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閑話 勇者4 メリアヘムの守護神

新年度投稿です。

勇者(ボッチの同級生)視点が続きます。

 


 ミラさんは俺が視線を向ける先を次々と説明してくれる。


「あちらは“カルヴァリエの軍勢”」


 解説してくれたのは魔物や動物の半身の彫刻が所狭しと彫られている白亜の壁。

 計算され尽くした芸術のようにも、彫刻をただの石材として再利用しているようにも見える。それでいて壁は厚く高く、城壁としての役割も疎かにされていない。


「2500年程前の伝説的な錬金術師、ゴーレム中興の祖とされるカルヴァリエが造った城壁ですわ。あの彫刻の全てはゴーレムで非常時には敵を迎撃しますの。2500年間修理点検を怠っておらず、今も全機現役ですのよ。修理点検で錬金術師達の修行の場にもなっています。ただ稼働には莫大な魔力や魔石が必要で、普段は動きませんわ。

 動くのが見られるのは非常時と、定期点検が行われるカルヴァリエ生誕の日と、壁が完成したとされる日のみです」

「因みにどんな風に敵を撃退するんですか?」

「私も見た事は有りませんが口が砲になっていて、魔術や砲弾を自律的に放つそうです。外からでは見れませんが内部にもゴーレムの手足があって、それで弾を装填出来るそうですわ」


 と言う事は、壁がほぼ全面砲台になっているのと同じか。

 守るだけでは無く攻める城壁、相当強そうだ。


「あれもゴーレムですか?」


 そう聞いたのは、海に半身が浸かっている巨大な鎧。

 見ようによっては巨大騎士型ロボットのようにも見える。本当に動くならロマンが有る。


「はい、あれは現存最強、史上最強のゴーレムとも謳われる動く伝説、【煉獄の戦神イフリート】ですわ。何度も魔王軍と交戦し、勝ち残ってきた伝説のゴーレムです」


 本当にゴーレムだったらしい。

 巨大ロボットでこそ無かったが、巨大兵器が有るとは予想外だ。そしてロマンである。


「もしかして内部に乗り込めて操縦出来たりしますか?」

「そのような話は聞いたことが無いので、操縦は無理だと思いますわ。記録からすると、起動に必要な魔力を供給すれば後は自動で敵を撃退してくれるゴーレムだと思います」


 それは残念だ。


「操縦出来る可能性もゼロでは有りませんが」

「正確には伝わっていないんですか?」

「ええ、イフリートに関しては、修理点検も出来ていないのです。最強のゴーレムと謳われる理由の一つに、絶対的な防御力が有ります。およそ2500年間、外装の修繕もしておりませんが、あの通り傷一つ有りません。外装の開き方が伝わっていないので、修理点検が出来ないのです」

「説明書のようなものも残っていないんですか?」

「製作者自体が不明なのだそうですわ。時代と完成度からして高い確率でカルヴァリエの作と考えられていますが、カルヴァリエの遺物からもイフリートに関する物は何も出て来なかったそうですわ。曰く、強大過ぎる為に悪用される事が無い様、故意に秘匿したと言われています」

「確かに、2500年も傷付かず勝ち抜いて来た程のゴーレムは強過ぎますね。悪用される心配をするのも納得です。ところで、あの湯気は?」


 イフリートの周り、海からは湯気が立っていた。

 初めは時間帯から霧だと思っていたが、水面から温泉のように湯気が立ち続けている。


「私も初めて見ましたわ。ですがあれはおそらく、イフリートの熱によるものですわ」

「イフリートの熱?」

「イフリートの熱、煉獄の戦神の異名が付くようにイフリートは炎の力を持ったゴーレムです。戦闘が終わると必ず海で停止したとも伝わっていますから、イフリート自体が冷却が必要な程、熱を持っていたのだと思いますわ。ですので今も熱を秘めているのだと思いますわ。聞いた事が無いので珍しい現象だとは思いますが、不思議な事では有りません」


