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サーシャ ミハイロフ艦長

「それで大尉、新型パワードスーツの地上実験はどうだった?」


ここで口を挟んで来たのは国防技術研究所の技術将校で村田保典技術少佐。長身痩身で神経質そうな見るからに秀才然とした30歳代半ばの男だ。今回の新型パワードスーツの開発者且つ火星での性能実験の責任者だ。


俺達がこの任務を受けてから何度か会っているけど、技術者、特に開発に携わる技術者に有りがちなちょっとした変人感を漂わせているんだよな、この人。


地球連邦軍には幾つもの技術開発部門が存在している。連邦軍直轄の研究所や工廠があれば、軍需産業の民間企業の開発部門も含めたならば結構な数に登るそうな。そうした中で国防技術研究所は地球連邦軍の中にあって比較的大きな研究開発機関と言える。


この国防技術研究所、元々は艦船の外殻などの素材を研究開発する研究所だったそうだけど、他機関との何回かに及ぶ合併を経て今では艦船や戦闘爆撃機などを主に開発する機関となっていた。そしてそんな国防技術研究所に於いて、今までに培った技術を応用した陸戦兵器の開発部門を立ち上げたのがこの村田保典技術少佐その人である。


ただ、この陸戦兵器開発部門は立ち上がったばかりで直轄する実験部隊を持っていない。そこでそうした事情を察知したウチの大将青木司令が技研にオファーして接触したのだ。「ウチの部隊を貸しましょうか?」と言って。


無論、それは善意からでは無く見返りを求めた取引としてだ。部隊を貸出す代わりに技研で開発される新技術による試作兵器を第869特殊任務群に融通するというものだけど、技研からしたらお安い御用とばかりに飛びついた。


そりゃあ、技研にしてみれば試作兵器を融通するだけで実験に特殊部隊が借りられ、しかも融通した試作兵器のデータも手に入るとなればいい事尽くしだろう。


そうして青木司令直轄の特務隊たる俺達が実験部隊として差し出された訳だった。


ミハイロフ艦長の説明によれば、異星人アムロイは事前情報通り土星の何処かにあるワームホールから出現したようで、その後三つの梯団に別れて内惑星系に侵攻したという。


「地球圏に向かった敵の主力艦隊は迎撃に出撃した我が軍の連合艦隊が撃退し、別働隊も地球圏防衛システムとコロニー防衛に当たった水雷戦隊が撃滅して民間人に被害はなかったそうよ」


まぁ、こちらは最初にアムロイの遭難した巡洋艦と接触してから2世紀もかけてこの事態を想定して待ち構えていたからな。


「でも火星はあなたも知っての通り元々配備されている戦力が少なかったから、我軍の駐留艦隊は民間人脱出の時間稼ぎのため全滅したの」


異星人アムロイが土星のどこかにあるワームホールから来るだろう事を地球連邦は予想していた。というのも、アステロイドベルトで発見されたアムロイの巡洋艦(乗組員は全員死亡していた)は、その軌道を辿れば土星に行き着くからだった。


地球連邦はそもそも恒星間航行が出来、強力は兵器を搭載した宇宙戦闘艦を有する異星人が地球を侵略に来る恐怖から生まれた地球人類の統一政体だ。


その存在意義は異星人による侵略から地球人類を守って絶滅を回避する事に特化されていると言っても過言では無い。


それ故に地球連邦は鹵獲したアムロイの巡洋艦から得たテクノロジーを研究・応用して宇宙開発と迎撃態勢の構築を進めた。


必要な資源獲得と来るべき異星人からの侵略に備えるため、地球連邦は木星圏とアステロイドベルトの開発が最優先。そのため火星の開発はその優先度か低かった。


火星は地下に豊富な水資源がある事は昔からわかっていたから、既存の技術で容易にテラフォーミングする事が可能だった。だけど資源開発という点に限れば火星からの資源開発、採掘、運搬にコストがかかり過ぎる。そのため火星はテラフォーミングされて海のある人類居住可能な惑星となっても開発や入植は積極的には進められず、故に地球連邦軍は火星防衛のための戦力も最低限しか配備していなかった。


「まぁぶっちゃけてしまえば、私達はアムロイの艦隊から逃げ回っていたから、なかなかあなた達を回収に来られなかったのね」


「いえ、有志以来未曾有の異星人による侵攻ですから。ましてや火星駐留艦隊が失われて制宙・制空権が敵に奪われている現状では致し方無い事かと。寧ろ我々を見捨てて地球圏に脱出しても誰からも責められないところをこうして回収に来て貰って感謝の念に耐えませんよ」


キャスパリーグの事情も理解していたしな。ロシア系美人の艦長に謝罪されたら赦す一択しか無いよな。


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