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白いノートに魔法を  作者: キューイ
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魔法を使う

 ディアは校舎の一角にある教室のドアの前に立っていた。いよいよ魔獣学の初授業の日が来たのだ。ディアは昨日の夜になかなか眠れないほどに興奮していた。いよいよこの学校での授業が始まるのだ。楽しみでもあり、怖くもあった。しかし彼女の知識欲は留まるとことを知らない。


「入りたまえ。生徒諸君」


 体格のいい白髪の男性教師がドアを開けた。目の前にいたディアを一瞥すると、彼女の後ろにいた授業を待つ生徒達に言葉を放つ。


「早くしたまえ。君らの頭と体に知識と体験を詰め込むのには時間を要する」


 その教師はすぐさま厳格なイメージを生徒全員に植え付けた。生徒達はすこし硬い動きで教室に入っていった。一方でディアはまだ胸が高鳴っている。


 教室にディアが入ると椅子や机と言ったものが一切なかった。そして何より教室が広かった。机や椅子がないからそう感じる、ということではなく本当に家二つ分ほどの面積がその教室にはあった。そして教室の前方には黒板が一つ。


 生徒が全員教室に入ると、ドアはひとりでに閉まった。そしてぐるりと白髪の教師は見渡すと、言葉を発し始めた。


「私は一年生の魔獣学を担当するファングという。君らの自己紹介は必要ない。おいおい私が覚えていく」


「俺はヒョウ……名前を覚えてほしいです」


 真面目な顔をしてディアの隣にいた青みがかった髪色の聡明そうな男子生徒が発言をした。彼の発言から教室の空気が凍った。彼はふざけている様子もなく、至って真面目に発言していた。これにはディアも苦笑いを浮かべるしかなかった。


 一方でファングはヒョウのことをジロリと見つめたが、すぐに視線を切った。


「……さて授業を始める。まず魔獣のことを学ぶ前に覚えてほしい魔法がある」


 ファングはチョークを手にし、黒板に叩きつけるように文字を書き始めた。


「魔獣は人間や魔人よりも力が強い。つまりは生身で私たちが相対するには強大すぎる相手だ。そこで魔獣と相対する時身体強化の魔法を使う。戦闘であれ、融和であれコレに変わりはない。生徒諸君、杖と魔法道具を出したまえ」


 その言葉を聞くなり生徒達は一斉に身構えた。一昨日校庭に放り出されたばかりの生徒達が杖や魔法道具を持っている方がおかしいのだ。例年この時点で杖や道具を持つ者は二、三人程度である。それを知った上でファングはため息をついた。


「魔法学校だぞ?杖と道具がなくてどのように魔法や魔獣、魔法道具、魔法戦闘などを学ぶ?まったく毎年毎年……まぁいい」


 ファングは杖を取り出した。そしてもう片方の手に拳ほどの魔法宝石を握りしめた。


「身体強化の魔法を今から実践する。杖の振り、言葉、魔力の巡りに注目するのだ。ゆくぞ」


 ファングの杖を構えた。杖を持っているディアは同じように構えた。真似が一番覚えやすい、彼女が十六年の人生で感じたことだ。そして片手に先輩から譲り受けた魔獣モフモフの毛玉を持つ。それを見て教師は一瞬眉を吊り上げたが、彼は説明を続けた。


「……湧き出せ猛虎にも劣らぬその力……!」


 杖の振りと共に言葉を紡ぐファング。彼の魔法が完了するや否やゆらゆらと光の筋のようなものが彼の体から立ち上り始めた。そして手近にあった岩石を手に取ると、易々と握りつぶしてみせた。ガラガラと音を立てて崩れる岩石に生徒達はポカンと口を開けた。


