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白いノートに魔法を  作者: キューイ
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課題達成

 魔獣にはウィークポイントがある。大人しくさせるためにはそこを刺激する必要があるのだ。そうミルに興奮気味に言われたことをディアは思い出していた。


 はじめて身体強化の魔法を使って興奮している彼女だが、やるべきことは覚えている。目の前で鼻息を荒くするスカーレッドウルフを大人しくさせるのだ。


 しかしディアは魔獣の爪を腕で受け止め、牙を掴んで組み合ったりしているうちに段々とあることに気づいてきた。大人しくさせるのは一人では不可能だ、と。ディアの力では身体強化を施したところで魔獣とは五分五分の力だった。そんな厳しい中で魔獣のウィークポイントを探すなど不可能に近い。岩を手で抉る方がまだ簡単だ。


「はぁ……はぁ……どうしよう」


 ディアの頬や首筋には大量の汗が流れていた。一分間ほどの組合で足が震え始めるほどだった。


「よし、怖がるのは終いだ。俺もやろう」


 疲労しながらスカーレッドウルフと組み合うディアの耳に声が聞こえた。ヒョウの声だ。彼は青い髪を靡かせながらスカーレッドウルフとディアのところまで歩を進めた。


「ディアと言った君。俺も手伝う。何をして欲しい」


 ディアはポカンと口を開けた。


「あ、あなた杖持ってるの?道具は?」


「ある。だから早く言ってくれ。俺が逃げ出したくなる前に」


「わかった……身体強化してスカーレッドウルフと組み合うの代わってくれる?」


 ディアは疲労の混じった声でそう言う。彼女の顔を見てヒョウはコクリと頷いた。そして杖を構え、言葉を紡ぐ。


「湧き出せ猛虎にも劣らぬその力」


 ヒョウの体から光の筋が立ち上る。身体強化の魔法が施された証拠を帯びて彼はディアのもとへと向かう。そして彼女と入れ替わるようにスカーレッドウルフの大木のような四肢による攻撃を引き受けた。


「……重い!で?ここからどうする、ディア」


「ちょっと待ってて!」


 ディアは懐からモフモフの毛玉を一つ取り出した。そして杖を構える。


「突けよ泣き所、透かせよ弱みを!」


 ディアは魔獣大好き人間のミルに授業開始の前日丸々を使ってレクチャーを受けていた。マトモではない学校の授業を生き抜くためには先達の経験と知識は強力な武器となるのだ。その武器の一つがディアが二つ目に使った魔法だ。魔獣のウィークポイントを可視化するもの。現に魔獣スカーレッドウルフの腰、両足、額に黒色の点が現れている。


