星を見ておいでですか?
俺が隊務から離れ、そんな感じで一人火星北半球の天体観測に耽っていると、船橋のハッチが開く音がした。誰かが歩いて近付いて来る。
「ったく。こんな所で何してんすか隊長?探したじゃないすか」
気怠そうに俺を隊長と呼ぶこの男は俺の副官で美濃部勲。俺と同じく一般大学で予備士官養成課程を履修した予備役の士官で階級は中尉だ。
この上官を上官とも思わないチャラい態度から察せられるようにこの男、大学時代はホストのバイトでもあった。No. 1を張っていただけに軽薄ではあるも顔は男前かな。まぁ俺には及ばないけれど。
とはいえ、この男。事故で両親を亡くして予備士官養成課程を履修した連邦軍からの奨学金とバイト(ホスト)の上がりで学費を確保し、且つ妹二人の学費と生活費まで稼いでいたのだから、ある意味大した奴だ。
この男、No. 1ホストになるくらいだから結構頭も良い。人の機微を掴み、心理を理解するため対人関係を上手く纏めるのが得意で副官として弁り、じゃなくて実に得難い人材だ。しかも上下関係が厳しいホスト業界でバイトながらNo. 1を張り、先輩ホスト達を黙らせたくらい腕も立つ。まぁ、俺には遠く及ばないけど。
俺達の出会いは予備士官養成課程。同じ大学だったからか同じ訓練班となり、気が付けばよくつるむようになっていた。
そして学生時代、士官学校の士官候補生と一般大学の予備士官候補生による合同演習があり、そこで予備士官候補生の中隊長に俺が、奴が小隊長になったのだ。
その中隊対抗演習で士官候補生中隊を相手に俺達予備士官候補生中隊が勝利判定を受けてお高くとまった士官候補生どもの鼻をあかしてやった、そこまでは良かったのだけど。後にその情報が第869特殊任務群の青木司令に知られてしまったのが運の尽きだった。青木司令はその頃自らが使える駒探しをしていたからだ。そうして俺と美濃部は予備士官であるにも関わらず宇宙の果ての緊急展開部隊に引っ張られて今に至ってたいりする。
「星に願いをかけていたのさ。隊の皆が無事に地球に帰れますようにってね」
「まぁ、折角隊長の願いが星に届いたとしても、ソルジャーブルーが干渉してアステロイドのJ9宙域に無理矢理引き戻されるでしょうけどね」
「あの人ならやりかねないな」
因みにソルジャーブルーというのは我等がスレイブマスターたる青木司令の渾名で、J9宙域というのはアステロイドベルトで第869特殊任務群が基地を置く宙域である。
「で、用向きは何だ?」
「試験艦キャスパリーグからの暗号通信を受信したっすよ」
「何て言ってきた?」
「『本日0500に予定合流地点に来られたし』だそうっす」
漸くか。全く、一ヶ月も待ったぜ。
とはいえ、異星人の襲来で通信途絶している中を遅れてもちゃんと俺達を拾いに来てくれるのだから有難いかな。