趣味の範疇外
突然の対応は事実得意ではない。そうだからこそ考えられる可能性全てを潰していたつもりだった。
対応策を考えるにもシャッターに集中していると頭が働かない。
マルチタスクはどちらをも曖昧にするだけだ。
なんてそんな無駄なことをも考え始め、冷静さを失い始めた中、急に、なぜか頭がすっきりした。
そうするのが当たり前かのように、こう言い放った。
「_櫻良、伏せろ。」
一瞬戸惑ったが、すぐに櫻良は行動に移した。
「…切影。」
パシャカシャカッピシャカシャッ。
色んな音が響き、沢山の音が共鳴した。
気が付けば、研究室という魔敵の巣窟は空っぽになっていた。
これを見て、妹は戸惑いながらもはっとして、
「お、お兄ちゃん!早く出るよ!!」
自分の見ている世界に疑いを持ちながら、僕は研究室を後にした。
「お、兄ちゃん、であってるよね…?」
そういう櫻良の顔色はどこかおかしくて。
「そうだけど、なんで疑ってるんだ…?」
「あのとき、目が変だったの。普段じゃ絶対ありえないような、怖くて冷淡な目だった。それに、切影って、なに?お兄ちゃんはいつから、そんな能力があったの?」
「なにって、切影は切影で_
カメラで対象を空間から切り取る能力は切影って略してるだけで_」
「違うの、違うよお兄ちゃん…。アリエボで能力見てみてよ…。
"カメラに移した対象を空間から削り取る能力"って書いてるよね?」
「それがどうした?それが長いから略しただけで_」
「それがおかしいって言ってるの!!趣味は確かに、手に入れた段階で自分の能力を知る手段はない。でも、能力を得た状態でさらに経験値を得ると、元々当たり前だったかのように能力の名前と詳細を体が覚えるの。そして能力の発動には、能力の固有名詞を宣言する必要があるの…。」
「それは教場で習ったからわかってるよ。流石にそのくらい…」
「だったら!!だったらなんで"切影"って言ってリンプリザートを切り取ることができたの…」
その嘆きに対する答えを言うことができなかった。
なぜなら自分にもそれがわからないからだ。
そんなこと、分かってたのに、なぜ認めなかったのだろう。
ただ認めたくなかっただけなのだろうか。
でも、当たり前のように"切影"ができたのは事実で。
あれ、そもそも"切影"ってなんだっけ。
切り取る、撮影の複合語かな。
ただ、どうしても、なぜ"切影"ができたのか。それだけはどうしてもわからなかった。