ボッチ59 ボッチは未来を切り開く
年始投稿です。
勇者軍の撤退に呆気にとられ、忘れていた、もしくは気付かなかった緊張感は一瞬で押し寄せ、俺の腹に直撃していた。
今にでも決壊してしまいそうだ。
だが滅びた都市に、トイレなど有ろう筈もない。
有った痕跡すら見つけられない滅び具合だ。そろそろ、島という地形すら無くなるだろう。
トイレに行くには転移魔法で最果てに帰るしか無い。
しかし転移魔法は妨害されている。
犯人はバールガンだ。奴から転移魔法を妨害する魔力の流れを感じる。
一刻も早く奴を滅ぼさなければ、俺の人としての尊厳は終わる。猶予は無い。
何が何でも、早急にバールガンを滅ぼさなければならない。
そこに立ち塞がるアンデッドども。
殺意しか湧かないし沸かない。
トイレへの道を邪魔するものは、等しく木端微塵に滅ぼしてやる!!
もう勇者じゃなくたっていい。
勇気は無い。
だが殺意は十分。
戦意も衰える事を知らない。
もはや勇者である必要すら感じられない。
例え誰も求めて居なくたって今なら滅ぼせる。
正義も悪も、勇者も魔王も関係無い。
誰がなんと言うとトイレへの道を塞ぐのは滅ぼさなければいけない俺にとっての絶対悪、それだけだ。
前の敵を弾き弾き薙ぎ払う。
行く手を阻むアンデッドには凄まじい殺意を覚えるが、深追いをせず倒す事自体を考えない。
ただ道を阻む場合のみ打ち払う。
何より時間が優先。
今は一刻を争う時。
進む事のみを考える。
超演技を待ちいて使えそうなありとあらゆる技を再現し、前に撃ち込む。
骨が軋み血管が破けようが、使えない属性魔法を強引に発動し魔力が暴走しようが関係無い。
「お前だけは、何としても倒す!!」
『倒れるのは貴様だ! 精々抗うがいい!!』
遂に相対したと言える程の距離まで辿り着いた。
もう道を切り開こうが関係無い距離。
後は倒すだけだ。
「“ギャラクシアス”!」
『“炎彗星”!』
夜空を割くような光流の剣と、巨大鎧の燃え盛る拳がぶつかり合う。
凄まじい轟音と衝撃波が拡がり、融けた瓦礫を巻き上がった。
やはり、そう簡単には倒させてはくれない。
最後まで残るアンデッド、そして巨大鎧が攻撃を通さない。
衝撃波だけでも相当な衝撃があったが、もはやそんなものでダメージを受ける存在はここには居ない。
残るは化け物中の化け物。
もう攻撃を避けられる事は無い。
だが、正面から受け止められた。
『“無限崩落”!』『“千手万壊”!』『“サウザンドスラッシュ”!』『“流恒星”!』『“ディメンションブレイク”!』
そして、大技を放つ間に縦横無尽にとんでもない衝撃が襲いかかる。
黒く赤い融けた鎧のような姿をした巨人は重力、いやあらゆるものを引き寄せ奪う力を込めた拳を振り下ろし、正面の凹凸は判別出来ない程の漆黒の体躯を持ち、影なのか肉体なのか分からない足元に広がる闇から無数の腕を伸ばした化け物は、無数の手を伸ばして貫手を放つ。
加えて装備万全の英雄アンデッドが無数の斬撃を放ち、接近していなかった為に数を減らせなかった魔術師の英雄アンデッドの青白く輝く高熱高速の火球や、空間を切り裂く魔力の刃が撃ち込まれる。
瞬く間に何層もの空洞が破られた。
移動に向いておらず俺の道を塞いでこなかった化け物アンデッドの参戦が痛手過ぎる。
想定以上だ。
そしてもう、すり抜けられるような相手では無い。
倒さなければ、バールガンも倒せない手練達だ。
俺の災害魔法魔法や再現した技は、必ず技で迎い撃っている事から、無敵の相手では無いようだが、代わる代わる迎撃してきて隙を一切与えてくれない。
災害魔法は避けられる事もある事から、十分な威力を持っているようだが、巨大鎧はそれを技も使わずに防いでしまう。
強過ぎる。
この街が滅びる過程を見た訳ではないが、どのアンデッドも陥落までさせられるかは兎も角、大規模に破壊する事くらい簡単にしてしまいそうだ。
しかし引く訳には行かない。
終わりは迫って来ている!
