閑話 勇者3 メリアヘムの歩み
エイプリルフール投稿です。
「こっちですわ。ユースケ様」
皆がまだ寝静まり太陽すらもまだ眠っている早朝。
俺はミラさん、ミシェーラ王女に連れられ寮を抜け出していた。
やって来たのは寮からほど近い神殿の鐘楼。
長い螺旋階段を登ってゆく。
俺にどうしても見せたいものがあるそうだ。
「これが私達の世界が誇る人類の象徴、中央都市メリアヘムですわ」
ミラさんは高い鐘楼から見下ろす街の景色を見せたかったらしい。
そういえば召喚されてから、まともに街を見た事など無かった。
そんな発想も無かった。余裕が無かったのだろう。
しかし、それは言い訳にはならない。
思わず顔が歪む。
「ユースケ様?」
「口ではこの世界を救うと言っておいて、俺は、この世界を知ろうともしていませんでした。自分の事ばかりです」
「そんな事ありませんわ! 元よりユースケ様が責任を感じる必要は無いのです! 自責の念に囚われないてください! 全ては私達の身勝手ですわ! 私達の事など、欠片も気に掛ける必要は無いのです! ユースケ様は私達を恨んでいいのです!」
彼女は、ミラさんは泣きそうな顔でそう叫んだ。
「……ミラさん」
「自分の事ばかりなのは私達の方です。ここからの景色をお見せしたかったのも、この世界に好意を持ってせめて民だけでも救っていただこうと言う、身勝手な思いからですわ」
罪悪感に苛まれ告白する様に、それでいて徐々に目を逸らしながら悲しそうにミラさんは言った。
きっとミラさんは嘘をついている。
俺をここに連れてきたのは、きっと打算の無い善意だ。
しかし、ミラさんの後悔する姿からも嘘偽りは感じられない。俺達に対する後ろめたさは紛れもない本物だ。
それが善意すらも罪悪感に塗り替えてしまっている。
「ミラさんの方こそ、そんな事ありません! 人を助けたいと言う想いは、身勝手なんかじゃない!
それに、俺達は助けられたんです。死んだ筈の俺は今こうしてここにいる。恩を返すのも、人を助けるのも当然の事です。俺達は、当たり前の事をしようとしているだけなんです」
「……ユースケ様」
「それでも俺達の為に罪悪感を抱くというのなら、俺達の為に笑ってください。俺は無理強いされた被害者にも、女性一人も笑顔に出来ない勇者にもなりたくたいです。自分の意志で人々を救う、誰一人取り残さず笑顔にする勇者になりたいんです」
「……はい」
ここで初めて、ミラさんは笑ってくれた。
……勢いで随分と恥ずかしい事を言ってしまった気もするが、そこは気にしてはいけない。
ミラさんが笑ってくれたのなら、それが全てだ。
「……ですが私からも、これだけは言わせてください。ユースケ様も、どうか思い詰めないでください。世界を救ってくれる、それだけで十分すぎます。例え世界が滅びてしまったとしても、ユースケ様達に送られるのは称賛以外にありません。
それでも責任を感じてしまう事があるのなら、どうか私も一緒に悩ませてください。私も一緒に、歩ませてください」
「……はい、お願い、します」
ミラさんの潤みながらも真っ直ぐな視線にやられ、いつの間にか俺は頷いていた。
正直、見惚れてしまった。
でも、それが間違いではないと告げるように、光が差し込んできた。
異世界の地に日が昇る。
地球と変わらない曙に燃える太陽が、異世界の地を照らし出した。
「うわぁ……」
思わず感嘆の息が漏れる。
「私のとっておきの場所です。改めて、これが私達の世界が誇る人類の象徴、中央都市メリアヘムですわ」
それはまるでテーマパーク。
某大人気鼠の国の様に様々な様式の建物が立ち並ぶ。
巨石を使った城にレンガの塔、その石材も建造物によっては黒であったり白であったり赤であったりと統一性は無い。
建築様式もギリシャやローマに有りそうな柱やアーチで組み上げられたものから、ルネサンスの宮殿の様な建築、アラビアのドーム状建築、他にも東南アジアやインカマヤ、どこかに有りそうな雰囲気の、それでいて全く違う建造物が、所狭しと並んでいる。
世界遺産を集めたテーマパークであるようだ。
しかしこんなにもバラバラであるのに、一つの街であると言う統一感もある。
なんと言うべきか一体感があるのだ。
まずこれだけ様々な建築が有って無軌道感が無い。
全てが外からの外敵に対する防衛建築であり、補修として途中から全く別系統の建築であったりするものが多い。
観光用に多くの建築様式を用意したのでは無く、必要に迫られ建てられ、一つの敵に対処すると言う目的の為に造られたと言うのが初見の俺にも分かるほど現れている。
どれも建造物が完成なのでは無く、あくまでも手段の一つなのだ。
時代文明に関係なく、一つの目的のために全力を尽くし続けた結果、それがこの都市。
人類が一丸となって造り上げた、この世界の象徴。
ミラさんが言った世界の誇る人類の象徴という表現が良く当てはまる。
ただ美しいだけじゃない。在り方こそが美しい都市だ。
人の歩みと言うものを、この世界の人類の歩みを体現している。
「気に入っていただけたようで何よりですわ」
俺の見入る様子を見てミアさんは嬉しそうに微笑む。
「ご紹介致しますわ」
そして一つ一つの建造物について説明してくれた。
「あの中央だけ神殿のような無骨な壁は“ルジェスタンの鞘”です」
まず説明してくれたのはちょうど今見ていた神殿から広がるように伸びた城壁。
見ようによっては色違いのペトラ遺跡のように見える、壁の無骨さ飾り気のなさとノートルダム大聖堂並の見事な神殿と言う真反対な組み合わせの城壁だ。
「およそ4500年前、4代魔王グラウノスがここまで侵攻して来ました。その時には既に人類も奮闘し、何とか主要な敵を魔王と魔王軍四天王エベランデにまで減らす事に成功していましたが人類の消耗も激しく、魔王に対処するのに精一杯だったそうです。その為、人類の戦力が総出で魔王を闘う間、エベランデの邪魔が入らぬよう当時最強の剣士と謳われていた当時の剣聖ルジェスタンがただ一人で立ち向かい時間稼ぎをしました。ルジェスタンは死力を尽くし、遂には何と相討ちと言う形ですがエベランデの討伐に成功しました。あの壁はその時、エベランデと共に切られた跡を神殿として補修したものです。
今は剣士の聖地として、世界中の剣士が訪れる人気の神殿ですわ。ただ信仰の場と言うだけでは無く、初代神官は、当時で言う墓守はルジェスタンの弟子だった方で、以来神官達はルジェスタンの剣術を受け継ぎ、剣士の修行の場としても有名ですの。その力で4500年の間、修繕を重ねつつも落ちた事はありません」
城壁一つにこれだけの歴史があるとは、やはりこの都市にはこの世界の人々の歩みが詰まっている。
聞いてから改めて見ると、歴史に呑み込まれてしまいそうだ。
しかしそれよりも、説明してくれたミラさんの横顔に見惚れてしまったのは、俺だけの秘密だ。
次話も別視点が続きます。
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