閑話 勇者6 メリアヘム大戦
ゾロ目投稿です。
大結界が破壊されると、魔族、魔王軍は総攻撃に乗り出した。
光弾やら光線やら、雨のように大量の魔術が都市結界へと放たれる。
都市結界は都市全体を覆う結界であるが、その分強度は大結界に数段劣るらしい。
各方面の守護の要は破壊された大結界であった。
都市結界は破れ易い変わりに修復機能に優れ、都市結界が破れた時に大結界で防ぎ、その間に修復し大結界のダメージを回復する時間を稼ぐ。そんな役割であったらしい。
大結界の無い今、都市結界はただの薄い結界だ。
修復機能に優れていても、修復する前に通り抜ける事が出来る。
魔王軍の攻撃は容易く都市結界に巨大な穴を空け、魔王軍はメリアヘム南部に侵入した。
あっと言う間に全面的な交戦が始まる。
幸いなのは警鐘が間に合い完全な奇襲とはならなかった事ぐらい。
万全とは言えないかもしれないが、迎撃準備は出来ている様に見える。
街の南部以外からも次々に援軍が到着し、隊列も組んで迎撃にあたっている。
「勇者様、ミシェーラ姫、遅れましたが皆様は本部の大会議室へと向かわれています。御二方も念の為装備を整えそちらへ」
「ベルナー先生は?」
「私はここで見張りを続けます。“完全武装”のスクロールはお持ちですか?」
「はい、アイテムボックスの中に」
「私も持っていますわ」
「ではご無事で!」
「先生も!」
俺達は走りながら“完全武装”のスクロールを取り出す。
俺はアイテムボックスから、ミラさんはマジックバックから。
スクロールとは魔力を流すとそこに書かれた魔術が発動する巻物だ。
俺達は“完全武装”、一瞬で装備を装着する魔術のスクロールを緊急用に初日から受け取っていた。
アイテムボックスを開きながらスクロールに魔力を流すと、予め対応する紋章を刻んである装備が独りでに現れ、次々と今着ているものと入れ代わる。
3秒と掛からずフル装備姿になった。
そしてスクロールは燃えて塵に。
非常時に備えてと、初めからそれぞれの適性に合った最上級の装備を用意してくれたらしいが、まさかこんなにも早く役に立つとは。
今の俺の装備は過去の勇者が魔王討伐時に装備し、討伐後も無事だった正に最上級の装備だ。
その勇者とギフトが似ていたらしい。
この装備一式は特段特殊な効果が付与されている訳ではないが、頑丈さは折り紙付きで再生能力もあるらしい。
俺のギフトは〈全身全霊〉、持てるものを全て出し切る事が出来る能力らしく全力以上の全力を、本来引き出せない力も出す事が出来るそうだ。
その効果は装備にも及ぶ。その為、通常の装備では損耗が激しく耐えきれないらしい。
だから頑丈で再生までする装備は俺にとって最高の装備だ。
動きを阻害しない程度の鎧一式に腰には剣、それが今の俺の姿。
ミラさんは服装自体は鎧とシンプルなドレスを合わせた様な姿。
服装自体はシンプルだが、その代わり装飾品を多く身に着けている。
手には短い金の杖。
宝石の多い派手な姿である筈が、ミラさんの気品と清廉とした雰囲気には微塵の陰りもない。
「―――身に翼を 背に風を―――“追風”」
ミラさんが詠唱しながら杖を振ると、俺達に光が灯り身体が軽くなった。
まるで追い風が吹く中を駆け抜けているようだ。
明らかに走行速度が上がる。
ミラさんは光属性を得意とした魔術師。
回復や強化と言った支援から防御に攻撃と何でも出来る。
「さあ参りましょう!」
俺達は会議室を目指し全力で駆けた。
会議室に辿り着くと俺たち以外は全員揃っていた。
クラスメイトだけでなく、こっちの学園の人達も皆いる。
全員武装しているが相当急いで来たらしく、寝癖の直らない人も多い。
「優助! どこに行ってた!?」
「無事!? 心配してたんだから!」
「すまない! 心配掛けた!」
幼馴染の開星達がほっとした様子で駆けてくる。
こんな事態の時に居なくて心配をかけていたらしい。
「皆さん無事集まったようですね。現状をご説明します」
何があった答える前に大聖女のクライシェさんが駆け足でやって来た。
周りには勇者軍の人達。
「只今、このメリアヘムは魔王軍の侵攻を受けています」
ざわつくクラスメイト。
大急ぎで来たからか、拡声魔法の内容までは頭に入っていなかったらしい。
無理もない。大騒ぎでいきなり目覚めたのだ。状況がまだ頭に入ってこない人が大多数だろう。
「都市を守る結界は破られ、現在勇者軍は魔王軍と交戦中です」
そうクライシェさんが言うと、一緒に来た人達が魔術や魔道具で街の様子を映し出した。
「ここはメリアヘムの中央、最も守りが堅牢です。皆さんにはここに避難していただきました」
勇者である俺達が戦わなくて良いのかと言う声は上がらなかった。
それは戦場を見せられたからだ。
そこに映されていたのは別世界の光景。
次元が違う戦い。
雨のように放たれる矢を全て燃やし尽くす魔族。
その拡げる炎の前では、槍すらも届く前に融けて無くなっている。
その矢の煙幕を囮として、瞬きする間に迫った六人の戦士。
だがそんな戦士達も、尻尾の一振りで激しく飛ばされる。地面に叩きつけられては石畳を捲りかち割り、建物に叩きつけられては壁をぶち抜く。
しかしただ撃退されたのでは無く、打ち払い一瞬止まった隙に四方、加えて上空から大魔術。
周囲の建物ごと光や爆炎に呑み込まれる。
爆心地はクレーターに。それでもダメージを与える事には成功するが魔族を討伐するには至らず。
止まることななく攻防は続く。
どれも一瞬の出来事。
しかも各地で同等の戦闘が起きている。
どう考えても足手まといにしかならない。
戦う以前に流れ弾を避けて現場に行く事も難しいだろう。
だが、これだけは聞かなければならない。
「……勝てそうですか?」
例え答えが聞きたくないものだとしても。
「戦況はかなり悪いです。全世界に応援の要請は既に行いました。しかし、例え全ての援軍が来たとしても勝てるとは言い切れません」
そしてその答えは、予想通り最悪なものだった。
次話も閑話が続きます。
追伸、次話はゴールデンウィークでの投稿を予定しています。




