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虐げられても耐え続けた悪役令嬢は、家族と婚約者に裏切られ屋敷を追放されるが、すぐに没落していく彼らを横目に、隣国の麗しき王子から唯一無二の存在として溺愛される

作者: 結城斎太郎
掲載日:2025/09/10


1.冷遇の日々


「セシリア、また失敗したの? 本当に役立たずね」

母の冷たい声が、朝食の席に響いた。


侯爵家の次女として生まれた私、セシリアは、幼いころから常に姉クラリッサと比べられてきた。姉は才色兼備、舞踏会に出れば賛辞の嵐。対して私は、無能だ、醜いだと決めつけられ、食卓では残飯同然の料理を与えられることもしばしばだった。


「お姉様のドレスを汚した罪、覚えているわね? 謝罪の手紙を自分で書きなさい」

「……はい」


私が触れてもいないドレスの破れを、当然のように私のせいにされる。父も兄も、真実を確かめようとすらしない。


ただ謝り、頭を下げ、罵倒を飲み込む日々。

それでも私は、「家族に愛されたい」という淡い希望を捨てきれなかった。


2.婚約者との冷たい関係


そしてもう一人、私を傷つける存在がいる。

それは婚約者であるレオンハルト公爵令息。


「セシリア、またみすぼらしい姿をしているな」

彼は舞踏会でも私を冷たく突き放し、隣に立つことすら避けた。

代わりに姉クラリッサを褒めそやし、微笑みを惜しまなかった。


それでも私は、彼に嫌われぬよう、必死に耐えた。

婚約破棄されれば家の立場は危ういと教えられてきたからだ。


――けれど、私の努力はすべて嘲笑に変わる。

彼の目に、私はただ「哀れでみっともない悪役令嬢」にしか映っていなかった。


3.追放の日


「セシリア。お前との婚約を破棄する」

ある日、冷ややかな声でレオンハルトが言い放った。


会場は、姉の誕生日を祝う盛大な夜会。

彼は大勢の前で高らかに告げた。


「本来、私が愛すべきはクラリッサ嬢だった。お前のような無能と縛られるのは不幸でしかない」

「そうよ! お父様、お母様、セシリアをこれ以上庇う必要はありませんわ」


姉は勝ち誇ったように笑い、両親も頷いた。

「出ていけ、セシリア。お前のような恥さらし、我が家には不要だ」


私は震える唇をかみしめた。

けれど――泣き叫ぶことはしなかった。

静かにドレスの裾を握りしめ、一礼し、屋敷を去った。


心は血を流すほど痛かった。

それでも、不思議と胸の奥に小さな光が灯った気がした。

――これで、もう耐える必要はない。


4.転落する侯爵家


私が去った後のことは、人づてに聞こえてきた。


クラリッサとレオンハルトの結婚は、最初こそ華やかに祝福された。

だが、クラリッサのわがままは留まるところを知らず、公爵家の財産を食い潰し始めた。

さらに父の事業は失敗し、借金に追われる。母は病に伏し、兄は放蕩の末に勘当。


侯爵家の名は見る影もなく地に落ちていった。

――私を蔑み、追放したその手で、自らを破滅に追いやったのだ。


けれど私はもう、彼らの末路を憂うことはなかった。

ただ遠くから、淡々と見届けるだけ。


5.運命の出会い


「君、大丈夫か?」

旅の途中、私は人攫いに襲われかけた。

恐怖に足が竦んだその瞬間、颯爽と現れた青年が私を抱き寄せた。


長い金髪、碧眼、凛々しい顔立ち。

身に纏う衣は質素ながら、隠しきれぬ気品があった。


「怪我はない? 怖かったね」

優しく微笑むその人――後に知る、隣国の第一王子アレクシスだった。


彼は私を馬車に乗せ、安全な場所まで送り届けてくれた。

「一人なのか?」と問われ、私は過去を少しだけ語った。

すると彼の瞳に怒りと悲しみが混じる。


「君のような人を追放するなんて……理解できない。だが、安心してほしい。僕が君を守る」


その言葉は、私の心に初めて温かな火を灯した。


――私を蔑むことなく、否定することなく、ただ「守る」と言ってくれた人。

その瞬間から、運命の歯車が大きく回り始めたのだった。



