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第三話 かゆいよ! でも掻いてはいけない身体と、海から来た誰かさんの事情

あらすじ

 トマルアユミは川で怪物に出会い。怪物に似たキリガクレタラリと共に川に引きずり込まれる。絶体絶命の危機に陥ったふたり。そのときキリガクレは呪文を唱え、ふたりは光に包まれた。そして目が覚めるとソコは海岸であった。そこで巨大な人面ヘビとトマルは出会う。しかし人面ヘビを怒らせてしまったふたりは追いかけ回される。ヘビオンナの内外を攻めることで、なんとか人面ヘビを退治したふたりだったが……

 ポリポリポリポリ。


 ムムム、もうガマンできない。


 ボクは、たらりさんと、いつまでも触れ合っていたい。


 そう思い続けるのだと信じていた。


 しかしゲンジツは厳しい。


 ふたりでお互いに固まっている間に、ヘビオンナにかけられた体液が乾いてしまった。


 ヒトはたった数時間でココロ変わりをしてしまうのか。


 あんなにボクのココロを奪っていたカノジョへの熱はすっかり冷えてしまい。


 もう、ジブンのカユミにしか集中できない。


 このカユミしか見えない。


 あああ、このカユミにココロを奪われてしまった。


 ううう、かゆいかゆい。


 カノジョもカラダがかゆいのだろう。


 さっきからカラダをジブンだけ掻いている。


 それにボクの身体におそるおそるカラダを擦り付けている。


 しかしボクはその感触を楽しむ余裕はない。


 かゆいところが刺激されている。


 この快楽にしか意識が向かない。


 おおお、ボクもボリボリかゆいところを掻きむしりたい。


 身体を動かしたいっ。


 でもガマンだ。


 ボクが立ち上がったら。


 そろそろいいんじゃないか、なんて言ってしまったら。


 カノジョにハジをかかせることになる。


 でもジブンだけカラダを掻くのはズルいだろ。


 カノジョが、そろそろマンゾクしちゃったかな、なんて言い出さないかなぁ。


 祈ることしかできない。


 あぁ、かゆいかゆい。


「……うぅぅ、もう、ゲンカイ」


 カリカリカリカリ。


 急に背中が軽くなった。


 ガバッと起き上がったのか。


 やったぞ、ボクも。


「あぁぁぁ、だ、ダメだよ。トマルくんは立ち上がったらダメ。もう掻くのはガマンしなくていいから。ガリガリやっちゃっていいから。アタマを砂に埋めたままでオネガイね。よろしくたのむよぉ」


 ううう、むちゃくちゃだ。


 ジブンはキモチ良さそうな声を出しているのに。


 キモチ良さそうにカラダを掻きむしっているのに。


 たしかにボクも身体を掻けるけど。


 アタマを砂に埋めたままだとスゴく掻きにくいじゃないか。


 カユイところを掻く、それはシゼンタイでなに不自由なく行われなくてはイケナイんだ。


 じゃないと、キモチよくないんだよっ。


 恥ずかしくてクチには出せないけど。


「ふぅぅ、き、キモチ、いいぜぃ。手が止まらないよっ」


 やっぱりダメだ。許せない。


 ボクも顔をあげて生きていきたい。


 自由に掻きたいんだ。


 ナニかアルはずだ。


 カノジョが起き上がることを認めてくれるナニかが。


 ようはカノジョがカラダが隠せればいいんだ。


 ヘビオンナのカゲにいって貰うとか。


 これはボクから隠れてるだけでカラダは隠れていない。


 あああ、かゆくてアタマが回らない。


 アタマ。


 アタマ? 


 アタマ! 


 そうかヘビオンナのツインテールを縛っているあのヒモ。


 アレならちょうどいいじゃないか。


「たらりさん、もっと効率的にカラダを掻けて、さらに、カラダを隠せるモノを知りたくないかい」


「えええ、そんなモノがあるの? モチロン、知りたいよ。はやく教えてほしいに決まってるよ」


「ヘビオンナのアタマのリボンさ」


「あッりがとぉぉぉ」


 バタバタと砂場を駆け出すアシオトが聞こえる。


「もう、起き上がってもいいかいっ」


「もうちょっとだけ待ってぇぇぇ」


 ゴシゴシゴシゴシ。


「うっひゃぁぁあぁあああ」


 刺激でゼッキョウする声が聞こえる。


 はやく、はやく、服を着てくれッッッ。


「ご、ごめん。チョッピリ待たせちゃったね。お、お詫びにこのバスタオルすがた、マンゾクするまで見つめてくれていいからね。ハダカはダメだけど、バスタオルならアナが空く位じっと見てもいいよっ」


