい、ぬいぐるみを生み出すことできる、、、はずのスキル。
あの柔らかさを、この手で。あの温もりを、この腕に。ずっと抱きしめたいのに、触れられない。だからこそ、僕は何度でも挑戦する。
ちょうど今、胸の奥に小さな波が立つ。魔力が、少しだけだが戻ってきた気配だ。僕は誰よりも魔力の枯渇を知っているからこそ、その微細な回復の瞬間に敏感になっていた。
――いける。魔力は回復した。今なら、試せる。
ずっと抱きしめたい。だけど、触れられない。
だからこそ――何度でも挑む。
胸の奥に、小さな波が立った。
魔力が、帰ってきた。
「スキル、《ぬいぬい》」
声にした瞬間、体の芯から**ぶわっと熱が抜けていく。**全身を通り抜けるようにして、蓄積した魔力のすべてが目の前の空間へと押し出される。空気が震え、激しい圧力がかかり、淡い青い光が凝縮していく。それはまるで、僕の存在そのものが、この一点に収束していくかのようだった。
「あと、少し……! 今回は、違う!」
今回は、ただの魔力の塊だけではない。淡い光の核が、布地の輪郭を真似て、何かの形をなそうとしている! きつい。頭がクラクラする。視界は真っ白だ。でも、本当に後ちょっとだけ。魔力、足りるかも!
だが――次の瞬間。
形を成そうとしていた小さな光の塊は、ガラス細工が崩れるようにバラバラと砕け散り、霧のように空間に溶けて消えてしまった。
「うっ……ま、た……しっ、ぱい……」
全身の力が抜ける。魔力は空っぽ。心臓すら空洞になったみたいに、重い。悔しさが喉に詰まる。けれど、それでも。
今日は違った。確かに、これまでで一番近かった。魔力がほんの僅かに足りないだけ。そんな感じだった。あと少し次こそは
その希望を最後に、僕の意識は闇に沈んでいった。暗く、深く、静かな眠りへと。
この作品は、全体で 第0章から第12章まで の構成を予定しています。
すでに第3章までは執筆済みで、最終章までのおおまかな流れも固まっていますが、推敲や見直しの都合により、更新ペースは安定しない可能性があります。あくまで趣味で書いているものですので、その点はご容赦いただければ幸いです。
ちなみに小説、イラスト、デザイン、すべて完全に初心者として挑戦しています。
至らない点や、お見苦しい箇所があるかもしれませんが、温かい目で見ていただけると嬉しいです。




