第28話 ナミダ
これからはバンバン頑張っていくつもりなので、応援よろしくお願いします。
『オレハナンダ…?』
これが、俺が産まれて初めて喋った言葉だったらしい。
だけれども、正直俺はそんなことを覚えていない。
【何故?】そう問う人間と【赤ん坊の頃の言葉なんて覚えてないだろ】と決めつける人間がいる。
ここで人間は二つに分けられる。
俺のように知らず知らずのうちに他の作品と同じ答えを出しているプログラムには一切理解出来ない分けられ方である。
そして、答えは前者でも後者でもない。
極端に人間に近い思考で必要なことだけを実行するように作られたプログラムの人間のような部分ーーそれこそが答えだ。
自分の言った言葉を一々覚えていられる人間はいない。
【面倒くさい】、【一回一回に責任を持たない無責任さ】が初めての言葉を忘れさせたのだ。
だが、次に出会った男のことは覚えている。
短い髭を生やし、髪は白に染まっている、白衣を着た老人。
『キサマ………ウセロ』
これは覚えている。
この時に、確かに俺は【失せろ】と言い放った。
別に心を込めて言ったのではない。
人間が目の前の犬を邪魔にして、【退け!】と言い放つのとなんら変わらず、言ったのだ。
しかし、男の瞳はそれだけで潤んだ。
『ナミダ…』
切なくて
悲しくて
虚無感に襲われた。
自分も、限りなく人間に近い思考を搭載された自分も、いつかはあの【ナミダ】を流さなければならなくなるのだろうか?
不安になった。
怖くなった。
何で生まれてきたのかを考え始めた。
壊すため壊すため壊すため壊すため壊すため
『Error…』
俺は闇に落ちた。
次に俺が目覚めたのは、暗くて、壁は血のように紅い部屋。
俺には体があった。
人間の形だ。
だけれど、何か違う。
顔には目や鼻などがなく、今にも消えてしまうような淡い光に包まれていた。
そして部屋の中央を見つめる。中央の床、血のように紅く、内臓のように蠢く、その床からは人が生えていた。
床から上半身が生えているのだ。
それを見たときに、悲しみとは違う恐怖が俺を襲った。
『君は…何がしたい。』
床から生える男が俺に問い掛けてくる。
苦しそうな声。
何十年も、何百年もあそこに生えたまま苦しみ続けたような…
いや、実際に生えたまま苦しみ続けたのかもしれない。
『キサマハダレダ?』
逆に質問をする。
『私か…私は…カハァ!』
男が血を吐く。
『ナガクナイノカ?』
『気にしなくて…構わんよ』
先に肉片が固まった、重たい右手を持ち上げて、無理矢理血を拭う。
『モウイチドトウ、キサマハダレダ?』
『私は、お前だ』
『オレハオレダ、オレガナンダカシラナイガ、オレイガイニオレハイナイ』
『言い方を変えよう…未来のお前だ』
『ミライノオレ?』
『虚無感の中で戦い続けて、苦しみ続けて、見たくない血を大量に見たお前の姿だ。』
目は血走り、髪のない頭からはうっすらと血が流れる、その男はそう言い放つ。
また、怖くなった。
そうだ、大量の血なんて望んでいない。
なのに血を見るのか。
人を泣かせるのか。
自らが【ナミダ】の原因になるのか。
嫌だ。
嫌だ嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
怖い。
怖い怖い。怖い怖い怖い。
怖い怖い怖い怖い!
あんな姿になんて!【ナミダ】の原因になんてなりたくないよーーーー!!!
俺の右腕は何時しか、剣を作り出し、握り締め。
『ウッ、ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!!』
俺を斬っていた。
『ハァ、ハァ、ハァ…』
【ナミダ】
頭の中に木霊する。
【ナミダ】
頭が痛い。
【貴様はナミダの原因だ!!】
やめろっ!やめてくれ!!
【ナミダを流させるのは貴様だ】
違う!俺はそんなこと望んでいない!!
【他人を傷付け!壊し!泣かせるんだ!!】
うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!
『Error……』
また俺は闇に落ちた。
次に俺が目覚めた時、俺には体があった。
人間の少年の姿だ。
そして近くには先程の老人。
「目覚めたかい?」
『キサマハダレダ?』
【紅い壁の空間】の男の時と同じ質問をする。
また【未来の俺】と呼ばれたら、嬉しいのかもしれないからだ。
未来の俺のようにならず、まともな人間として生きているのだから。
しかし結果は
「私は君の父親だよ、息子よ」
嬉しさ半分、悲しさ半分だった。
俺にも親がいたという嬉しさと、やはり俺は男のようになってしまうのかという悲しさがあった。
それから3年くらいたった時だったと思う。
人間として可愛がって貰った俺は、生活のルールを守り、誰も泣かせていなかった。
このままなら、男のようにならなくて良い。
そう思っていた。
しかし、周りに優しくすれば優しくするほど、俺は泣く羽目になった。
優しくしてやったのに、誰も俺には優しくしてくれない。
歯軋りする。
唯一優しくしてくれた親父も1年前に死んだ。
急に周りにいる馬鹿共の【ナミダ】が見たくなった。
その時、俺の体が発光する。
あの時の、【紅い壁の空間】の時の俺と同じ姿。
そして気が付けば、周りの馬鹿の一人の脳内。
脳内をいじくるために作られたのが俺だ。
だから脳内だとすぐに分かった。
記憶改善。
面白い
楽しい
娯楽
他人の知らない空間に居られる優越感。
『フフフフフ…ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』
あの日あの時から、人の脳をいじくりまわして壊すのが、楽しくなった。
作者「やっちまった」
蒼井「やっちまったな」
作者「まさかの今までで一番長い話になっちまった」
蒼井「主役の俺どころか、主役クラスの隼や、白鳳までいない話が…」
水香「てか長いって言ったって、この小説かな~り短いんだから良くない?」
作者「(バタっ)」
蒼井「…それはダメ。
言っちゃダメ。」