竜の加護を持つ赤子(というか本人)
『泣くでない』
目の前で赤子でもないのに泣きじゃくる男にそういえば、男は余計声を上げて泣いた。
全く、うるさくて眠りにくいわ。
『我が君、わがきみ、わがっ』
うるさくて、うるさいのに。
目を閉じればやがて意識は薄れていく。
世界に生を受けて2500と幾ばくか。
名前すら忘れていくほどの時の最後に出会った石の精霊。
お前と共に生きた時間は、最期に良い慰めになった。
『我の骸は好きにするが良い』
山ほどのでかさじゃが、鱗は透き通ったアメジストのようじゃから。
お主の石に負けぬほど綺麗であろう。
男の鉱石と共にある我の鱗。
それは想像の中の物だが、最期の心地よい夢となったーーーーー………。
精一杯生きて生きて、生きて。
我は気づけばどの生き物よりも長く生きて、多分死んだと思ったのじゃが。
「ふぎゃあ!おぎゃあ!ふんぎゃああ!」
あれえ?我、まだ生きてた?
と思うがどうにも様子がおかしい。
目があかず、体も自由にならず。
あまつさえ、誰かに抱かれておる。
我、山ほどの巨体ゆえ抱かれた記憶などとんとないのじゃが、これはどうしたことか。
「なんでっ、なんでよ……!なんなのこの色は!!」
混乱していると突然聞こえた耳障りな声。
不快でそれをかき消すように泣き声が強くなる。
「おぎゃあ!おっぎゃああああ!!」
「今すぐ風鳴きの渓谷にこれを捨ててきなさい!わらわの子は死産であった。産まれてなど居ないわ!!」
あれー?あれれー??
我、もしかして人の子に産まれ変わった?
それで、我もしかして産まれて初日で死んでまうのか?
「おぎゃあ!お、ふぎゅう!!」
急に口にものを詰められて喋れなくなる。
鼻水で鼻も詰まっておるので息が出来ぬ。死んでまう死んでまう!
あむあむと口のものをはめば、ちょっと小さくなりなんとか空気の通りは確保出来た。けれど泣けば呼吸が出来なくなるので大人しくする。
すると藁よりふわふわの寝床に押し込まれて蓋をされて、どこかへ連れていかれるのがわかる。
ちょっとまってたも。
もしかして我、マジで捨てられに行くんでないのかい。
やばい、我、しんでまう。
たーすーけーてーだーれーかー
泣いて自己主張をしたいが泣くと死ぬ。
困った。今死ぬか、後で死ぬか。
わかるのはどちらにせよ産まれて一日かからんこと。
「あぶ、うー」
たーすけーてー
しんでまうー
だれかーだれかー
心で念じて、念話が通じたのは竜の時じゃけど。
今はそれしか出来ないので、必死に念じる。
パイライトー
メノー
クオーツー
たーすけてーたもー我しんでまうーしんでまうー
念じ続けて幾程たったかわからぬが。
不意に蓋が空いた。
差し込む光が眩しくて、その時初めて目が開いた。
が、ぼやけてさっぱり何も見えぬ。
「……お前に罪はないのだけど、恨んでくれるなよ」
いやじゃー。死にたくないーうらむうらむー。
誰かの懺悔に文句を言うが通じるはずもなく。
我のからだはふわりと浮いたーーーーーーーいや、落とされた。
ちょ、マジで死んでまう死んでまう。
我死にたくないー!!
一瞬が永遠に感じ、そう強く念じた時
『我が君!!!』
崖から飛び出してきた石の精霊に捕獲された。
ナイスキャッチじゃ。
ナイスじゃパイライトよ。
『この感じ……人だけど、我が君、ですよね?』
そうじゃそうじゃ。うっすら見える鈍い金色の髪の男に手を伸ばせば
ぼたぼたと、男から石が降ってきた。
ちょお、痛い痛い。
『わ、我が君、し、しんだ、かと…喪われたとば、かり…!』
いたいいたい。お主の涙は石なんじゃ。
ゴツゴツと顔や体に石が降ってきて地味にダメージを食らう。
『は、はっ、申し訳ありません我が君』
分かれば良いのだよ。やっと止まった落石に息を吐く。
『とりあえず……私の洞窟へ参りましょうか』
そうしておくれ。少なくとも我の生を喜んでくれたパイライトの元なら、死ぬことはなかろうぞ。
そう思っていた時期が我にもあった……!
