新型パワードスーツ
村田技術少佐はその間も俺の方にチラチラと視線を向けてくる。勿論、そっちの傾向がある訳じゃ無いだろう。早く俺から新型パワードスーツ試作機の性能実験について聞き出したいからだ。
とはいえ、今は一ヶ月孤立して浦島太郎状態な俺に艦長から現在の状況について説明を受けている場である。勝手な私語は厳に慎まなくてはならない。無論、村田技術少佐もそれを理解して欲求を抑えているだろうけど、抑えきれていないのだろうな。
なので、艦長の話が一区切りついた合間にこっそりと実験についての話題を振ってみた。
「予定されていた実験の他にも時間が出来たので試してみた事も多々あるのですが、現時点でも我々特殊部隊の装備としてとても有効です」
「そうか!それは良い知らせだ。後で直接大尉から話を聞かせてくれないか?」
村田技術少佐は大喜びだ。実験データは特務隊に同行していた技研の研究員から既に村田技術少佐に渡っているはずだけど、やはり開発した技術者としては直接被験者から話を聞きたいのだろう。
「ええ、いいですよ」
無論、俺に否は無い。部下達にも声を掛けておくか。
俺達特務隊が技研から実験を請け負った試作兵器とは新型のパワードスーツだ。
パワードスーツは既に実用化され、地球連邦軍でも陸戦隊の装備として採用されて久しい。パワードスーツ装備の装甲強化歩兵大隊
もあるし、俺達のような特殊部隊にとってはお馴染みな装備でもある。
そうした中で技研で開発された新型パワードスーツには三つの新技術が取り入れられている。一つはスーツの人工筋肉が小型軽量化されてより人体にフィットした形態となった事。それまでのデカくてゴリラみたいないかにも兵器ですという物ではなく、新型パワードスーツはぱっと見ノーマルな宇宙服と変わらないほどだ。
二つ目として、試験艦キャスパリーグの外殻にも使用されているカメレオン機能が取り入れられている。スーツの各所にある超小型カメラとセンサーがスーツの表面に周囲の景色を映し出し、肉眼では見分けがつかなくなる。また、電波を吸収する塗料でレーダーに映らず、人体やバッテリーが発する熱もシャットアウトするため熱源からの察知も阻止されるのだ。
三つ目が反重力飛行ユニットで反重力飛行が可能だという事。勿論、バッテリーの関係から飛行時間には限りがあるものの、そこは運用次第。
要するに、この新型パワードスーツは従来型よりも小型強力であり、周りからは見えず、反重力飛行ユニットで空も飛べちゃう優れ物って事なんだな。これが実用化されて正式な装備として配備されたら特殊部隊の任務にも更に幅が持たせられるだろう。
「それで、本艦の今後の活動方針なのですが、」
俺と村田技術少佐との会話が終わったタイミングを見計らってキャスパリーグ副長の李月梅中尉が説明を始める。
李月梅中尉は黒髪をボブにした色白のキリッとした美人さんだ。身長は160cmくらいか、スレンダーで理知的で仕事出来る感じが滲み出ている。
きっと台湾人か日本国籍がある華僑なのだろう。そうでなければ中華系が地球連邦軍の士官にはなれないからな。
大陸の中国は第三次世界大戦で負けたため、大陸の中国人が地球連邦軍の士官になる道は固く閉ざされている。また、大戦中に中国が全世界で行った潜伏組織や在外自国民を使った無差別テロのため、戦後に台湾以外の全世界で中華系排斥運動が起きた。その影響で現在でも中華系は公務でも民間でも高職には就けなくなっている。まぁそれだけ恨まれて嫌われているという事なのだろう。
それはそれとして。今は戦時下であり、ここ火星は友軍の駐留艦隊が全滅してアムロイの制圧下にある。地上軍は火星の各地で抵抗を続けているようだけど、援軍も補給もないので近いうちジリ貧になる事は必至である。そうした状況下でこの試験艦キャスパリーグは今後どう行動するのか?俺はミハイロフ艦長に視線を向けた。