「コレが身体強化の魔法だ。魔獣と相対する時は忘れないことだな。中にはコレ無しで魔獣を使役する者もいるが……諸君らには関係ないだろう」


 ディアの脳裏にはぶっきらぼうだが後輩に優しい先輩の姿が思い浮かんだ。ミルのおかげでディアは魔法の杖や道具を用意できている。


「さて生徒諸君。試してみたいだろう?身体強化の魔法」


 ディアの背筋に寒気が走った。危険な信号を感じ取ったのはディアだけではなかった。隣にいたヒョウも口を開く。


「それは身体強化の魔法の訓練のために魔獣をこの教室に放つということですか?危ないのでやめてください」


 ヒョウの推測に生徒達全員が後退りした。教師たるファングはフン、と鼻を鳴らした。


「ヒョウ、君はかなり正直な男のようだ。好感を持てる……しかし実践が効率的だろう、訓練には」


 教師ファングは教室の奥にあるドアに手をかけた。そのドアには鎖が何重にもかけられている。しかしファングがドアの取っ手に触れると鎖は溶けるように消えた。そしてドアが開かれる。


「スカーレッドウルフだ。身体強化を用いて大人しくさせてみなさい」


 山脈のように盛り上がった筋骨隆々の四肢に鋭い牙、赤い毛並みを持つ魔獣が部屋へと歩を進めた。生徒達はさらに後退し、壁際にまで避難した。少数の生徒が教室のドアに手をかけたが開かず、悲鳴を上げた。


 ディアは彼らを庇うように前に出た。杖を構え、片手にモフモフの毛玉を持つ。


「私が相手だ!」


 そう叫ぶとスカーレッドウルフの鋭い眼光が彼女を捉えた。ディアは先の魔法を模倣し始めた。身体強化を施し、魔獣とは渡り合う。


「土壇場だけど……やってやる!湧き出せ猛虎にも劣らぬその力!」


 ディアが言葉を紡ぎ杖を振る。それと同時にモフモフの毛玉がひとつ熱を発して消えた。魔法道具は基本魔法の使用によって摩耗などする。魔獣の毛玉などは消費が早いのだ。


「ほう。アレは二年生のミルが使役するモフモフの毛玉だな……いいコネクションを持っているようだ。そこの女生徒、名前は?」


「ディアです!」


 ファングの問いかけに答えながらもディアはスカーレッドウルフから目を離さなかった。目を離したら最後、牙に貫かれるのは目に見えている。

 

 ディアは戦闘は不利と判断した。そのため融和策に打って出た。


「よーしよし……」


 ディアは四つん這いになって魔獣に近づいた。コレはミルの真似である。ミルはモフモフと交流するときに四つん這いになって下から接していることが多かったのだ。


 しかし容赦なくスカーレッドウルフは爪を振り抜いた。剣を振るったような音を立ててディアの眼前を鋭い爪が通り過ぎた。


「これじゃダメか……」


 ディアは今度は魔法の力を信じ、強硬策に打って出た。そのまま突っ込んだのである。当然彼女は爪の餌食になるかと思われた。眼前に爪が迫ってくる。しかし彼女は避けない。真っ向からその爪を腕で受け止めた。


 確実に止められると確証があったわけではない。そのまま裂かれる恐怖もあった。しかし彼女は止まらなかった。否、止められなかった。彼女は知識欲で動いている。ディアはどうしても身体強化の魔法の効果を知りたかったのである。


 一方、スカーレッドウルフは目を見開いた。眼前に迫る少女を確かに切り裂くはずだった。しかし彼女は腕で爪を止めて見せたのである。


 他の生徒達から歓声が上がった。ディアはニヤリと笑う。


「すごい!コレが魔法……!」


 ディアの全身の皮膚は波立った。初めて自分で魔法を行使したのだ。その興奮がディアの顔に滲み出ていた。この瞬間だけは授業の課題を忘れてしまいそうだった。


 しかしコレで万事解決というわけではない。固く結ばれた紐に手をかけただけである。まだ解くには至っていない。ここからスカーレッドウルフを大人しくさせねばならないのだ。

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