でも現実はそんなこと無く。
『はい我が君到着しました』
「ふぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!」
パイライトの洞窟に降ろされて秒で死ぬかと思った。
『わ、我が君!?如何しましたか??』
如何しましたか、じゃないわい!
裸の体に直に当たる岩、石。
痛い。めっちゃ痛い。すんごく痛い。
赤子の柔肌を舐めるでない!!
『え、あ、すみません?』
あまりの痛みに洞窟中に広がる鳴き声をあげると、パイライトに抱き上げられたが。
必死に泣いて、泣いて、泣いて
気づけば下半身から何かがじょばっとでた。
謎の水分。それを見てパイライトと揃って首を傾げた。
『なんでしょうかこれ。股から出てますが』
我が知るわけなかろう。何せ人間生活一日も経過してないのじゃから。
『そうですね、まあとりあえずあえて嬉しいです我が君』
うむ。我も嬉しいぞ。おかげで命拾いしたしな。
と思ったが。
その少しあと我は再び死にかけることになる。
腹が減った。
すごくへっためっちゃ減った。
「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!」
『ええ、何食べるんですか人間ってえ…果実も肉もダメ!虫もダメってどうすれば!?』
わかるわけなかろうー
竜じゃった頃は大地との気の交流で行きとったし
今生はまだそういったもの与えられてないんじゃからー
『私だって精霊ですから知りませんよ!?でもこれら全部人間が食べて居たのを見たんですが……』
牙が一本もない故か飲み込めぬ。
そう言うと無遠慮にパイライトは我の口に指を突っ込んで開いてマジマジと口を見た。
『あ、本当ですねえ』
うむ。人の子って牙なかったっけ?
ってじゃないわ、はらへったー
「ほぎゃ!ほぎゃ!ほふゃあああ!!」
ああ、もう
泣きわめく元気もなくなって……
『わ、我が君!?』
「それはなんだ赤子の精霊よ」
『この子の餌を分けてください魔王よ』
パイライトにまるでものの様に魔族っ子に差し出される。
受け取ってはくれぬようだが、あう!と手は振ってみる。
「…これが餌、ではなくこれの餌を用意しろと……?」
『ええ。もう空腹の限界らしいので』
「その前に服を着せてやらぬか……!」
はっ!
魔族っ子の言葉にパイライトとショックを受ける。
谷から落とされたその時から我は全裸であった。
というか竜も全裸だし、パイライトもなんか鉱石まみれでそう言う見た目だしで全然気づかんかったが、そういえば人の子も魔族の子も服、という物を着るのであった。
「おい、色々と用意をしてやれ。それでなんなのだ石の精霊よこの赤子は。お前まさか地龍を失ったショックでさらったか……地竜と同じ深紫の髪色としても、あれとは違う。返してこい」
『…魔王よ、この方の念話を受けてやってくれ』
「ん?赤子が念話などできるわけ……」
やほー魔族っ子よ久しゅうのう。随分大きくなったのうー
前にあった頃は小石ほどじゃったのにパイライトと同じくらいになったのうー
「お前は………凄まじく、縮んだな……この間の抜けた感じ……地竜だな…」
愕然とする魔族っ子に手を振っていると、いつの間にか来た他の魔族っ子に抱き上げられた。
「陛下、隠し子とは言え赤子を全裸で扱うのは宜しくないかと」
「余の子ではない!!」
「ハイハイ。念話使えるって?そんな化け物陛下の子以外いないでしょ」
「断じて違う!」
その魔族っ子に、さらに別の魔族っ子に渡されて。
揉める魔族っ子達と別の部屋の連れていかれる。
「あの…石の精霊様、見られてるとやりにくいのですが」
『赤子の餌を知りたいのです』
「絶対イヤです。見てたらあげません」
『………』
パイライトよさがれー。我もうお腹減って限界なんじゃからー
そう言うとパイライトは渋々、すっごい渋々消えた。
そして魔族っ子に大きな乳を押し付けられた。
じゃから牙がないからこんな肉の塊食えぬってばー
「ほら、吸って」
ん?
