第21話 重なる
番外編も一話にするということでよろしくお願いします。
「ううぅ……」
今だに泣き続ける華蓮と
「ほら、もう泣かないの 大丈夫だから、ね?」
それを励ます麟。
何故あれほどライバル視していた華蓮を麟が励ましているのかというと
実際、華蓮が泣いた理由が分かっていたから
そして少し前までの自分と華蓮を重ねているから。
-7年前-
雪の降る街中を、ボロボロの服を着て歩く赤髪の女の子が1人。
着ている服は薄着で、今のような季節に着る物ではない。
そして、ズルズルと引きずるように持っているのは服同様ボロボロの鞄。
暖かい家庭を彼女は持っていない。
生まれて、育ててもらって、すぐに捨てられたのだから。
しっかりと覚えている、母親が自分を捨てる時に言い放った言葉。
『アンタを育てるの飽きたわ』
自分勝手過ぎると怒りが込み上げて来るが、それよりか『自分は所詮母親の玩具だった』という悲しみが勝り、母親を憎むことを彼女はしない。
いや、出来ない。
育ててくれている時の母親の笑顔。
自分がイジメられたら必死で守ってくれた母親。
自分のことを心から叱ってくれた母親。
そして、誰よりも自分を愛してくれた母親。
「…恨めるわけないよ…」
静かに、悲しそうに呟く。
ただ誰かに救いを求めたのではなく、どこに居るのかも分からない母親へ向けられた、愛の言葉…。
そこで
彼女は
暗闇に
飛び込んでしまう。
目が覚めたのはそれから半日後。
彼女は暖かなベッドの中にいた。
「暖かい…」
だが本当は『暖かい』より『温かい』であって欲しかった。
家族の温もり、『母親がまた迎えに来てはくれないだろうか』とついつい考えてしまう。
しかし、それ以外にベッドで横になれる理由はない。
何故だろう?何故自分は親が迎えに来たわけでもないのにベッドで横になれるのだろう?
家にはこんな部屋はなかった、両親ではない。
しかし、この街には見ず知らずの他人を泊める、増してや救ってくれる人間などいない。
誰に助けてもらったのか?
謎が謎を呼ぶ。
そして、ついに謎の解かれる時がくる。
ガチャ
ゆっくりと部屋の扉が開かれる。
「目、覚めた?」
入って来たのは初老の女性。
女性は優しそうな声で赤髪の少女に問う。
「はい…ありがとうございます」
『やはり親ではなかった』絶望と助けてもらえた喜びが少女ーー麟の中で渦を巻く。
「やっぱり……両親じゃなきゃ、嫌?」
女性は優しく聞いてくる。
「い…いえ、とても、とても嬉しいです!
助けてくれてありがとうございます」
本当は『はい』と答えたかったが、女性に精一杯の気を利かせて否定する。
しかし、空元気なのは誰が見ても見抜けただろう。
ーぎゅっ
「温かい………」
不意に女性に抱き締められた麟は思い出す。
いつか貰った温もりを。
「私は親の温もりをあなたに与えることは出来ないけど、もし、行くところがないのなら…ここに好きなだけ居て良いのよ?」
意外だった『助けてくれる人』が居たことにも、『自分に居場所をくれる人』が居たことにも。
答えは一つ
「あの…迷惑をたくさんお掛けすると思いますが、居させて貰ってもよろしいですか?」
嬉しかった。
この女性は『温もりを与えてあげられない』と言ってきたが、自分はこの人とならやり直せる気がしたから。
また…温もりを見つけられそうだったから………。
-4年後-
もう麟は女性の娘同然だった。
女性の好意で学校にもちゃんと通わせて貰って、今は中学2年生だ。
いつも通り、温もりを『お帰りなさい』を求めて帰宅すると、部屋は荒れ果てていて女性の代わりにヤクザのような男達が3人、部屋を漁っていた。
「ん?」
男の1人が麟の存在に気付く。
「嬢ちゃん、可哀想になぁ…
こんな悪い奴に捕まっちまってな!ん!?」
最初の方は優しげに、後の方は少し強めに言い放つ。
「な!悪いのはあなた達でしょ!?」
負けじと言い返す麟。
「ここに婆が居ただろ?
あいつは散々家に借金してんだよ!
挙げ句はお前を置いて逃げ出したわけ!!
お前は婆に捨てられたんだ!!」
大声で怒鳴りつけられる。
「そん………な…」
麟はまた崩れた。
裏切られて、希望を見つけて裏切られて。
麟の精神は壊れてしまった。
「分かったか!?
じゃあお前には罪もないが!
ちと事務所の方まで来て貰うぞ!!」
乱雑に肩を掴まれ、連行される。
「なんで……」
もうそれしか考えられない。
信じていたのに……
「とっとと歩けよ!!」
また怒鳴られる。
泣きたかった。
「……待ってください、彼女に罪はないでしょう?」
ヤクザ達の前に麟には、見慣れた男と見知らぬ男が現れる。
見慣れた男は眼帯に金髪。
「委員長!」
麟は自らの所属する委員会の委員長が現れたことに驚く。
もう一人は全く知らない、他校の生徒。
「お前らぁ!痛い思いしたくなければ今すぐ帰りな!!」
ヤクザがさらに怒鳴る。
「てめぇこそ粋がるのはやめろよ?
痛い思いするのはどっちかな?」
他校の生徒ーー蒼井は挑発的な態度を取る。
-5分後-
ヤクザ三人は簡単に地を這わされていた。
(委員長も格好良かったけど、他校の子も格好良い)
不謹慎ながら麟が一番に思ったのはそのことだった。
それから委員長ーー隼は麟のところまで歩みより一言
「……良ければ仲間になってくれないか?」
『仲間』新しい響きが嬉しかった。
駄文+才能無いですが、読んでくださればこれ幸いです。
よろしくお願いします。
それと回想ばっかですいません。