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つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)

手が乾燥して悩んでいた後輩の手がハンドクリームでもちもちになったらしく、「先輩と手をつなぎたいです」と言ってくる


「先輩―!」

「おい、自習スペースででかい声で叫ぶと迷惑だぞ」

「ですかねー」

 今は三学期の期末前。

 部活動は休みの期間なんだけど、僕はそんな今日も後輩と放課後を過ごす。

 後輩は少し不安げな成績らしく、勉強を教えてほしいと頼んできたのだ。

「で、なんかすごくご機嫌だけど、もしかして勉強がすごい進んでるとか?」

 僕は、小さな声で鼻歌を歌いながらシャーペンを五本ぐらい並べている後輩にそう言った。

「いえ、違います。ですが、ご機嫌なのは確かです。ほら見てください!」

「……えーと、何を見ればいいんだろう?」

 後輩は手を差し出しているが、手にはなにものっていない。いや、空気は乗っているから主に窒素と酸素は乗っているのかな。だめだ。化学のテスト勉強のしすぎかもしれない。

「……先輩、もしかして、何ものってないじゃんとか思ってますか? あのですね、見てほしいのは私の手です。ほら! 前と全然違います」

「ああ……もしかして、乾燥しなくなったってこと?」

「そうです! 新しいハンドクリームをつかったら、もちもちになりました!」

 後輩は右手で左手をつまんでそれから手のひらと甲を交互に僕に見せびらかした。

「よかったな」

「よかったです」

「……うん、じゃあ、勉強始めようか」

「え、あ、ちょっと待ってください。せっかく手がもちもちになりましたので、先輩にもそれを実感していただきたいのです」

「え、何、ハンドクリームの宣伝?」

「違いますよー!」

 後輩は空気読めませんね、と言った風に僕を見た。ちなみに空気は読むものではなく、ほとんどが窒素と酸素とあとは水蒸気とアルゴンと……だから化学のテストの勉強しすぎなんだよな自分。

「じゃあ何を実感すればいいの?」

「私の手のもちもちさってさっき言ったじゃないですか。つまり、手をつなぎましょうってことです」

「マジで言ってる? それ、どっちか勉強できなくな……らないか」

「そうですならないんです。先輩は左利き、私は右利きなので。これは運命です。だからなおさら、先輩と手をつなぎたいです」

「運命の基準低いなあ」

 僕は笑った。でも、後輩といるおかげで、何気ないことも楽しい気がする。ただのテスト前の放課後だって、楽しい。

 後輩だってよく楽しそうにしているのだ。

 その笑顔をつい見つめてしまうから。

 手をつなぐというのは、なんだか恥ずかしいと思ってしまうのだ。

 今日の後輩の笑顔は、少し恥ずかしそうなほほえみだった。

 だけど、きっと僕も似たような顔になっているんだろうな。

 だけど、そんな僕と後輩だから。

 ぎこちなく手をつないだまま、ぎこちなく一緒に勉強をしても、きっと問題ないだろう。

 成績に問題がないかは知らないけど。

 だから、僕は、後輩の手を握った。たしかに、乾燥している季節なのに、もちもちだった。

「先輩も結構うるおってますね」

「あ、ほんと? ありがと」

 僕がなんかノリよくそう返して、そして沈黙になった。けど、後輩は少し何か言いたそう。


 やがて、手があったかくなったころ。後輩は口を開いた。

「……先輩。春休みって、時間ありますか?」

「時間? 時間は結構あるよ」

「でしたら……行きたい場所があるので、一緒に行ってくれますか? 手をつないで」

「うん」

 僕と後輩はつないだ手をおろして、少しだけ揺らした。

 そして、今度はちゃんと、勉強を始めた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ハンドクリームを使ってみたのは、先輩と手が繋ぎたかったからなんですね。しかもそれは通過点であって、最終目標はデートすることだったとは……。策士ですね。
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