リクエスト001
リクエスト001は、署長のサンタクロースです!
「まさか僕に出番が回ってくるとはね…」
光の遮断された部屋で、少年は呟く。
袖を通すは赤いジャケットーー服の真ん中には一直線状に白い綿が3つ付いている。
寒空の下、足の先まで温めてくれるのは赤いズボンーー裾には白い羽毛が付いている。
戦場で衣装が『鎧』ならば、これもまさしく鎧。
寒さを全て遮断し、クリスマスという戦場を駆け抜ける、小さき勇者の頑丈な鎧。
PM 7:30
蒼井はソファーに腰掛けテレビをみていた。
同居人である華蓮は麟、水香とお泊まり会などという行事の為今晩はいない。
「ふむ…この映画は何度見ても泣ける」
自分の大好きな映画『桜舞う歓喜』これで通算369回目の再生なのだが、当然これを録画したのがビデオテープであるため画が荒れ放題である。
それでも泣ける辺り、余程思い入れが強いのだろう。
ぺ~ぺ~ポッポッぺ~ペロポ~
涙を流し続ける蒼井の耳に入ってくるのは、ふざけているような、可笑しな音楽。
ピンポーン
続いてインターフォン。
涙を拭うが、まだ目に涙は溜まっている。
ガチャっ
そしてドアを開けると…
「メリークリスマス!!」
署長が小さなトナカイの乗り物の首にラジオを引っ掛け、跨っていた。
無論、サンタの格好で、ラジオからは未だに『ポッぺ~ポ~』と意味不明な音楽が流れ続けている。
それを見た途端蒼井は…
「何のつもりだ!!」
いきなり署長の頭を鷲掴みにし、ブンブン振り回す。
そして、耳元で一括
「何しに来た!?」
怒鳴られた署長は
「クリスマスプレゼント…」
震える手で、水鉄砲を改造したような細長い銃を手渡す。
「水鉄砲…?」
蒼井はそれを手に取り、外装を確認する。
見た所、ただの水鉄砲だが…
「いやいや~ピーナッツピストルだよぉ~一度引き金を引くと365発のピーナッツが一気に発射されるよぉ~」
得意気に説明する署長。
「お前が作ったのか?」
「うん!」
蒼井の反応はイマイチ…
心に引っ掛かったことだけ聞くと
パパパパパパパパパっ!!
署長に向けて引き金を引く。
「あたたたたっ!痛い!蒼井君っ!痛いからぁ!!」
「下らないものを作るんじゃあない!」
やはり、映画の後の感動を無に返されたことに苛立っていたのか、いつもより仕打ちが酷い。
最後にピーナッツピストルを署長目掛けて投げつけて家の鍵を閉める。
「……まだ、本命終わってないんだけどな」
悲しそうな顔の署長、彼に取ってこれはタダの冗談だったのかもしれない。
「…メリークリスマス」
綺麗にラッピングされた箱をそのまま玄関前に置いて、彼は去っていった。
ー後日ー
お泊まり会から帰宅した華蓮が見つけたのは『蒼井君へ』と書かれた小包が玄関前に転がっている奇妙な景色。
「蒼井さん、これ…」
華蓮はそれを拾い上げ、室内の蒼井に渡す。
それを開けた途端、蒼井は絶句する。
中身は『桜舞う歓喜』のDVDだったのだ。
「署長!」
思い返せば、単純な話だった。
自分が何故、署長と一緒に居るのか?
『良い奴だから』それだけだ。
気が付けば蒼井は署長に謝るべく、走り出していた。
余談になるが、この後署長の移動手段は一週間蒼井の肩車になった。
-エンディング-
ペロポ~ぺ~ぺ~ポッポぺ~ぺ~ぺ~ぺペロポ~ポ~(笑)