はむはむと肉を咥えて、言われた通り吸ってみると。
なんか出てきた。
水とはまた違う、なにか。
「いっぱい食べないとダメよ」
ま、ま、まさか
人の子はこれを食うのか!!
ショックを受けつつも腹が満たされるまでそれを飲んだ。
「あらダメよほら、トントン」
けぷっ
腹が満たされる眠くなり。
我はそのまま眠りに落ちた。
この魔族の雌はそれからしばらく我に餌をくれた。
餌を分けてくれた同じ赤子の雌の子に感謝しつつ、しばらくのときを魔族っ子の元で過ごさせてもらい。
股から出たものは、排泄物と知りパイライトとショックを受けた頃。
まるで火山のように切れた魔族っ子に城を追い出された。
『見返りはきちんと渡してるでしょう!?』
「ふざけんな。地竜との隠し子って言われて余は老専、獣専と言われているのだぞ!?あまつさえ縁談も老女の釣書が増えて……ふざけるな、お前らは二度とうちに来るなーーー!!!」
パイライトと共にポイっと追い出されて。
下履や服などが入ったカバンも投げつけられる。
『全く。さっさとつがいを見つけないからいけないのでしょう。申し訳ありません我が君、人選をミスりました。今度はつがいを多く持つ者のところへ行きましょう』
「それで、俺のとこに来たわけか……ぷぷぷ、魔王ざまあ……」
『ええ。我が君の餌は人型でないと与えられないそうなので。とりあえず対価は魔石としてはらいます』
「ああ、そこんとこはいいよ。で、地竜の名前は?」
次に連れてこられたのは聖王のところだった。
煌びやかな鉱石のようにキラキラした男。我はこの男の美目は好きだった。キラキラしておるし。パイライト鉱石にも似ておるし。
はて、名前。
そのようなものは無い。
パイライト、お主つけてくれるか?
そう聞けばパイライト飛び跳ねてから嬉しそうに笑った。
続かないよ!!
設定
地竜
2500ちょいで死んだと思ってるけど実際は2500からカウントするのを忘れてるしカウントも正確じゃなかったため4000オーバーの老竜で老衰死。
東京ドーム何十個分のサイズで物理的に無敵だった。
竜らしく光り物が大好きで、お気に入りの鉱石の精霊に自分の剥がれた鱗(体育館サイズ)と鉱石の交換をねだり続けたら、数体の精霊が上級魔石の精霊になったレベル。
地竜にとっては人はありんこレベル。
長く行き過ぎて転生時に魂がリセットしきれなくて、記憶も持ってるし濃密な魔力も持ってる。
濃密な魔力のせいで髪色が親と全然違う深紫色だったため捨てられた。
ちなみに食事もせず、排泄もせず、さらにいえば性別すらなかった存在。
神と崇めたてられていて、王と名の持つものは継承の時に挨拶に来る流れができている。
パイライト
上級魔石の精霊。同士であるメノーとクオーツと共に地竜我が君大好き同盟を結んでいる。我が君大好き過ぎてその他に興味を持たず、
鉱夫くらいしか人を知らなかったために無知で赤子を何度か瀕死にさせる。
本当は我が君と鉱山に引き篭ってキャッキャウフフと鉱石を可愛がってもらう日々を送りたいが、我が君の食事問題により断念。
魔王
地竜と出来てた疑惑をかけられた可哀想な人。
現在婚活中だが、気になった令嬢もそれが理由で逃げられたらしい。どんまい
聖王
後宮にたくさんの嫁と子供を持つ超リアリスト。
たくさんの嫁は全て政略結婚。国の発展しか考えていないが、今度赤ん坊をどうするか策をめぐらせている。