 な、ナガすぎる。


 キモチいいのはわかるけど。


 もうちょっとだけ、ボクのことを思い出してくれよ。


 でも、もうガマンしなくて良いんだよな。


 カラダをバクハツさせるようにボクは跳ね起きる。


 たらりさんのピンク色のバスタオルすがたが目に入る。


「リボンをひとつしか使ってないんだね」


「えっへっへ、トマルくんもタオルを使ってゴシゴシ、したいでしょ」


 たらりさんがニヤリと笑う。


「モチロンさ」


 ヘビオンナに駆け寄る。


 おっと、髪を触られるのは吐いちゃうくらいニガテだったよな。


 オンナノコにイヤがることしたくはない。


 ボクはウロコから這い上がる、このヘビオンナを攻略する。


「トマルくん、遅いよー。そんなスピードだと、いつまで経ってもリボンはユメのまたユメだよ。ほらほら、このキリガクレ流の軽やかなワザをみなさい。ウロコに指を引っ掻けるじゃなくてウロコに指を貼りつかせるんだよ」


 たらりさんがボクにレクチャーをしてくださっている。


 ボクの真横で手取り足取り教えてくださっている。


 善意であるのはわかるけど。


 それだけ説明されてもできないジブンがミジメに感じる。


 もう、イヤだ。やめよう。


「……せっかくオシャレをしているのに、ふたつともリボンを奪うのは可哀想だよな」


「たしかにカワイソーだけど。わたしたち、カノジョに殺されかけたんだよ。それに。……ううん、でもオンナノコだもんね。よーし、わたしもバスタオル、返すよ」


「いや、それはハダカになっちゃうからしなくても」


「ダメだよ。オンナノコはシンケンにファッションを考えてるんだから。それを台無しにするのはゼッタイ反対」


 となるとまた下を向いて生きてくことになるな。


 汗をかいてかなり痒くはなくなったけど、それはイヤだ。


「キミもヒトが身に付けたモノ、洗わずに着るのはイヤだろ」


「まぁ、ソレはそうかも」


 ストライクを決めたようだ。


 たらりさんがウロコから降り始めた。


 ゆっくり降りたら、また教導いただくんだろうな。


 ボクはウロコから両手を離す。


「えぇぇぇ、ダイジョーブ? 砂場にカラダがめり込んじゃってるよ。ひとりじゃ抜け出せないでしょ。なーんで飛び降りちゃったの?」


 穴があったから入ったまでさ。


 じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ。


 ボクたちは海に戻り、カラダを洗っている。


 得体のしれない海だ。


 ボクは警戒を怠らずに、波打ち際でカラダを洗っている。


「ヘーイ、ニイチャン。せっかく海にいるのに泳がないなんて、ソンだよ、ソン」


 お誘いの声が沖から聞こえる。


 たらりさんはだいぶ沖の方で泳いでいる。


「サンサンとタイヨーに照らされながらチョーつめたいウミ泳ぐの、堪らないんだけどなぁ。このキモチよさを味わえないなんて、カラダがカワイソーだよ。さぁ来た。さぁ来た」


 ヘビオンナの髪止めを素手で引き裂いてつくったフンドシとサラシ。


 それをたらりさんがミズギとして着ている。


 バスタオルすがたは動きづらかったらしい。


 けっこう、手入れの行き届いた逸品だったよな。


 チョッピリ、同情しちゃうな、ヘビオンナ。


「ボクはゴメンしておくよ。この海、ナニがいるのわからなし。じっさい、人面ヘビいたからね」


「えぇぇぇ、意気地がなさすぎるよっ。わたしたち、アイツをやっつけたんだよ」


「でも、まだまだ、うようよ、ぷかぷかと居そうじゃないか。っていうか、いるだろ、たぶん」


「んもう、トマルくんはニブいなぁ。ヘビオンナ、あんなにデカいんだからここのヌシに決まってるでしょ。つまり、わたしたちはヌシを倒して新しいヌシとなったってコト。どうリカイできた? リカイできたら、は、や、く、来ぉーい。」