---



6.王子の庇護の下で


アレクシス王子は、私を客人として王宮に迎えてくれた。


初めて用意された部屋は、広々とした窓と柔らかなカーテン、豪奢すぎないけれど温もりのある調度品で満たされていた。

「君のために整えた。落ち着けるといいけど」

「……ありがとうございます」


誰からも蔑まれ、追放されてきた私にとって、それは夢のような扱いだった。

夜も眠れず涙が滲む。

――やっと、誰かが私を大切に思ってくれている。


7.芽生える想い


アレクシスは忙しい政務の合間を縫い、毎日のように私を訪ねてくれた。


「今日は庭園に行こう。君に見せたい花があるんだ」

「セシリア、食事は合ってる? もし好みがあれば言ってくれ」

「笑った顔のほうが、君はずっと魅力的だ」


その優しさに触れるたび、胸が熱くなる。

けれど同時に、心の奥で恐怖が囁く。

――私がまた裏切られたらどうするの?

――本当に信じてもいいの?


ある晩、彼に問いかけてしまった。

「どうして……こんな私を気にかけてくださるのですか? 私は、誰からも疎まれた存在なのに」


アレクシスは真剣な瞳で答えた。

「セシリア、君は誰よりも耐えて、傷ついて、それでも人を恨まなかった。そんな強さと優しさに、僕は心を奪われたんだ」

「……」

「君はもう一人じゃない。僕が傍にいる。何があっても」


その言葉に、私は初めて心の底から涙を流した。


8.没落した一族との再会


やがて、噂が届く。

――侯爵家が破産寸前に追い込まれ、公爵家も没落した、と。


ある日、城下でクラリッサとレオンハルトに出会った。

かつて私を嘲笑い、追放した二人は、見る影もなくやつれていた。


「セシリア……助けてくれ!」

「お前が王子に取り入ったのだろう? なぁ、昔の縁で――」


膝をつき縋りつこうとする彼らを、私は静かに見下ろした。

胸に去来するのは憐れみではなく、凍りついた静けさだった。


「……私はもう、あなたたちの家族ではありません」

「そんな……!」

「どうか、これ以上私の前に現れないでください」


毅然と背を向けた私を、アレクシスが抱き寄せた。

「よく言った。君は何も悪くない。彼らの行いが招いた結果だ」


その腕の温もりに包まれ、過去が遠ざかっていくのを感じた。


9.真実の愛


日々を共に過ごすうち、私はアレクシスに心惹かれていった。

彼は政務の合間にも必ず顔を見せ、時には花束を抱え、時には音楽会に誘ってくれる。


「君が笑うたび、僕の世界は光に満ちる」

「アレクシス様……」


彼の視線が真剣すぎて、胸が苦しくなる。

けれど、もう逃げる理由はなかった。

私は震える唇で告げた。

「……私も、あなたといると幸せです」


その瞬間、彼は私の手を取り、優しく口づけた。


10.未来への誓い


後日、王宮で開かれた宴の席。

アレクシスは大勢の前で宣言した。


「僕はセシリアを、生涯を共にする伴侶とする!」


ざわめきが広がる中、彼は私を抱き寄せる。

「君はもう、誰にも傷つけさせない」

「……はい」


拍手が鳴り響き、私は溢れる涙を拭えなかった。

かつて「悪役令嬢」と罵られ、虐げられ、居場所を失った私。

けれど今、私は愛され、守られ、唯一無二の存在として迎えられたのだ。


11.シンデレラの結末


夜、静かな庭園で二人きり。

アレクシスは私を見つめ、囁いた。

「セシリア、僕は君に出会うために生まれてきたのかもしれない」

「……私も、あなたに救われました」


月光の下で交わした口づけは、甘く切なく、すべてを癒すものだった。


長い苦しみの果てに辿り着いたのは、絵本のようなシンデレラの結末。

けれどこれは夢ではない。

――確かに、私の物語なのだ。


そして私は誓った。

もう二度と、誰かに踏みにじられることはない。

愛する人と共に、胸を張って生きていくのだと。




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