試験艦キャスパリーグ
試験艦キャスパリーグは地球連邦軍の国防技術研究所に所属する同研究所で開発した先進技術を実証するための試験艦だ。ではどんな技術を開発しているかといえば、ズバリ"見えない"艦を造る事。
それはレーダーに映らないだけではなく、艦自体も周囲の風景を艦の外観に反映させて肉眼でも見えなくなり。更に反重力エンジンや反物質炉が出す“波紋“も打ち消して敵に察知されない、というものらしい。
俺達が火星にいるのも新型パワードスーツの実験部隊にされたからで、原隊である第869特殊任務群の青木司令が国防技術研究所から請け負って俺に押し付けた結果である。
その新型パワードスーツも試験艦キャスパリーグに使われている技術が流用されている。なので試験艦キャスパリーグの隠密性能試験とパワードスーツの性能実証実験はこの火星で別々に行われ、それぞれの試験実験が終わり合流してそのまま月面の国防技術研究所に戻る予定になっていた。
西暦2219年。土星宙域に突如として現れ、地球人類に襲い掛かって来た異星人アムロイ。奴等の襲撃は火星にも及んだ。
地球連邦軍火星駐留艦隊は襲い来るアムロイ軍の艦隊に対し遅延戦術で火星に居住する民間人の脱出時間を稼いで全滅した。
そんな状況下で試験艦キャスパリーグはその隠密性能をフル発揮してアムロイ艦隊の監視を掻い潜り、健気に俺達を拾うチャンスを待っていたのだろう。
異星人の襲来があり火星地上軍司令部ともキャスパリーグとも連絡が取れず、実験場であった火星の僻地にいたまま迎えが来ない。そんな状況で俺はさてどうしたものかと悩んだものだった。
そんな状況下だったけど、まぁ俺は運が良い奴だからな、何とかなるだろう。そんな風に考えていたからか、部下達にも国防技術研究所の技術者達にも目立った動揺は見られなかった。
そして俺が実戦部隊の大尉で最上位の階級なため実験チームの指揮を取る事となっている。国防技術研究所の技術将校がいるけど少尉だし、技術将校に実戦部隊の指揮権は無いからね。
そうした訳で試験艦キャスパリーグとの合流予定地付近で、俺達はアムロイの襲撃で放棄された火星開発公社の施設から食糧やら物資やらを掠奪、じゃなくて調達したりしながらいつ来るともしれない試験艦キャスパリーグを待っていたのだ。
じゃあ迎えが来なかったらどうしたのかって?後一週間してキャスパリーグが来なかったら地上軍と合流してアムロイ軍相手にゲリラ戦でも仕掛けようかなと考えていたさ。
「じゃあ化け猫に了解と暗号文で送ってくれ」
「了解っす。隊長も早いところ戻って下さいよ」
「今戻ろうとしていたところだったんだよ」
「はいはい、そういう事にしときます」
美濃部はそう言うと肩を竦めて見せ開けっぱなしだったハッチから船内に戻って行った。
その後間も無くして垂直に聳えるテーブルマウンテンの頂の下、山陰となって上空から発見され辛い辺りに試験艦キャスパリーグが突然そのホオジロザメにも似た姿を現した。そして徐々に音も無く降下し、麓の平原への着陸態勢に入った。