「……たしかに」


 あんなに大きいのだからヒラってワケないよな。


 よしっ、ボクも泳いでみるか。


 たらりさん、楽しそうに泳いでいるし。


 ボクも遊びたくなってきたしな。


「おっ、カクゴは決まったようだね。ささっ、はやくはやく」 


 たらりさんが真っ白でほっそりとした腕を振っている。


 それに髪の毛も括っていないから、色白な顔にかかっている。


 そのスキマからパッチリとした目が覗いている。


 白いハダと黒いカミが海とうまく噛み合わない。


 なんだか酷く異質な印象を感じさせる。


 この世のモノとは思えないほど白い腕がボクを得体のしれない海へと誘っている。


 目をランランと輝かせながら。


 じゃり。


 あっ、足が自然とうしろに下がっている。


 ナニを考えているんだ、ボクは。


 カノジョに失礼じゃないか。でも、


「どぉしたのぉぉおぉおおお」


「ちょっと気になることがあってね」


 遠くから呼びかけられて我に変える。


 たらりさんはさらに深く沖に進んでいた。


 きっとボクの行動をフシンに思っているに違いない。


 しかしボクの身体は、この海にひどく警戒信号を発しているのだ。


 というか、


「そもそも、ココはどこなんだ」


 つい、クチに出してしまった。


 まぁ、たらりさんが聞こえるワケがないから独り言どれだけ言ってもいいんだけども。


「ここはね、プライベートビーチだよ。みればわかるでしょ」


 うわっ、たらりさんがいる。


 いつのまにか、あんな沖から独り言が聞こえるくらいのキョリに。


 恥ずかしい。


 ブツブツつぶやく前でよかった。


 ジブン、独り言がはげしいからなぁ。


「いや、そのプライベートビーチの名前が知りたいのさ。あの川からドコまで流されたのか、たらりさんは知りたくないの?」


「あぁ、そういうコト。このプライベートビーチはわたしたちのプライベートビーチだよ。」


 カノジョは笑っている。


 浅瀬で腰からを水面からだして、口角を頬まであげて、ニヤニヤと。


「ボクたちの付き合いはたしかに濃いけども、まだあったばかりだろ。いっしょにプライベートビーチを買うようなカンケイじゃない。それに、欲しくてもコウコウセーのボクにはとてもじゃないけどムリだよ」


 もうボクは高校生ってトシじゃないけども。


 ヒザがガクガクと震えているの、さすがに気付かれてるよな。


 キブンだけでも毅然としていたいのにカッコつかないな。


「あはは、忘れちゃったの」


「ナニをいっているんだい、たらりさん。ボクはこんなトコロ買った覚えがないよ。見覚えもない」


「じゃあ、思い出さないと、だね」


 たらりさんが白魚のような手で、おいで、おいで、と手招きをしている。


 抵抗をしなくてはいけないことはわかっている。


 しっかし、コレはむずかしいなぁ。


 なんだかフワフワと身体が浮き上がってしまうからなぁ。


 ココチが良いし、ついていくべきだと思うんだよなぁ。


「ほらほら、もうすこしだよ。飛び込んでおいで」


 いま、確信ができた。


 パラダイスはココにある。


 ボクはカノジョのように真っ白で、皮膚はブヨブヨとふやけてしまい、身体がパンパンに膨らんだすがたを夢想した。


 さぁ、思いっきり飛び込んで、堪能しよう。


 ドボン。


 なんなんだよ。


 よし、いくぞっ、というときになのに。


 カノジョが水のなかに潜ってしまった。


「おぉぉぉーいぃぃぃ、トマルくんっっっ。見っえますかぁぁぁ。つ、捕まえたぜぇぇぇ、たぁぶん、おそらくぅぅぅ、スイテェイィィィ、マグロだぁぁぁああ」


 遠く彼方から、たらりさんが絶叫している。


「おぉぉぉーいぃぃぃ。聞こえてますかぁぁぁ。マグロだよぉぉぉ。わぁたしぃぃぃ、やったよぉぉぉ」


 あぁ、我に返ったボクはボーゼンとしていた。


 カノジョにまた大声を出させてしまった。


 申し訳ない。


「了ォ解だぁぁぁ」


 よかった、なんとかコトバが出てきた。


 それにしても、アレはなんだったのだろう。


 似ていたけど、たらりさんじゃないよな。


 この浅瀬からカノジョがいる沖までは何キロもある。


 たらりさん、身体能力はスゴいけれどワープはできないだろう。


 あの川にいたカノジョたちなのか? 


 でも川のカノジョたちはコミュニケーションがとれなかったんだよな。


 それにいまいたアレの顔、どこかニンゲンらしさがあった。


 川のカノジョたちはたらりさんにソックリだった。


 だけれどその顔は幻想的で、表情はつくりものめいていた。


 というか、なんでボクを狙ったのだろう。


 海にはたらりさんがいたのに。


 それよりも、


「やっぱり、この海に化け物がいたな。……入らなくてホントーによかった」


 ボクは独り言を呟いた。

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