ボッチ8 ボッチの魔術修行
短いです。
『ギフトの次は魔術の練習をしましょう』
ボッチギフトに俺が落ち込んでいるのを見て、女神様はギフトから魔術の練習に切り替えてくれた。
やはり女神様の本質は女神様、優しい。
『地球でもやがて魔法使いになれたであろう貴方なら、すぐに魔術を習得できますよ』
……訂正、女神様は優しくない。
でも悪気は無さそうだから聞き流す事にしよう。
『ではまず、魔力操作球を出してください。ああ、もう出していましたね』
「ん? そう言えば顔洗った時から出したままでした」
朝から置きっぱにしていた水晶玉を俺は手に取る。
水出せるのこれだけだから重宝するんだよな。
でも普段水晶玉なんか持ち歩きしないから置物感覚で使った後、置きっぱにしてしまっていた。
これは謂わば持ち歩き可能なインフラそのもの、不壊だったり求めたら転移してきたりするが大切にせねば。
『その魔力操作球、一応私の創り出した神器ですからね。本来なら神殿や国の宝物庫に安置されるようなものなので本当に大切に使ってくださいよ』
「はい、大切にします……」
思った以上に大切に扱わなければならないものだったらしい。
すぐ忘れそうになるけどそう言えば女神様って本物の神様だしな。よく考えれば神授の物ならなんでも問答無用で国宝だ。
今度からはトイレの手洗いとかに使わない方がいいかな?
『いえ、迷うことなくトイレの手洗いに使ってください。洗わないと汚いですから。
それで話を戻しますが、何でもいいのでそれを使ってください』
言われた通りに風を出す。
水晶玉からはぶわっと風が生まれ、俺の髪をかき上げ服を震わす。
周りが濡れたり火傷したりしないから、単純に使うのなら風がお得だ。
『その感覚を意識したまま水晶玉を放してください』
魔力が風に変化するのを感じながら、意識しながら水晶玉をゆっくりと放す。
なんと風は発生したままだった。水晶玉も風に包まれ俺の手の間に浮遊する。
水晶玉は手がすぐに触れる位地にあるが、魔力は水晶玉に流れていない。
水晶玉を経由せずに直接魔力が風に変化している。
『おめでとうございます。今貴方は自力で魔術の発動しています』
「……もう、魔術が使えてるって事ですか?」
思った以上に早い。
ギフトと違って道具がなければ使えないからそれっぽい修行が必要かと思っていた。
そして使えるようになって大喜び。
魔法はそんなものだと思っていたのに……まあ使えて嬉しいは嬉しいが、感傷に浸れない。
『これで貴方も地球では立派な魔法使いですよ。勿論未使用じゃない方の意味で』
後やはり女神様の言葉が余計だ。余計に感傷に浸れない。
「こんなに早く魔法って使えるものなんですか?」
『いえ、普通はもっと時間がかかりますよ。平均的に五歳から練習を初めて十歳で初めて魔法が使えるようになるそうです』
「えっ? そんなにかかるものなんですか!?」
本当は俺の想像以上に時間のかかるものだったらしい。
まさか俺にこんな才能が……っ!?
俺はじっと風を発生させてる手を見つめる。
『格好つけてるところすいませんが、魔法の習得が早かったのは貴方が異世界勇者だからです。
人類の命運がかかった大ピンチ! 異世界の勇者よ! どうか我らに救いを!
と、そんな状況で一般人、それも魔獣もいない比較的平和な世界の非戦闘員をそのまま喚ぶ訳ないじゃないですか。ちゃんと喚ぶだけの理由、素質と力が異世界勇者にはあるんですよ』
まさか俺にこんな力が……っ!?
俺はじっと自分の手を見つめる。
「俺、本当に勇者召喚されたんですね」
ギフトと言う特別な力を貰ったが、勇者云々の力の実感は今が初めてだ。
理由なんて何でもいい。特別と言うだけで十分過ぎる。
まさか俺が特別な才能を持つ勇者だなんて……。
『確かにそもそもが特別でしたね。死んだ後に召喚だと現実を飲み込めずにそのまま慣れていくので、勇者の凄さに気が付く人って殆んどいないんですよね。私もすっかり忘れていました。
それにしても、貴方って厨二病なんですね』
「ん……はい?」
優越感に浸っていたが、それを取り払ってしまう聞捨てならない言葉が女神様から放たれた。
「厨二病? 俺が!?」
俺は断じて厨二病なんかではない。
もう卒業…いやいや一度も厨二病だったことなどないのだ。
外で眼帯をしたことも無いし、外でマントを羽織った覚えはない。技名も運命も家の中、自分の部屋でしか叫んだことはない。
だから厨二病ではないのだ。
『色々やってますね。そして貴方はどこまでいっても内気だと』
「なっ、女神様、俺の心を!?」
『まあ今更だと思いますよ。すでにここで色々とやらかしていますから』
否定出来ない……。
『そんなに気にしなくてもいいと思いますよ。地球では厨二病でもこの世界では当たり前のこともありますし、今までの行動もただの馬鹿じゃなくて、厨二病ってことに出来ますから。馬鹿よりも厨二病の方がマシ……なんですかね?』
「うぐっ! 俺に聞かないでください! と言うか今まで俺のことを馬鹿だって思ってたんですか!?」
『はい』
「即答!? でも思い返すと否定が出来ないーーっ!!」
両手で顔を覆いながら、仰け反り叫ぶ。
厨二病を知られた羞恥心、そして馬鹿にされても怒れない、否定出来ない行動を見せた醜態。
今の俺にはこうやって叫ぶことしか出来ない。
視界を手で塞ぐと脳裏に浮かぶのは失態醜態の数々。
どうすれば救いがあるのだろうか?
もうヤダ……。
次話は2時間後に投稿します。