時間が無い!
ペット皿の聖水を飲み干す。
全力全開、如何に反動が大きかろうとも、人の尊厳以外の全てを出し尽くす。
攻撃を受け止められるなら、受け止められなくなるまで攻撃するのみ。
「“業火滅消”!、“ギャラクシアス”! “サンダーストーム”!」
災害魔法を放つと剣を振り下ろし、雷の荒れ狂う竜巻を身に纏う。
そして並列発動が可能な限り、再現した魔法、青白い火球や風の刃に空間の刃、石の槍や雷の槍などを放ってゆく。
高威力だが、適正を獲得している訳ではない雷属性の発動は負荷が大きいが致し方あるまい。
「“ギャラクシーソード”!」
剣を振り下ろし終えると休まず次の大技。
魔力を込めた光の剣で一回転。
「“ムーンブレード”!」
そしてその勢いのまま半円状に巨大な月の如き斬撃を放つ。
その間も魔法の連発は止めない。
反動が凄まじい。
もう服も黒いのに、血と分かる程に染まっている。
血管や筋の斬れる音と、それが再生される音がずっと聞こえてくる。
だが、止まるわけには、行かない!!
歯を食い縛って耐える。
汗で視界が歪む。
まずい! このままでは魂より先に尊厳がこんにちはしてしまう!!
「俺は必ず!! 未来を切り開いて見せる!!」
『私も、手伝います!』
仮面から、暖かい何かが全身に拡がった。
何故か分かる。
これは女神様だ。俺の中のあらゆるものが上がってゆくのを感じる。
そして脳裏に浮かぶ言葉を詠唱する。
『――愛しく短きその命――』
「――箱庭を去りて進む――」
『――神の与えし運命を逃れ――』
「――願いを抱き叶える為に――」
『――試練に挑む――』
「――孤独な未知へと――」
『――それは慈悲――』
「――それは奇跡を掴む旅路――」
『――神は認めている――』
「――知っている――」
『――ずっと見ていたから――』
詠唱は女神様の詠唱と重なった。
「『“神はここに在り”!!』」
そして俺は、女神様と一つになった。
『私の力を託します! 長くは持ちません! 決めてください!』
これなら行ける!!
「“聖域”!! “業火滅消”!! “無限天河斬”!! “天地動鳴”!!」
聖域で再生力を極限まで上げ、自分を絞り出すように全てを技に変えた。
莫大な炎が巨大鎧を呑み込み、同時に再現しようとした技は新たな武技となり無数の光の斬撃や雷と瓦礫と風の刃が渦巻く大竜巻となりアンデッドを襲う。
『オノぉれぇーーー!!!!』
アンデッドは青白い炎を噴き出して燃え、巨大鎧もバールガンも例外無く青白い炎に焼かれる。
依代である肉体を破壊する以上に、根幹的な部分にまでダメージを与える事に成功したようだ。
完全に滅びるまで技を止めない。
幸い、女神様と聖域のおかげで予想以上に反動が少ない。まだ終わらない。
この身が持つ限り絞り出す。
そして遂にバールガンは灰となった。
空間属性魔法は、使える!!
「待て勇者!! ここまで我を愚弄してただ済むと―――!!」
なんかズタボロの金髪イケメンが何か言っている気がするが、そんなのどうでも良い!!
転移門に速攻で飛び込む!!
そして俺は無事、未来を守り通したのだった。
次話は節分での投稿を目指したいと思います。