 2500年も冷めない熱を有しているなんて、俺からしたら十分不思議だが、異世界ではそんな事も有るのだろう。

 本当に傷付かない事といい、凄いとしか言いようが無いゴーレムだ。



 あっ、動いた。


「動きましたね」

「動きましたわね」

「“カルヴァリエの軍勢”とは違ってこっちは非常時以外も動くんですね」

「そのようですわね。初めて見ましたわ。もう何度も見た気になっていましたが、私もまだまだここに来て日が浅いようですね」


 ただ動くのでは無く、海から出て上陸し、一番近い城へと向かう。


「イフリートが向かってる城はどんなところですか?」


 そこは城壁では無く一つの城になっている。

 城を構成する城壁の高さも一際高く分厚い。

 また特徴的なのが金属で覆われている点だ。青黒く若干光っているように見える金属や、金ではない金色に輝く金属で装甲や装飾が造られている。

 魔法陣らしきものも各所に刻まれ、異世界感のある地球には無さそうな城だ。


「あそこはメリアヘムの南方面の守護を総括する勇者軍南支部です。“アズロイヤの城”と呼ばれていますわ。一つの城塞のように見えますが、古い城塞の上から完全に重なる様に何度も増築を重ねていますの。原型が確認できるものだけでも5つの城が纏まって出来ているらしいですわ。

 最も外郭、最前線にあるだけに最も力を入れて造り守られてきた場所ですわね。突破されてしまう事はあっても立て籠もり、最前線にありながら陥落した事は一度も無かったと言われておりますの」

「通り抜けられてしまうことはあっても崩れた事は無いって事ですか?」

「ええ、イフリートに並ぶ伝説ですわね。増強は続いておりますから、今なら魔王の全力の一撃でも落ちないかもしれませんね」


 そんな戦友とでも呼べる城塞へと歩みを進めるイフリート。

 やはりイフリートも何か思うところがあるのだろうか。

 ゴーレムがいまいちどのような存在か分からないが、心を持っていても不思議では無い。


「あっ、イフリートの湯気が激しくなってきましたね」

「海から出て残っていた海水が温まり切ったようですね」


 霧が出るような気温だった事もあってか、イフリートと城は湯気に包まれてしまった。


 もう少し見ていたかったが見えないので他を見よう。


 そう思って別の場所に目を向けようとすると次の瞬間、湯気が激しく紅蓮に輝き、景色が消えた。

 眩し過ぎて何が起こったのか分からない。

 咄嗟に目を光源から離すと、次には音も掻き消すほどの爆風に呑み込まれた。


 状況を確認したいが、そんな余裕はない。

 咄嗟にミラさんを覆い隠す。


 爆風が過ぎ去った時、元の場所に目を向けると、そこに有った筈の城が、崩壊していた。

 残っているのは激しい炎を纏いながら拳を城が有った筈の場所に突き付けるイフリート。


 メリアヘム最強の盾を撃ち抜く、最強の守護神の姿が、そこには有った。


次話も別視点で続きます。

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設定集
〈モブ達の物語〉あるいは〈真性の英雄譚〉もしくは〈世界解説〉
【ユートピアの記憶】シリーズ共通の設定集です。一部登場人物紹介も存在します。

本編
〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~
【ユートピアの記憶】シリーズ全作における本編です。他世界の物語を観測し、その舞台は全世界に及びます。基本的に本編以外の物語の主人公は本編におけるモブです。ボッチは本編のアンミール学園で裸体美術部(合法的に女性の裸を見ようとする部活)の部員です。

兄弟作
クリスマス転生~俺のチートは〈リア充爆発〉でした~
ボッチと同じ部活の部長が主人公です。

本作
孤高の世界最強~ボッチすぎて【世界最強】(称号だけ)を手に入れた俺は余計ボッチを極める~
本作です。

兄弟作
不屈の勇者の奴隷帝国〜知らずの内に呪い返しで召喚国全体を奴隷化していた勇者は、自在に人を動かすカリスマであると自称する〜
ボッチと同じ部活に属する皇帝が主人公です。

兄弟作(短編)
魔女の魔女狩り〜異端者による異端審問は大虐殺〜
ボッチと同じ学園の風紀委員(ボッチ達の敵対組織)の一人が主人公です。

英雄譚(短編)
怠惰な召喚士〜従魔がテイムできないからと冤罪を着せられ婚約破棄された私は騎士と追放先で無双する。恋愛? ざまぁ? いえ、英雄譚です〜
シリーズにおける史実、英雄になった人物が主人公の英雄譚《ライトサーガ》です。

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