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今、未来のために出来る事

世の中、自分の要求を通そうと思えば手順が必要になる。格闘技でもいきなり大技を繰り出せば、構えや予備動作で簡単に相手に見切られてしまう。(いくさ)もそう、いきなり敵方に正面から仕掛ければ相手に察知されて迎え撃たれ、勝てたとしても大きく自らの力も削がれてしまう。


故に優れた格闘家はコツコツと小技で相手を大技で仕留められる状況に追い込むし、優れた軍師はコツコツと地味な下準備を怠らず、兵を集め武器や物資を集め、敵の弱点を知り、内通者を得て勝利を掴む。


であるならば、この試験艦キャスパリーグにおいて俺の要求を叶えるためにはどうすれば良いか?


〜・〜・〜


先日の長距離偵察で観た戦闘についてはミハイロフ艦長に報告してある。この半月の偵察で知り得た情報から導き出される結論は、3隻の陸上巡洋艦が失われて地上軍司令部はアムロイ軍の攻勢の前に風前の灯だという事だ。


アムロイ軍も馬鹿じゃないだろうから既に司令部の位置も掴んでいるはずで、ナッシュビルを沈めてチェックメイトといったところか。おそらくこのままなら司令部の陥落は時間の問題で、地球連邦軍の火星奪還まで保たないだろう。


だったらどうするか?


せめてあの大型空母だけでもどうにかしないとな。丸裸な地上軍司令部はあてにならず、宛あてになる戦力は特務隊と試験艦キャスパリーグのみか。


「なあ、こんな作戦ってどうかな?」


俺は特務隊の全員を集めて自分で立案した作戦を披露して意見を求めた。


反応はニつ。一つは絶句。二つ目は「面白そう!」というもの。因みに絶句したのは涌井曹長だ。特務隊は様々な部隊で実力は有っても持て余された外れ物の集まりだから隊員達の考え方も突拍子が無い。そんな乗りで行かれるのも嫌なので、俺はベテラン下士官の涌井曹長には部下達の引き締めと常識ある大人の役割を頼んである。だから涌井曹長が絶句したという事は俺の作戦は既存の戦術からは大きく外れているのだろう。


「隊長、確かにこの作戦は今ある装備と人員で可能でありますし、仮に失敗したとしても我々だけの損失でキャスパリーグは保全されますが、」


「このままじゃ連邦軍の火星奪還を待つ事無く地上軍は全滅だ。出来るのに何もしないってのはどうにも寝覚めが悪くてね。やれる事だけはしっかりやっておこうと思ったのさ」


「そういう事でしたら了解しました。是非自分も切り込み隊にお加え下さい」


切り込み隊か、なかなかいいね。


「おぉ、涌さん。切り込み隊とか、勇ましいっすね」


おっと、美濃部が騒ぎ出した。このままだと皆が俺も俺もと言い出して騒ぎになる。なのでここは話を逸らそう。


「よし、朝比奈少尉と涌井曹長は俺の案を叩き台にして皆と立案作業を進めてくれ」


皆が了解と返す中、美濃部は不満顔で俺に詰める。


「隊長、俺は?」


「美濃部はこれから俺と村田技術少佐の元へ行くんだ」


「あ〜、そういう事っすか。了解っす」


現在、試験艦キャスパリーグは勿論ミハイロフ艦長の指揮下にある訳だけど、とはいえキャスパリーグには艦長と部門は違えど階級を同じくする技研の村田技術少佐と所属が異なれど特務隊の隊長で大尉の俺が乗っている。なので以前に艦の今後の行動について俺達二人に意見を求めたように艦長は俺達二人の意見を無視は出来ない。まぁ言ってみれば事実上この(ふね)は緩いトロイカ体制にあるといえよう。


そうとなれば艦の最大権力者に俺が立案した作戦を認めさせるにはもう一人を味方につける必要がある。そう、村田技術少佐を懐柔してこちらに引き込むのだ。


多分、ミハイロフ艦長はいきなり作戦を持ち込めば反対するだろう。それが正常な反応というものだからな。なので根回しをして先ずは外堀を埋める。小さな技をコツコツと積み上げ、やがて大技を繰り出して勝利を掴む。優れた指揮官とは斯く在るべきなのだから。



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