「よし……って多すぎるよ!」


 ディア一人では四つのウィークポイントを突くことはほぼ不可能に近い。そんな暇を与えてくれるほど魔獣は気長ではない。


 ディアは逡巡した。しかしすぐに思考は終わる。ぐるりと向きを変え、教室の隅で震えている生徒たちに声をかけた。


「聞いて!あの黒い点をつけばスカーレッドウルフを大人しくさせられるの!手を貸して!」


 そうは言うものの怖い、そんな思いが生徒たちの表情に浮かんでいた。彼らは授業がこんなにも過酷なものであるとは思わなかったのだ。今にも腰が抜けそうだった。


「む……こちらは限界が近いぞ。俺の腕と足がミシミシ言っている」


 ヒョウは包み隠さず自分の限界が近いことを吐露した。ディアの額に汗が流れるのは疲労ばかりが理由ではない。焦りだ。


「お願い!みんなココにいる理由を思い出してよ!!」 


 ディアの声が教室に響いた。しかし誰も何も言わない。ヒョウとスカーレッドウルフの組み合いによる余波で備品やガラスが割れる音が響くだけだ。


「……やろうよ!皆んなで」


 ディアは怖がるのは生徒たちの方に向かって叫び、手を差し出した。


 しばらくするとひとりの生徒が唾を飲んだ。そして震える足でディアはの方へと近づいてきた。それを皮切りにひとり、またひとりと生徒たちがディアの方へと歩み寄ってきた。


「ぼ、僕たちは何をすればいい?杖も……道具もない……」


「私とヒョウでスカーレッドウルフを抑える。だから魔獣のウィークポイントを突いて!」


 ディアは再び身体強化を施した。そして鷹のようなスピードで一直線にスカーレッドウルフに体当たりした。ぐらりと揺れる巨体。しかしスカーレッドウルフはすぐさま体勢を立て直してしまう。


「ヒョウ!私たちで抑えるよっ!」


「わかった」


 ディアとヒョウは気迫を全面に押し出して魔獣へと駆けた。スカーレッドウルフは二人をその牙で貫かんと大きな口を開けた。


 震え上がってしまいそうな恐怖を跳ね除け、二人はそれぞれ上顎と下顎を抱きつくようにして抑えた。腕や体に歯が食い込む。今にも離してしまいたい。しかし諦めなかった。ここで諦めたら何かを得られない気がしたのだ。


「今!ウィークポイントを!」


 ディアは半ば魔獣の口の中に入っているような体勢で下顎を押さえつつ、叫んだ。それに呼応するように他の生徒たちは雄叫びをあげながら、魔獣を取り囲んだ。


 黒い点で示された四つのウィークポイント目掛けて生徒たちはそれぞれ手を伸ばす。魔獣のウィークポイントを突くのに力はいらない。優しく触れるだけで十分だ。ウィークポイントは魔獣を傷つけずに大人しくさせるのによく使われる。


 ウィークポイント四つを腕で突かれるや否や、スカーレッドウルフは身震いをした。そしてヘナヘナとその場にへたれ込む。その目は先ほどまでの敵意に満ちた目ではなくなっていた。穏やかな目だ。


 しばらくの静寂。全員が恐怖や疲労で動けなくなっていた。自分の体を易々と裂いてしまえそうな魔獣の方へと生身で飛び込んだのだから無理もなかった。全員が石のように固まっていた。


 拍手が聞こえてきた。全員が音の方を向くと、教師であるファングが手を叩いていた。


「今日の課題は合格だ。さて……復習をしようノートか何か出したまえ」


 全員何も言わずにカバンから羊皮紙ロールを取り出した。もう喋る気概も残っていなかった。


「魔獣と接するときは基本身体強化の魔法を施す。そしてもう一つ……先ほどディアの行ったウィークポイント看破の魔法、コレも大人しくさせる際に有効だ。他には眠気魔法などもよく使われる……」


 ファングは淡々とした語り口調で説明を行っていった。生徒たちはノートこそ取っていたが、先の激しい戦いが鮮明にこびりついて離れず、集中できていなかった。


 しかしディアだけは教師の言葉を一字一句漏らさぬように羊皮紙に書き留めていた。羊皮紙を突き破りそうなほど早く強く夢中でノートをとっている。そんな彼女を皆ポカンと口を開けて見ていた。


「……コレで第一回魔獣学を終わりとする。質問のある者は?」


「はいっ!」

 

 ファングは眉を吊り上げた。激しい実践訓練が行われる彼の授業で授業終わりには生徒たちには体力が残っていることは少ない。だから質問する生徒はほとんどいないのだ。


「何が疑問なのかね」


「先生のさっき仰っていた眠気魔法というのも教えていただきたいです」


 ファングは顎に手を当てた。そして少し考えるような仕草をした後に本棚から一枚の羊皮紙を取り出した。そしてディアに手渡しながら呟くように言う。


「眠気魔法の使い方についてはコレを見たまえ。眠気魔法は一年生の後半で習う者であるから難しいと思うが……せいぜい頑張りたまえ。以上、他に質問が無いなら解散だ」




 

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